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退魔師の二度目の生は幽霊少女と  作者: 尾多 悠
第三部 魂の帰郷
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05 「如月診療所」

 浅霧家から真とハナコ、珊瑚は連れ立って出ることとなった。目的は如月診療所という場所であり、そこに翼がいるのだという。

 距離は歩いて二十分くらいのところにある。外はまだ明るいものの、夕刻も近づいており、油断しているとすぐに暗くなるため急がなければならない。

 しかし、その事情とは裏腹に、田舎のあぜ道を歩く真の足は重かった。


「じゃあ、今のお家には、礼さんと凛さん、翼さんの三人で暮らしいるんですか?」


 真が口を閉ざしてしまったため、道すがら、話題を作るために浅霧家の事情をハナコが珊瑚に訊ねていた。


「そうですね。静さんはあの通りの方ですので、家にはあまりお帰りになられません」

「別の場所で暮らしているんですか?」

「いえ、諸国漫遊とでも言いましょうか。とにかく、一所ひとところに落ち着かない方なので……」


 珊瑚は眉を寄せて苦笑する。


「実を言うと、真さんのお傍にいるよう礼さんに言われなければ、私は静さんに引っ張られるところだったのですよ」

「え? そうだったんですか?」

「はい。私を見出して、浅霧家に引き合わせてくれたのは、他でもない静さんですので」

「はぁ、なるほど。真さんは、知ってましたか?」


 水を向けるハナコに面倒そうに目を向けて、真はようやく口を開いた。


「知らないわけがないだろう。まぁ、詳しい経緯までは知らないが……」


 珊瑚が浅霧家に来たのは、およそ五年程前の話だったと真は記憶していた。


「あのときは驚きましたよ。ふらっと静姉が帰って来たと思ったら、『拾ってきた』って……」

「ひ、拾って?」


 当時から放浪癖のある静は、高校を出ると進学もせずに修行の旅だとか、何か適当な理由をつけて家を出て行った。

 真は理不尽な姉がいなくなったことでほっとする反面、なんと勝手な奴なのだという思いもあった。

 両親も、「静らしい」という一言で片づけるあたり放任が過ぎると、幼い日の真が憤懣やるかたない気持ちで数年を過ごした後のことである。

 何の前触れもなく、姉が二人の少女を連れてひょっこりと家に帰って来たのだ。それは、真がまだ中学生にもなっていない頃のことだった。


「今となっては懐かしい話ですね。私と静さんのことは、またいずれお話しする機会があれば致しましょう」


 軽く笑んで、珊瑚はすっと右手を上げて前方を指した。ハナコが目を向けると、白い二階建ての建物が見えた。

 あぜ道を抜けて舗装された道の先、小さいが田舎の町並みにおいて目立つその建物の玄関口には、如月診療所という看板が掲げられている。


「着きましたね……」

「真さん、いい加減覚悟をお決めになってください」


 そこで一旦足を止め、重苦しい気を放つ真に耐え兼ねたのか、珊瑚は口調をやや厳しくさせて彼の背を押した。


「翼さんは、あなたを恨みに思うような方ではありません。それは、真さんもご理解しているはずですよね?」

「それは……」

「であれば、この再会は喜ぶべきところです。大丈夫ですよ。お会いすれば、今のお気持ちが杞憂であることが、すぐにわかるはずですから」

「……ありがとうございます」


 珊瑚はいつもの笑みに戻り、真が歩き出すのを待った。真は観念して顔を上げると、診療所に向けて歩みを再開する。

 ハナコはまだ真が何を心配し、そこまで気を重くしているのか理由に見当もついていなかったが、黙って彼の背に付き従った。





 診療所の中は静まり返っており、電灯は点いているが、受付には誰もいなかった。待合の椅子にも誰も座っておらず、光沢のある白い床に、真と珊瑚の靴音だけが響いていた。


