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悪殺し  作者: 皆口 光成
11/28

悪殺し-拾壹-


ーー36ーー




そもそも事の始まりはある物(・・・)がユニアドに出回ったことから始まる。



それは一見『薬』に見える物であるがその効果はユニアドの住人、特に生徒には魅力的なものであった。

才能の開花、能力強化。



それがその『薬』の効果であった。



最初は眉唾ものでほとんど誰も信じていなかったが、しかし才能と能力が自分の立ち位置を決めてしまうのがここ、ユニアドだ。

それがない者にとってそれはまさに藁にもすがる思いであったことは想像に難くない。

そして実際それを使った者の才能、能力が向上したという噂が流れ始めてから『薬』を求める人たちが続出。



街に『薬』が出回り始めた。



事実その『薬』を服用すると力が強くなった、人とは違う感性が手に入ったという報告もある。

信憑性が増した『薬』は更に街に行き渡り、ついにユニアドの学生にまでその手が回り始めた。



どうしようもない“悪”の手が。



『薬』の入手方法は実に単純なものだ。

金を持って決まった場所に決まった時間に行き、そこで買う。それだけ。

つまり金さえあれば『薬』は手に入った訳だ。



ただ問題なのがその金額。金額がとても一高生で買えるような値段ではなかった。

だからあのグループは金を集めていた。その『薬』を手に入れるために。



才能を得るために。

能力を得るために。

嘘だと気付かずに。




ーー37ーー




その組織は[闇]と呼ばれていた。



人目がつかないよう暗闇の中で活動することが多いことからか、制服がもれなく全員黒服だからか。

それとも人の心を表したものなのか。

いずれにしても。



『薬』を街に流しているのは外周部に立ち並ぶ建造物の一つ、今は誰も使わなくなった廃工場から流れているのがわかった。

そこに単身、一人で乗り込んだ。



しかも真正面から。



キィ…、と大分昔から使われなくなった鉄の門扉を開く。

その音に中の黒服達の視線は全部こちらに降り注いできた。



「誰だテメェ?」



黒服の一人がこちらに話し掛ける。見れば当たり前かのように全身から黒い瘴気である“悪”が立ちこめている。



「…っ、誰だって言ってんだろーが!!」



返事をしなかったことで舐められてると思ったのかこちらに殴りかかってくる。



ドドドッ!



ので針を刺して殺した。



「っ!?」



それにより警戒を高めた黒服達はこちらに銃を構え発泡してきた。

そのいくつかの弾に着弾してしまう、も、まるで何事もなかったかのように僕は普通に黒服達の方へ歩いていく。



そんな僕に黒服達はまたも発泡、発泡、発泡。



しかし、いくら撃てども撃てども僕が倒れることはなかった。

倒れるどころか弾に当たってる素振りもない。



いや、弾は当たっている(・・・・・・・・・)。当たってはいるがそれは全て僕の後ろに貫通しているだけで当たる端にその跡が消えているだけだ。



悪殺し(ぼく)”にそれじゃあ殺せない。



パニックになった黒服達はヤケクソに発泡を繰り返し、やがて弾が尽きたのか一人背中を見せて逃げ出した。

その逃げた黒服から反対側から現れた別の黒服の男に殴られ、逃げた黒服は気絶した。



「何の騒ぎだぁ?」



その声を聞いた黒服達に緊張が走るのを見る限り、どうやら彼がこの組織のリーダー、今回の事件の大元であると認識した。

“悪”の瘴気も他とは比べものにならないくらいに立ちこめている。



「て、敵です!」



黒服の一人がそう告げると「敵ぃ?」と黒服のリーダーは初めてこちらの存在に気づいたかのように見やる。



「んだよただのガキじゃねぇか。とっとと捕まえて売りに出すぞ」



心底どうでもいい、というより今そんなことに構ってられないとも言うように溜め息混じりに言う。



「で、ですが怪しい武器を使ってきます!それにこちらの弾も何故か効きません!」



別の黒服の一人がそう告げると。



「はぁっ?」



と、まるで「お前頭とち狂ったんじゃないのか?」と言いたげに嫌味たっぷりにその黒服を見。



そしてこちらを見る。



ダンッ!!



