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悪殺し  作者: 皆口 光成
14/28

悪殺し-拾肆-


ーー45ーー




バカな。



なんでこんなところにいる。

どうしてそこにいる。

よりにもよってなんでそこなんだ(・・・・・・・・)



僕の思考は一瞬のパニックを起こしながらもすぐに冷静さを取り戻す。



いや、理由は分かっている。

彼女はどうしたってそういう所(・・・・・)にいてしまう運命の人だからだ。

もはや理屈とか御託を並べてもまるで意味が無い。

彼女だから、という言葉で他ならない。



今はそんなことよりも。



そんなことよりも。

それよりも。



「動くんじゃねぇぞ」



黒服のリーダーはサヤさんを人質にして牽制していた。



「り、リーダー!?」


「何を!?」



部下の方はそんなリーダーの行動を見て驚きの声をあげる。

どうもこの状況は部下達も予想外だったようだ。



「それはお得意様の商品…!」


「ウルセェ!黙ってろ!」



ほとんど獣じみた怒号が響く。



「俺だってこんな三下がやるようなことぁ、やりたくなかったんだがな……。ことここまで追い詰められちまったら、んなプライドは邪魔でしかねぇからな」



目は真っ直ぐにこちらを、しかし銃口はしっかりと人質のサヤさんに向けていた。

車の後部座席に『薬』と一緒に押し込められるように座っていた彼女は気絶していた。

幸いにも。



「そういう意味では俺ぁプロ失格だ。最後の最後まで我を通すことが出来なかったんだからなぁ」



だからこその降参だ、と黒服のリーダーは言う。が。

今の時点の僕にとってそんな話はどうでもいい。



「……分かりました」



そう言って僕は手に持っていた黒い針を消した。



「何もしない代わりに条件があります。彼女には決して触れないでください」




ーー46ーー




立場が逆転し、サヤさんを盾に手も足も出せない状況で僕は倉庫の壁際まで追い詰められていた。

今僕は壁に手を合わせ、相手に背を向け、無抵抗の姿勢を取っている。

黒服の部下の一人が見張りのために付いている状態だ。



銃は効かないと言っているのに構えてしまう辺りはもはや習慣化してしまっているのだろう。もう言わないことにする。



残りの部下達は逃走用かそれともここに来る際に密航に使ったものか、倉庫に隠されていた船の準備に取り掛かっている。



そして黒服のリーダーとサヤさん。

この二人は僕の見える範囲で最も遠い位置にいた。

僕が言った通りサヤさんには触らず、座席に座らせたまま銃を突きつけている。



サヤさんはまだ気絶したままだ。




ーー47ーー




船の準備は粛々と行われた。



車に積まれた『薬』は全部積まれ、船もエンジンが掛かり、いつでも出れる状態となっている。

今僕と黒服達は船から伸びたタラップを挟むように陸の上と海の上で隔たれている。



黒服のリーダーはと言うと僕の横、黒塗りの車を移動させてなおもサヤさんを人質にしている。

わざわざ車を移動させたのは『サヤさんに触らない』という条件を律儀に守っているからだろう。



裏の人間といえど守るべきものは守るらしい。



「リーダー!船はいつでも出せます!」


「早くお乗りください!」



黒服の部下達は僕という脅威から一刻も早く去りたいからか半ば急かすようにまくし立てる。



「ウルセェ、分かってらぁ」



そう言って船に乗り込もうとするところを。



「待ってください」



僕は言葉で止めた。



「その前に彼女の解放をしてあげてください。もう構わないでしょう」



おどけて言ってみせたが内心は余裕なんてものはない。

事今においては僕の目的はサヤさん彼女を彼らから引き離すことしか脳にない。

一刻も早く。



「あぁ、確かにそうだなぁ…」



黒服のリーダーがこちらを見る際。



一瞬顔を綻ばせた時。

“悪”の瘴気がより黒く、どす黒くなった。



「約束を違える、ということですか?」


「約束は違えねぇさ」



ヘラヘラと“悪”は嘲笑うかのようにこちらを見ていた。



「ただ少しばかりの内容の変更さ。この娘は返す。だがそれは俺たちの安全が保証されてからだぁな」


「!」



コイツ……そういうことか!



おそらく黒服のリーダーの狙いは僕を傀儡にすることだ。

突如人質として出したサヤさんと僕に何らかの関係性、少なくとも僕が手を出せない程の事情があることに勘付いたのだ。



それをこの男は利用しようとしている。



サヤさんを盾にこの僕を、“悪殺し”に首輪を掛けて飼いならそうとしているのだ。

何が約束は守るだ。何がプライドがあるだ。約束は違えねぇだ。



性根が腐りすぎて悪臭を放っている。

どうしようもない程の“悪”の香りを。



例え仮にこのままコイツ達を逃したとしてもサヤさんは帰ってこないだろう。また別の理由をこじつけて僕を従わせるだろう。

そうやって徐々に従順になるようにしていくのだろう。



その気になればこの場全員瞬殺なんて訳ない。



でも。



僕はこの男に従うほかない………!!



「分かった」



僕は自分の中にある一種の感情を必死に抑え込みながら答える。



「お前達の安全が保証されるまでは僕は何もしない。今すぐに殺しにかかることもしないし追いかけもしない。そちらの言う通りにする」



だから、と。



「彼女には……どうか傷一つ、指一本も触れないでほしい………」



僕は深々と頭を下げた。

頭を下げるしか、出来なかった。

この後どうなるかなんて分かりきっていたのに。



「ハッ、どうやらよっぽどこの女にご執心らしいなぁ」



ニタリと笑みからどす黒いものが零れ落ちる程に目の前の“悪”はその色の濃さを増していた。



「安心しろよ。お前が余計なことさえしなきゃぁこの娘には危害を加えるつもりは」



と、まだ黒服のリーダーが喋っている時。



「んっ…………」



サヤさんが目を覚ました。



悪殺し-拾伍-は10/17の12時に掲載します。

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