「あれ? 誰もいらっしゃらないんですか?」


 診療所というからには、外来の患者がいて然るべきだろう。ハナコが肩透かしをくらったみたいに、戸惑った声を出して首を巡らした。


「午後は休診日だからだよ。お嬢ちゃん」


 受付脇に伸びる廊下の奥から、張りのある声が聞こえる。真と珊瑚は向き直り、その人の姿を見ると、ほとんど同時に頭を下げていた。


「先生、ご無沙汰しております」

「ああ。よせよせ、畏まるな」


 白髪をオールバックにした中背の老人だった。老人はいかにも面倒そうに渋面を作り、白衣に突っ込んでいた右手を上げて軽く振ると、にかりと歯を見せて笑った。

 既に還暦は過ぎているが、日に焼けた肌は生き生きとしており、まだまだ達者な様子であることが窺える。


「はじめまして、お嬢ちゃん。如月健一きさらぎけんいちだ。この診療所で、しがない町医者をやっている」

「は、はじめまして。ハナコです」


 ハナコはぺこりと頭を下げてから、普通に話し掛けられていることに気が付く。彼女の反応を面白がるように老人は笑うと、踵を返して歩き出した。


「付いてきな。早速診察を始めるぞ」


 それだけ言って先へと進む背中に、真と珊瑚は追いつくために小走りになる。ハナコも遅れて動き出した。


「ところで、静は一緒じゃないのか?」

「はい。静さんは御実家に残られています」

「なら、後で言っとけ。顔くらい見せにこいってな」


 かくしゃくとした様子で歩を進める如月は、廊下を左に折れた先にある一室の前で立ち止まると扉を引き開けた。そこが診療所の診察室のようである。

 作業用のデスク、患者のためのベッドと標準的な内装だった。ただ、デスクに置かれたモニタを支えにして辛うじて積まれている書類の山。キーボードの横にある飲み掛けの缶コーヒーなど、お世辞にも片付いているとはいえない有様である。


「先生、整理整頓はした方がよろしいと思いますが……」

「休診日だと言ったろ。普段はもちっと片付いてるよ」


 呆れた様子の珊瑚に構わず、如月は椅子を引き、身を投げるように腰を下ろした。


「さて、真。そこに座んな。それから、とりあえず上を脱げ」

「え……と、ちょっと待ってください、先生。何か、色々といきなりすぎませんか?」


 丸椅子を指されて言われるも、真は戸惑って訊ねた。しかし、目の前の医師は特段気にした風もなく、さっさとしろと目線で訴えてきた。


「俺は礼に、お前らを診てやってくれと言われただけだ。違うのか?」

「そりゃ、そうなんでしょうけど……」

「翼のことなら心配すんな。今は寝ているから、もう少し時間を置いた方がいいだろうよ」

「……わかりましたよ」


 仕方なく丸椅子に座り、真はジャケットを脱いでベッドの脇にあるキャスター付きの籠の中へ置いた。続けてシャツのボタンにも手をかけ始める。


「私は、外で控えていましょうか?」

「遠慮する必要はねえぞ。珊瑚、お前にも話は聞かにゃならんのだからな。それから、ハナコっつったな。お前は真の隣だ」

「え、は、はい……」


 有無を言わさぬ迫力を老人の声音に感じ、ハナコは大人しく服を脱ぐ真の右隣に移動した。そうして、上半身が裸になった真とハナコを見比べるように如月はしばらく見つめた。

 ハナコもちらりと真の上半身を盗み見る。ほどほどに引き締まった身体には、先日の滅魔省との戦いでの傷跡がまだ目立つ。その傷を見ると、ハナコは胸に微かな痛みを感じた。


「動くんじゃねえぞ」


 白くなった眉の間に皺を刻みながら、如月は鋭い眼差しを向けながら身を乗り出す。すると、彼はおもむろに白衣の両腕を捲り上げた。

 年老いてはいるがしっかりと筋肉のついた腕が、真の左肩と、ハナコの右肩へと伸ばされる。二人の肩を掴んで何かを噛み締めるように目を閉じた後、如月はひとつ唸って肩から手を離した。


