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抜け殻ヘブンズフロアー

作者: めが

ボケーっとして


段々酸素も薄くなって


意識もとおのいていって


眠るように


抜け殻になったのだと思う



【抜け殻ヘブンズフロアー】



一杯のコーヒーがきっかけだった様にも思うし、

しかしそれが紅茶であったかもしれない。


大人びた空気を、感じたのだと思う。

嗜好品という言葉も、

カフェインも、

淹れるための所作も、

奥深いという噂も、

なにかに拘るという事への


「憧れ」が、


その一杯に手を伸ばす羽目になった動機だ。


そして私は琥珀色かセピア色のその液体を飲んで、

そしておかしくなった。


唐突に訪れた血管の拡張作用が、

神経増幅作用が、

アルカロイド化合物の一種であるカフェインの影響でそれまでの私の頭の中のニューロン組織を破壊した。


考えが止まる。

集中できない。

五感が冴えすぎて苦痛だ。


見たくないものを覚えてしまうし、

唾液の僅かな味も敏感に感じたし、

嗅ぎたくない匂いもわかってしまう。


気色の悪い空気の密度差までも把握して、

壁の向こうの音までくっきりと聞こえた。


全く不要な情報が雪崩のように入り込んできた。


それぞれを大量に処理し、

認識し、

区別し、

分類し、

記憶に残す。


全く不要で不毛で不健康なその作業が

苦痛だった。


そして、


やがて考えながらにして、


全てが薄れていく感覚を覚えたのだ。


まるで階段を登りながら屋上を目指す時のような、

屋上への扉を開けた時の眩しい光がさして、

目の前が真っ白になるときのような。


私はその現象に魅入られた。


私はそれを「薄れゆく天上への意識」と呼んだ。


誤解のないように言っておくと、

私は私のことを天使か神だと考えている。


あまりにも怠けるものだから、

次元落ちしてここにたどり着いた高次元の存在。


そして高次元であると同時に低次元での自我分岐に成功した共有された全体意識の中のひとつ。


私はこう考える。


この人間が個体として自分自身の知覚する全体意識の理想の果てには神やそれぞれの至高の存在といった理想像が存在する。


その思考構造を逆手に取って、それらに名や姿を与えたのが宗教だと考えているが、無宗教の多い日本人に取ってそれら理想像の存在は往々にして自分自身の延長線上にあるなにかだ。


しかしなにかを信仰してしまうということは、それが記憶であれ、姿であれ、戒律であれ、それぞれが宗教への信仰心と歪曲した自意識を内包してしまうことで、歪曲した解釈や、倫理観を形成して、人を狂信的にさせるものであると認識している。


この理論を踏まえた上で再度こう記そう。


私は自身を天使か神だと考えている。


つまり極めて無宗教として全体意識があるべき姿に落ち着こうとすると、自分自身の延長線上の存在を至高の存在として認識しようとするが、それが自身の中から生まれ、自身が考えて生み出している至高の存在ということに考えが帰還してしまう。

よって自身が至高の存在としようとしているものも自身の思考の中から生まれていることから、そんな至高の存在を考えてしまう自分の全能性が図らずも浮き彫りになってしまうのだ。


まさに自意識のマクロインフレーションが巻き起こる。


それが私は私自身を特別であると認識する動機であり、証明なのだ。


ところがこのマクロフレーションには欠陥がいくつかある。


まず、自意識が増大することを、自覚できる人間にしかこのマクロフレーションは起こらない。


そんじょそこらの自意識過剰とはわけが違うのだ。

私がなになにより凄い。私はだれだれより偉い。

などといった低俗意識ではないのだから。


つまり、自意識過剰でない人間にしか、認識できないフレーションであると言える。


次に、これが一番の欠点なのだが、

このマクロフレーションは引き起これば引き起こるほど自身が創造する至高の存在が高まるため、相対して自分自身の自意識が急速に拡張していく。


やがてご近所をはじめとする自分を構成する環境から、国家、地球、宇宙、別宇宙、時間と次元を超えて際限なく拡張した自意識は、やがて全知全能の創造主がこの全ての世界を構成する全て自身であり、それを認識できる自分自身がその創造主とも言えるし、そうでないとも言えてしまうという二律背反を抱える。


そしてその二律背反に行き当たって、ハッと肉眼で視認する世界を観察すると、それまで拡張した自意識とのスケールの違いに呆然とするのだ。


そのあまりに茫漠とした次元考察の果てには覚醒した五感からの、生々しくも汚い世界の構成情報が雪崩こんで来ているのだから、全ての脳機能がホワイトアウトしていくのも仕方のないことであると言える。


これこそが即ち、


「薄れゆく天上への意識」なのだ。


薄れていった意識は

肉体を放り出していく。


そうして眠りについて

次の日の朝を迎えるのだろうか


それとも、

意識は次元を越えられるのだろうか?


私はそのとききっと


ここに私であったことの証明として


抜け殻を残して行くだろう。

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