悪殺し-拾-
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どうして僕があのような真似をしたかについてではあるが。
理由は三つある。
一つ目はこの件に関してハゼトさんとミカナさんの二人に離れて欲しかったからだ。
あの二人にいつまでも関わられていたら“悪殺し”としての僕の活動がやり辛くなる。
そのためにも一刻も早くあの二人にはご退場願うしかなかった。
二つ目は僕が“悪殺し”であることを知られないようにするためだ。
“悪殺し”という存在は“悪”に対して絶対的な力を持つ。
それを知られてしまうとその力を利用しようとする“悪”も当然現れてくる。もちろん殺すが。
しかし僕自身が“悪”を引き寄せる存在になってはいけない。
それはまた別のモノの役割だ。
そして三つ目であるが。
あの下っ端二人があの生徒から金を巻き上げた本当の理由を知ったからだ。
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夜。
【ユニアド外周部】
空もすっかり黒に染まり、街灯があまりつかない外周部では一面暗闇で何も見えなくなる。
中心部から発せられる街の光がここからでも眩しく感じてしまうほどに。
ユニアド外周部の特徴はユニアド学園、中心部から離れれば離れるほどにその廃れ具合が増すことだ。
中心部に比較的近い外周部ではまだかろうじてライフラインが残ったゴーストタウンかのように思えるが。
そこからさらに奥、中心部から遠い外周部はまるで世界が変わったかのように荒れに荒れている。
壁が剥がれて中の骨組みが見えているのはまだいい方で、中には全て剥がれて骨だけとなっている物。建物の老朽化により支えられなくなり崩れた物。その影響でアスファルトの道は亀裂だらけ、隆起してるものもあってとても人が住めるなんて思えない程にここは廃れていた。
当然電気も水道も随分前から止まっており、ここで暮らそうなんて思う人は誰もいないだろう。
まさに世紀末だ。
人なんて誰もいない。
まさに世界から忘れ去られた街。
忘れられる街。
忘れていく街。
そんな街にはある者達が集まりやすい。
それは普段世間の日の目から避ける陰りのある者達。
表沙汰に出来ない者達。
強大な“悪”を持つ者達。
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雲に隠れていた月が現れ、暗黒に包まれた世界にも光が差し込まれた。
それはまるで母親が子どもを慈しむような優しさがあり、どこか安心感を得られる。
その光の下に僕の目に映し出される世界はというと。
一面、どこもかしこも黒い瘴気、“悪”で充満していた。
まるで工場から漏れ出る排気ガスかのようにそれは月の光を汚染していき、たちまち世界はまた暗黒に塗りつぶされていく。
直接吸っても体に害はないのだが、無意識に口元を押さえてしまう。
匂いなんて無いはずなのに臭く感じてしまう。
見ているだけで気分が悪い。
かと言ってこのまま背を向けて見ないフリをすることは出来ない。
この黒い瘴気は僕が殺すべき対象がいるというサインなのだから。
僕が殺さなくてはならないのだから。
掛けていた眼鏡を外す。するとその眼鏡はまるで周りと同じように黒い霧状に分解され、僕の体を全身覆う。
その間に着けていた黒のカラコンを外し、ケースにしまう。
これにより僕の本来の目の色、血のように真っ赤な目が現れる。
その頃には体を纏っていた黒い霧は徐々に形を成していき、先程まで着ていた白の制服は黒い燕尾服に変わっていた。
最後に頭上に舞っていた霧が黒のハット帽に変われば。
まるで暗闇に浮かぶ血眼の死神、“悪殺し”サツキの完成だ。
夜の時間が始まる。
悪殺し-拾壹-は10/13の12時掲載します。