「なるほど、霊気の質はまるで同じだな」


 納得した表情を見せると、彼は席を立ってベッドの横へと移動した。


「真、次はこっちだ。横になれ」


 こうなっては何を言っても仕方がないと真は判断し、指示された通りにベッドに仰向けになった。室内は暖房が効いてはいたが、ベッドのひんやりとした感触が背中に伝わる。


「さて、こっちはどうかね」


 広げた如月の手の平が真の胸の中央に当てられる。真はなるべく全身の力を抜いて、一連の動作に身を任せた。

 医師の手の平から伝わるものは、微かな霊気の流れだった。それは、以前に古宮永治が行ったことと同種の業である。


「気の流れも悪かねえな。だが、生成はされてない。もういいぞ、服を着ろ」


 真の胸から手を離し、如月は椅子に座り直す。真は若干の違和感を覚えて胸をさすりながら起き上がり、服を着直した。


「先生、何を確かめたんですか?」

「お前自身が霊気を生み出せない身体になっちまってるっていうことだ。半信半疑だったが、自分の目と気で確かめちまえば否応はねえな」

「あの、いまさらかもしれませんが、如月先生はどういったお医者様なんですか?」


 腕組みをして息を吐く如月を見て、ハナコはようやく疑問を挟む隙を見つけて口を開いた。


「こんな田舎町だからな。基本的になんでも診るぜ。ま、専門は別だがな。気功ってわかるか?」

「気功……こう、ハァッ! って感じのやつですか?」


 両手を突き出して珍妙なポーズを取るハナコに、如月は思わず苦笑する。服を着終わった真が、完全に馬鹿を見るような目つきで彼女を見ていた。


「なんですか、真さん。その目は」

「なんでもねえよ」


 口角をわずかに上げるにとどめ、真は再び如月の前に着席した。ハナコは憮然としつつ、突き出した両手を降ろす。


「ま、お前たちが霊気と言っているのと同じだな。身体に巡る活力みたいなものだ。その流れを調整するのが俺の専門になる。自然治癒力の向上、血行の改善、ストレス解消とかな」

「へぇ、なんでもできるんですね」

「何でもってわけにはいかねえがな。町内レベルのことなら大抵のものは治してやれる自信はあるぜ。ただ……」


 真に向けた目を細め、如月は引き締めた口を開いた。


「はっきり言っちまおう。真、お前の状態は今のところ、俺の手には負えねえな」


 面と向かって言われ、真は腹の底にずしりと重たいものを感じた。


「そうですか……」

「なんだ? そこまで落ち込んじゃいないみたいだな」

「ええ、まあ。分かってはいたことですから」

「まったく、可愛げがなくなっちまったな。達観するにはお前は若過ぎるぜ? 今からお前の状態を説明してやるから、よく聞きな」


 落ち着いた真の表情に、如月は片眉を上げて笑い声を漏らしながら言った。


「まず、自覚はしているだろうが、お前の魂は、機能不全に陥っている」


 如月がさきほど真の胸に当てていた右手を掲げた。


「試しに俺の気を少し流して確かめてみたが、真の魂は無反応だった。普通、他人の気ってのは本人以外には異物だ。風邪の菌と同じようなもんんだな。

 害があると身体が判断して、咳やくしゃみ、発熱なんかを起こして菌を追い出そうとする。魂もそれと同じで、外へ吐き出そうと霊気をもって抵抗を示すのが普通なんだが……」

「俺の場合、霊気を生み出せなくなっているから反応がなかったってことですか?」

「そういうこった。お前の魂は、他人の霊気の干渉を受け易い。人間の体で言うと免疫が働きにくい状態だ。しかし、今は代わりにその役割を果たしている魂がある」

「わたし、ですか」


 ハナコが自覚して口を開く。如月は頷き、先を続けた。


「異物の排除、あるいは自身への取り込み。肉体への霊気の循環。真がいま肉体を動かせているのは、間違いなくハナコの魂が繋がり、機能しているからこそだ。そこで一つの疑問が生まれる」


