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Akashic Records~Edgar~  作者: 誠
◆煙の塔~最後の晩餐~
129/156

128.罪に身を投じる者たちの集いで


 白い花柄の壁紙が蝋燭の明かりを眩しい程に反射する。豪華な赤いクロスが敷かれた丸テーブルに、長い背もたれの古びた椅子。華やかな室内だが、雰囲気は何処か厳かで歴史を感じさせる。


「……鍵と業輪に、そんな秘密が」


 丸テーブルを囲む4人。アダムは驚いた顔をして真正面のルイズを見つめている。その左隣ではヨルダが魔術書を読んでおり、右隣ではバンディがにやにやと笑っている。


「鍵戦争真っ盛りだってのにそんなことも知らなかったのか。こんな脳なしがマスターでホワイトジャックもよく潰れずに済んだな」

「…ブラックメリーこそギールが死んだかと思えばこんな面倒事に首を突っ込んで……よほど暇だったんだな」


 バンディは笑顔を引き攣らせてアダムと睨み合ったまま、言った。


「おい、ルイズ。この手枷外せ」

「駄目だ」


 ルイズはテーブルに両肘をついてぴしゃりと言い放つ。後ろ手に長い背もたれを抱くように手枷をはめられていたバンディはルイズに向かって声を荒げる。


「何で俺は拘束されてんのにアダムはされてねぇんだよ!」

「お前が一番信用ならないからだ」

「信用ならねぇのはこいつだろ! 協力するとか言って、こんな首輪外した化け物の鼻先に堂々と餌吊るしてんじゃねぇよ阿呆が!」


 バンディはアダムを顎で指した。ルイズは特に誰を信用しているわけでもない。この4人の関係も一瞬即発の微妙な均衡でしか成り立たない。バンディの喚きもわからなくはないが、アダムに限ってはヨルダが手綱を握っている。そしてヨルダの手綱は……自分が。


「とにかく、カイザ兄様のことを詳しく知りたい。一緒にいる連中のことも」


 睨み合っていた二人は互いにそっぽを向いた。アダムはだるそうに頬杖をつき、言った。


「俺が会った時は、マザー・クリストフとシドと一緒だった」

「シド、とは」

「10歳……だったか。子供の堕天使だ。鎖鎌の使い手で動きも勘も常人離れしている。最近じゃ精神感応も覚えていた」

「正直に言えよ。ホワイトジャックで持て余してた比翼の鳥の片割れだって」


 鼻で笑うバンディを、アダムは眉を顰めて横目に見た。


「ブラックジャックでも片割れを持て余してたみたいじゃないか。サイは今、蘭丸とかいう男と行動を共にしている。お前を裏切ってな」

「……はっ。サイが蘭丸とねぇ。別に構わねぇよ? 俺はお前みたいに無駄な期待を寄せてたわけじゃないからな」

「結局、持て余してたんだろう」

「予想の範疇だ」


 何の話をしてもこうなる。言い合う二人を見つめるルイズの隣で、ヨルダが小さく笑った。


「比翼の鳥に、堕天使……ホワイトジャックもブラックメリーも随分と厄介なものを飼っていたようね」


 ヨルダは魔術書を閉じて、既に疲れきっているルイズに言った。


「シドという少年なら私も会いましたわ。化け猫を連れていて、邪眼を持っておりました」

「…邪眼?」

「精神感応の力を宿した目です。あの少年の場合、堕天の烙印と邪眼を併用しているようでした。比翼の鳥の堕天使で邪眼まで持ち合わせている子供なんて……この世に二人といないでしょう」


 うっとりしているヨルダをアダムは呆れたような目で見る。


「……少年好きには堪らないだろうな」

「シドという子供は研究対象としては魅力的だけれど、私の心はダンテ様だけのものよ?」

「ならよかった。あいつは俺の獲物だからな」

「てめぇ、調子乗ってんじゃねぇぞ。どいつもこいつも自分の獲物みたいに……」


 再び火花を散らすバンディとアダム。ルイズは深く溜息をつき、テーブルを叩いた。3人の視線がルイズに集中する。静かになったところを見計らい、ルイズは言った。


「……子供のことはわかった。蘭丸と共にいるサイというのは」


 3人が顔を見合わせる。すると、アダムが言った。


「シドの兄で比翼の鳥の肩割れだ。シドより年が上な分、経験も豊富で何でも器用にそつなくこなす。堕天はしていないが、シドの月の力とよく似た力を使う」

「力を解放した姿は見事だぞ? まるで天使だ。それをこいつは馬鹿みたいに悪魔だなんだと騒ぎたてて……良い年こいてびびってんじゃねぇよ」


 バンディの言葉に、アダムがテーブルに立てかけていた大剣に手を伸ばした。すると、その手をヨルダが掴んだ。ルイズはもう口を出す気もないのか、他人事のような目をして3人を見ている。アダムはヨルダの手を振り払い、手持無沙汰になった手で再び頬杖をつく。バンディは苛立つアダムを見て楽しそうに笑っている。


