そこは…
そこは無人の空間だった。
扉を開けると廊下があり、同じような扉が幾つもあった。
ノックしても返事は一切なく、思い切って入ってみても誰一人といなかった。
「ここはいなさそうだな…残るはここだけか」
しかし洸希はある一つの扉を避けていた。
そう、それは異様な大きさと威圧感を放っており、アニメなどで見る王様の部屋みたいな感じだったからだ。
(こうしていてもしょうがない。思い切るか)
洸希はそう判断し、早速扉に手を掛ける。
そして次の瞬間、扉を力いっぱい押し…。
スーー
重そうな扉だったため、ギギギとかいって開くのかと思ったのだが、意外にもあっさりと扉が開き、拍子抜けする。
「お邪魔しまーす。どなたかいらっしゃいますか?」
あまり怖がらない声でそう尋ねた洸希だったが、返って来る言葉は無い。
やっぱりここもか…と納得と落胆の入り混じった微妙な感覚のままテクテクと奥部へと進んで行く。
そしてこの後、洸希は奇跡を見ることとなる。
少し進むと、そこは大広間となっていた。
どこか見たことのあるような風景で、ゲームの神殿をイメージさせる。
その最も決定打となっているのが中央に飾られた巨大なステンドグラスだろう。
他にも不思議なランタンのようなものが永遠と明かりを照らしてくれる、そんな雰囲気を醸し出している。
そして中央の祭壇のような場所にはファンタジーでしか見ることのできないあの魔導書がずっしりと置かれてあった。
洸希はその光景に何とも言えない表情を浮かべる。
今まで画面の奥や文字の中でしか見たことがなかったその幻想的な光景に目だけではなく心も奪われている。そして意図せずとも勝手に脚が動き、その祭壇に導かれるように歩く。
やがて祭壇の前に着くと、自然とそこに彫られた字へと注意が引く。
そこにはそう書いてあった。
〖我 が 神殿 に 来た 大い なる 者 よ。
御仁 に 我 が 宝、”神秘の魔導書” を 託す。
善 なる 者 に は 力 を、 悪意 ある 者 に は 罰 を〗
…返答に困る。
先ずここは何者かの神殿で間違いないだろう。
そして………恐らくここはファンタジーの世界だろう。
現実世界で魔導書などありえない。
(さて、ここに来た原因は分からないが…精一杯生き延びるためにも、魔導書を託されよう)
そう自分中で整理を付け、洸希はその魔導書へと手を伸ばした。
すると、意図せずとも勝手に最初のページへと導いてくれた。
流石は”魔導書”だ。
そしてそこには…【思想魔法】と書いてあった。