 如月は掲げた手で膝を叩き、真とハナコを順に見た。


「考えて見ればおかしな話じゃねえか。今の真の中の霊気は、全てハナコのもので、魂の機能もおんぶにだっこだ。そりゃつまり、既に真はハナコに支配されているってことだ」


 浅霧真はハナコに取り憑かれている。魂が繋がり、彼女の霊気で動いている真は、果たして本当に自分の意志で動いていると言えるのか。


「だが真、お前は間違いなく自分の意志で動いている。魂は機能せずとも、そこにお前の意志は生きている。そこがややこしいところだな。

 乗っ取られた時点でそいつの意志なんてもんは殺されるのが普通だが、ハナコは意図的なのかは知らんが、真の意志を残している」


 ハナコは全身に冷えた感触を覚えた。もちろん、彼女に真の意志を殺そうなどと言う自覚もなければその気もない。

 だが、自分の奥底に眠る黒い感情が、真を呑み込もうとしたこともまた忘れてはいなかった。


 如月は言葉を切り、膝の上で両手を組む。そして、真とハナコの意志を問うように目に込める力を強めた。


「そこでだ。お前たちはどうしたいんだ?」


 その問いの意味が理解できずに、二人は如月を見返す。


「つまりだ。お前たちは一生そのままでいる気なのかどうかってことだ。真、お前はハナコの魂の寿命がくるまで、こいつに生かしてもらうのか?」

「……その気はありません。ハナコの魂が浄化できるのなら、俺はそれが一番だと思います」


 言葉は重いが、真はきっぱりとした口調で言う。その意志は既に分かっているため、ハナコと珊瑚は彼の言に口を挟むことはしなかった。


「なるほど。じゃあ、ハナコ。お前はどうだ?」

「……わたしは、少なくとも真さんの魂が治るまでは、このままでいたいと思っています」


 ハナコは真を顔をちらりと見たが、譲るつもりのない強い口調で言った。二人の言葉を聞いた如月は、次に珊瑚へと目を向ける。


「珊瑚、今の意見を聞いてどう思う?」

「私ですか……少なくとも、第三者が口を挟める問題ではないと思いますが……」

「冷たいことを言ってんじゃねえよ」


 返答を濁そうとする珊瑚だったが、すぐに如月の叱咤が飛んでいた。


「これは家族の生き死にがかかった問題だぞ。第三者だなんて寝ぼけたことを言ってんじゃねえ。俺は、お前の気持ちを聞いてんだ」


 舌鋒鋭く追及する如月に、真もハナコも表情を固めていた。珊瑚は気付かされたように目を見開き、やがて噛み締めた唇から言葉を発した。


「私は……何を置いても真さんに生きていて欲しいと、そう願います」


 珊瑚の言葉は、心からの真摯な願いだった。真は何処か居辛そうに目を逸らし、ハナコは少しだけ嬉しそうに控え目に微笑みを見せる。


「先生、結局何が言いたいんですか?」

「患者の意向を聞いているだけだ。真、別にお前は死にたいわけじゃねえんだろ?」

「そりゃまあ、そうですけど……」


 真の意見はハナコの浄化が最優先で、その後の自分のことについては勘定に入れていない。そのことを、如月は責めているようだった。


「どんな理屈をこねようが、お前は今生きているんだよ。医者として言うなら、命を粗末にすんじゃねえってことだ。それに、別に方法がないわけじゃねえ」

「え……? 先生、今、なんて?」


 如月の言葉に真は耳を疑った。


「だから、ハナコの魂がなくても、お前を生かすことは可能だ。あくまで理屈の上でしかないがな。というか、既に実践しているじゃねえか」


 いったい如月が何のことを言っているのか分からずにいると、彼は珊瑚を指して言った。


「接続だ。お前自身が霊気を生み出せないなら、他からもらえばいいって理屈だよ」

