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Akashic Records~Edgar~  作者: 誠
◆煙の塔~混沌の層~
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35.心の拠り所を探して彷徨う

 望んでいた。心の何処かで誰かに殺して欲しいと。しかし、それに反して身体が動く。殺さなければ殺されるから。わからない。自分は生きていたいのか。悲鳴を聞いても、吹き上がる血を見ても、心沸き立つことはないというのに。


「何故殺す?」


 生気のない声で問いかけた。


「その言葉、そっくりそのまま返すよ」


 薄暗い部屋の片隅で、黒い物体を執拗に斬りつける男の背中を、じっと見つめていた。すると、男の手がピタリと動きを止めた。


「お前は、どうして人を殺める」

「どうして……考えたこともない」

「考えたくなかっただけだ。自分の弱さと向き合いたくなかっただけだ」


 眉を顰めて、男を睨む。


「俺は負けたことなどない」

「あるだろ。実の弟に」


 男は首だけで振り返り、横目にこちらを見た。


「親に捨てられたお前にとって、唯一の家族。守ろうと思ったのも束の間で、弟はホワイトジャック屈指の刺客に変貌を遂げた。それが、情けないような、妬ましいような」

「黙らないと殺す」


 背後から男の首元に剣をあてがう。男は暗闇に煌めく刃を見つめて笑った。


「…これだから、頭の悪い奴は素直で好感が持てる」

「……」

「人なんて一太刀であっという間に殺せるけどな、感情っていうのはそうもいかない。身体すらも支配して、独り歩きし始める。それが、今の結果に繋がっている。弟を組織から追いやり、自分を求めてくれる人材に縋って、空虚な穴を埋めて」


 血しぶきが上がると同時に、男の言葉は途絶えた。ごとん、と鈍い音を立てながら床に転がる生首。サイはそれを見下ろしながら剣の血を軽く払って歩き出した。


「そっちには弟がいるぞ?」


 振り返ると、転がる首が怪しく笑ってサイを見ていた。


「教えてやる。弟を殺したところで何も変わらない。世界は常に、お前の意に逆らって動き続けている」

「…構わない。俺はもう、後戻りはできないんだ」


 サイは男に背を向けて、暗闇の中へと去って行った。それを見送り、男の胴体はゆっくりと身体を起こして転がる首を持ち上げ、元ある場所につけ直した。傷口はみるみる消えて、すっかり元通りになった。


「水をやらねば草も枯れる。心も、枯れる」


 男は目の前の黒い物体に向かって微笑んだ。


「壊れた心では、真実も何も掴めないというのに」



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