「…マザーの息子は山に籠ってる。鍵戦争の関係者で俺が知っているのはそれくらいだ」

「勉強不足なんだよ。時代遅れ、ともいうな。審判の日も迫ってるってのに呑気な野郎だ」

「……そういうお前は随分と勉強していたようだな。そんな包帯面になるまで」

「まあな」


 アダムの厭味もさらりと流して得意げに笑うバンディ。アダムは舌打ちをして視線を反らす。すると、ヨルダが二人の間に割り込むように言った。


「ルイズ様がご存じでない人物でしたらもう一人……ダンテ様の弟子とかいう不届き者がおりました」


 ルイズはぼうっとしていたのか、少し遅れてヨルダの方を向いた。


「…ダンテの弟子?」

「ダンテ様の弟子は私一人です」


 一番まともに思えていたヨルダもやはり、面倒臭い。


「…その不届き者というのは」

「名前は忘れましたが、白髪に緑色の目をした男でした」


 ヨルダの言葉にバンディが眉を顰める。


「白髪に緑の目? そいつ、フィオールじゃねぇのか?」

「ああ、そんな名前だったような気も……」

「そいつは情報屋だ。一見馬鹿だが、情報屋としては一目置かれる存在だ」


 ルイズはテーブルに視線を落とした。


「シド、フィオール、美女の二人と火の妖精に獅子公……あと、レオンと東の鬼か。他には?」


 3人は黙り込む。心当たりのある人物はいないらしい。すると、バンディが気だるそうに背もたれに寄りかかって言った。

 

「蘭丸のことは聞かねぇのかよ」

「その男の事なら知っている」


 カイザ達と接触しているとは思っていたが……まさか、クロムウェル家にまで関わっていたとは。バンディはルイズに向けていた視線を反らし、部屋の隅の暗がりを見つめたまま話し出す。


「……肝心なカイザのことだが、あいつは雷を操る」


 ルイズはやっと話に集中し始めたバンディを見て肩の力を抜いた。バンディはアダムも手枷も気にならなくなったのか、真剣な表情で言った。


「自分の身体も雷に変える。ブラックメリーも三又の槍に姿を変えていた」

「……ブラックメリーとは盗賊団の名前だろう」

「俺が言ったのは"ブラックメリー"って名前のナイフのことだ。マスターの後継者が持つんだよ」


 ルイズの目がふと遠くなる。


「そのブラックメリーとやらが戦士の証か。力はカイザ兄様ではなく証の方に宿っているのだろうな。雷を操ろうが何をしようが、そのナイフさえ奪ってしまえばカイザ兄様はただの人間になり、殺してしまえば兄様に代わってお前が業輪を手にすることになる」

「お前、軽々しく俺に協力するなんて言ったがそれがどういうことかわかってんのか?」

「……私が何も知らないとでも?」


 ルイズに真っ直ぐ見据えられ、バンディは口を噤んだ。温度も色もない目。カイザと何処となく似ていると思ったが……違う。この男は本当に、カイザを殺すという目的以外何も持たない。恐れや躊躇いはおろか、誇りや執着も……何も。


「神に選ばれし戦士は寿命を迎えようとしているこの世界を閉じ、新しい世界を開く存在。運命の至るべき場所は戦士がその身を置く神の玉座。神に選ばれし戦士であるカイザ兄様を殺そうというのだ、罪人となった私は審判の日に裁かれる。そしてお前は、晴れて空いた玉座を埋める存在となる。ただ、それだけのことだろう」


 この男にとっては、それが受け入れるべき運命で……歩むべき道。いや、歩まんとする道。


「誰かが必ず腰を下ろさねばならないたった一つの椅子を取り合ってられる程、私は暇ではないのだ」


 冷たく、殺意に満ちた目。かつて、墓地でカイザの目をこの色に変えようとしていたバンディは思わず頬を緩ませる。殺したい。この目が恐怖と無念の色に染まる様が見たい。しかし……


「気に入ったよ、お前」

「…全く嬉しくない」


 運命の至るべき場所への門を開くのが、先だ。




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