悪殺し-拾伍-
ーー48ーー
最初目を覚ましたサヤさんは。
キョトンとした様子でこちらを見。
次に自分に向けられた銃を見。
自分の手足が縛られていることを認識し。
銃を持つ黒服の男を見据え。
「ん゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!!!」
パニックを起こした。
ーー49ーー
最悪だ。
どうしてよりにもよってこうも都合悪い事が起きるものなのか。
どうして“悪”いことばかり起きるものなのか。
………。
いや、今はそんなことに思考を費やしている場合ではない。
今は、そんなことよりも。
サヤさんを。
アレを。
どうにかしなくては。
それがこの僕“悪殺し”としての役目なのだから。
ーー50ーー
あれほど閑散としていた廃港町の静寂は破られた。
「てめっ、このっ、やめろ!」
パニックを起こしたサヤさんを取り押さえようと黒服のリーダーは奮闘するもサヤさんはじたばたと動き回り、黒服のリーダーの顎に縛られた足が直撃。
「がっ……!」
そのまま車から外へ放り出されるようにして背中から倒れた。
「り、リーダー!?」
「っ!」
部下達の視線が倒れた黒服のリーダーの方へ向かうなか、僕はすぐさまサヤさんの元へ向かおうとした。
ダンッ!
しかしすぐ目の前で銃弾を撃ち込まれ、足止めをされてしまう。
「動くな!」
「くっ!」
僕には効かないと何度言えば分かるんだ!?
いや何度も言ってないな。言わないことにしたんだ。
だが困ったことにこれでは僕はサヤさんに近づく訳にはいかなくなった。
万が一銃の雨の中にとらわれた僕が近づけばその流れ弾はサヤさんに行くだろう。
そんなのはダメだ。
こうなったら一度彼らに針を刺して動きを止めてから………!
そう思い黒服達にバレないよう手元から極小の黒い針を出し、いざ投げようとした。
「妙な真似はぁするんじゃねーぞ?」
すると横から声が。
見ると先程サヤさんに顎を蹴られて倒れ込んでいた黒服のリーダーが立ち上がっていた。
てっきり気絶してるものかと思っていたが見識が甘かったらしい。
再度向き直り先にこちらからと出した針を即座に黒服のリーダーに投げようとした。が。
黒服のリーダーの銃は地面を這いずり回るサヤさんに向けられていた。
サヤさんはパニックだからか逃げることにしか頭が働いていないのか銃を向けられていることに気づいていないようだった。
「動くな。動けばぁコイツを撃つ。ハッタリかましてると思ってんならぁまずは右足、次に左足、腕、と順に撃っていく」
その言葉に僕の動きは止まった。止まるしかなかった。
僕の中にあるサヤさんを傷つけないという制約が僕に重たい鎖として身体にまとわりつく。
クソッ、早くしないと。
焦燥感からか気がつけば歯を噛み締めていた。
「おい、コイツが妙な動きぃ見せたらすぐにこの娘に向かって発砲しろ」
「はい!」
船上にいる部下に指示を出し、そのまま蹴られた顎をさすりながらサヤさんに近づく。
ダメだ。
未だ這い続けるサヤさんにその手が伸び。
ダメだダメだダメだ。
“悪”がサヤさんの髪に触れようと───。
「ダメだ」
気づけば口が動いていた。
動けば撃たれるとか、サヤさんが傷つくとかそんなことは頭になく。
身体が動いていた。
「その人に………ソレに触れちゃダメだぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
「あ?んだよ?」
しかし僕の叫びは虚しく散るばかりで黒服のリーダーはサヤさんの首元を腕で囲むように捕まえた。
涙目になっているサヤさんと目が合った。
瞬間。
ボッ!
と、黒服のリーダーの左腕から黒い炎が立ち昇った。
悪殺し-拾陸-は10/18の12時に掲載します。