「流石ですね、先生。気付いていらしたのですね」


 露見することは覚悟していたのか、軽く吐息する珊瑚に対し、如月は口角を上げた。


「探りを入れればパスが繋がっていることくらいは、すぐに判る。話を戻すが、真は現状ハナコの霊気をもらって生きている。早い話が、ハナコの代わりを見つければいいのさ。お前を心から案じ、一生涯を共に過ごしてお前を支えてくれるような相手をな」

「先生、からかっていますか? それは、現実問題無理がある」


 後半は半分おどけた調子で言う如月に、真は目を細める。如月の言いたいことは理解できないわけじゃないが、それは確かに彼の言う通り、理屈の上の話でしかない。


「そう、これは無理のある話だ。仮にハナコの代わりに、珊瑚が真が生きるための霊気を供給するとしよう。そうなれば、珊瑚はまともに生体活動を維持することはできなくなるだろう。

 ただ生きているだけで、肉体はエネルギーを消費する。ハナコは肉体がないから、霊気の余剰を真に供給できているに過ぎないんだからな」


 肉体があることとないことでは、供給できる霊気に大きな差がある。その負担をかけるということは、その人の一生を食い潰すことに等しい。

 そこまでして生き抜きたいと思う程、真は自分が図太い人間ではないと思っている。


「人数を増やすという手も一つだな。一人より二人、二人より三人、十人、百人ってな。供給する側の負荷を減らせばそれも可能かもしれん」

「先生、それも手としては不可能です。接続は不特定多数の者と行うための技術ではありません。仮に百人と接続できたとしても、接続者の意志が耐え切れません」


 接続は霊気の供給以上に、互いの意志を同調させる効果に重きがある。人一人の思考を受け入れるのには、相当な負荷がかかるものだ。限界を越えれば、最悪意志が壊れる可能性もある。

 滅魔省の二人一組の原則には、そうした意味もあるのである。珊瑚は身をもって、そのことを知っている。


「ええと……結局のところ、どれも現実的な案ではないということですか?」


 話にいまひとつ付いていけていないハナコが、腕を組みながら首を捻る。如月は苦笑しつつ、肩を竦めた。


「手には負えんと言ったが、可能性を探ることを諦めたら終わりだ。まあ、ゆっくりとってわけにはいかんのだろうが、お前たちも今すぐどうこうしようってわけじゃないんだろう? なら、答えを急ぐな。そうすりゃ、意外なとこからぽろっと別の道が見つかることもあらぁな」


 如月は年の功を感じさせる、気軽だが温かみのある笑みを浮かべた。


「俺の見立てでは、お前たちが今のままである以上、特に問題はねえ……っていうのも語弊があるが、命に別状はないはずだ」


 そこで如月は壁の時計を一度見て、「さて」と言葉を区切る。


「そろそろいい時間だな。真、お前は翼に会って来い。診察室を出て右の突き当りだ」

「もう診察は終わりですか?」

「今のところ、これ以上俺に言えることはねえよ。お前を生かす方法が他にないかは、考えておいてやる」


 早く行けと目で促され、真は立ち上がって一礼すると背を向けた。「それじゃあ、わたしも」と、ハナコも彼の後に続こうとする。


「珊瑚は残れよ。次はお前の番だからな」

「……そうなりますよね。どうか、お手柔らかにお願いします。真さん、後で私もそちらに行きますので」

「はい。それじゃあ……」


 真は頷き、ハナコと診察室を出て行った。珊瑚は少し心配そうに彼を見送ったが、すぐに気を取り直して如月に一礼し、椅子へと座った。

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