いきなりだった。



気づけば僕の左目は撃ち抜かれており、それに気づく頃には撃ち抜かれた箇所が戻って目が復元され、再び視力が戻った時であった。



「うおっ、マジかよ」



その様を見てさすがに驚いたようで黒服のリーダーも銃をこちらに向けたままに近づく。

僕も復元された左目に手を当て、指の間から黒服のリーダーを見据えるようにし。



「これは驚きですね。まさかここまで早撃ちの方がいるとは思いませんでしたよ」



と、率直な感想を述べた。



「頭ぶち抜かれたのに平然と話す化け物に言われてもな。なんだ?この街は不死身の人間でも作ってるって言うのか?」


「いえいえ」



相手に対して胸を手に、帽子を横にして挨拶をするかのように頭を下げる。



「僕はこことは別物ですよ」



そう言っても。



「ま、化け物に変わりはないな」



と身もふたもないことで言いくるめられてしまった。



「おや?もっと驚くと思ったんですがね」


「この世界に入って長いんでな。それこそ怖気の立つようなものなんてザラにあらぁ」



おどけるように言ってはいるが警戒は解かずこちらに銃を構え続けているところを見るに伊達にリーダーをやっているわけではないのだということを感じさせる。

黒服のリーダーは口を開いた。



「目的は『薬』か?」



その問いに対し。



「いえ、違いますよ」



と、僕は答えた。



目的はあくまで“悪”であって僕にとって『薬』はその起因でしかないからだ。

まぁ、そうなると役割上『薬』も目的の一つとなる訳だが。



「なるほど、そういうことか……」


「?」



なにやら黒服のリーダーが呟いていると。



「分かった。こうしよう。こちらの分け前の二割…いや三割をやろう。その代わりお前もコイツを裁くのを手伝え」



そう言って黒服のリーダーは銃をしまい、後ろに積んである『薬』を親指で指し示した。



「!!?」


「え」



なぜそうなる。



僕が理解に追いつかずにいると。



「り、リーダー!?いいんですか!?そんなこと!!」



と、同じく部下の黒服達も声を揃えて黒服のリーダーに言い寄っていた。



「ウルセェ!!黙ってろ!」



しかしそれを一喝して黙らせてしまった。

個人的には僕も同意見なので理由を知りたかった。



「どうだ?悪くない話だろ?この『薬』は今やこの街では欠かせない代物となってるからな。値段なんて相手次第ではいくらでも決められる。つまり今後この街を薬漬けにしちまえばこの微量クラスでウン十万の価値を叩き出すことが出来るんだぜ?」



ヒラヒラと『薬』を手に持って見せびらかすようにしてみせる。



「しかもこの『薬』にゃ人間の能力を解放するという作用がある。使い方次第では誰だって超人になれるというお墨付きだ。今は一般市民に振舞っているが所詮ゆくゆくは国の上層部にでも売りつけようと画策中な訳よ」



ニヤニヤと笑ってこちらを見る。

まるで敵意など無いとでも言わんばかりに。



「この世界に長いから知ったことなんだが俺たちゃ所詮人間だ。どこまで言っても人間。一人で出来ることなんか限られてくる。何かデカイことを成し遂げるにはそれなりに数が必要になる。人、金、情報…他にもそれを繋ぐパイプもな。ただ目の前のことだけに執着するよりも先を見据えたやり方をしなくちゃならねぇのさ」



饒舌に語る文句にただ淡々と聞いて。聞くだけ聞いて。



「どうだ?さっきも言ったが悪くない話だ。お前ならこの世界の上に行くことも夢じゃない。俺たちと共に世界を裏から牛耳ろうじゃないか」



この“悪”の真の意図を理解した。



この“悪”、黒服のリーダーは先ほどの銃撃の後僕に頭を撃ち抜かれても効かないことを知るや否や自分たちに危害を加えないように僕を説得しているのだ。



なんとも、辟易する。

なんなら呆れた、という方がいい。

いっそ馬鹿だと言ってもいい。



敵わないと踏んであっさりと手のひら返して敵を懐に入れて懐柔しようとは。プライドというものがないのだろうか?

いや、大まかこの黒服リーダーが考えていること、やっていることに間違いはない。事実この黒服達では、リーダーを含めても、誰も僕には勝てないのだから。



僕の瞬殺で終わる。

文字通りに。



唯一の間違いは僕の目的・・だ。



先ほどの問答で僕が『薬』に興味が無いと知り、咄嗟に黒服のリーダーは僕の目的がその『薬』によって得た収益、つまり金だと思ったのだろうが。

そのために僕に利があるように甘言を垂れ流しにしていだが。



そもそも僕の目的は“悪”を殺すこと。

つまりこの場全員の皆殺しだ。

それ以上も以下もない。



「有難い話ではありますがお断りします」



僕の皮肉を込めた答えに黒服のリーダーの顔色が暗くなる。



「何故だ?」



短く、問う。



「確かに魅力ある話ではありますが僕は別に裏の世界の住人という訳ではないし、その世界の頂点を目指してる訳でもなく、ましてやお金にも興味が無いからですよ」



そもそも、と僕は続ける。



「この『薬』もただの違法薬物ですしね」



悪殺し-拾貳-は10/14の12時に掲載します。

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