107.戦士と美女と少年と
「パリスの神殿だな」
星空の下。一本の蝋燭を灯し、絨毯の上に寝転がって本を反対から眺めるクリストフが言った。その正面でうつぶせになって本を見ながら何かを書き記すダンテ。
「そう、だろうね。元々ヴィエラ神話はパリスが発祥地。その神殿が始まりの地と考えていいんじゃないかな」
「神がカイザに賜った槍、というのはわかりやすいな。カイザが持ってた」
「…まさか、ブラックメリーがこの槍だなんて」
ダンテは困ったように笑いながら本の文字を指でなぞる。すると、クリストフはページを捲り始めた。ミハエルの落書きを過ぎ、手を止める。
「このカイザが天罰を受ける場面が審判の日だとして……それを食い止めるには神殿に行って運命の至るべき場所への扉を開くしかない」
「その前に、天使に導いてもらう必要があるわけだけど」
ダンテが言うと、クリストフは煙管の灰を落して言った。
「うちには天使とも呼べるアイドルがいるじゃねぇか」
「…シド?」
「呼んだ?」
チェシャと星を眺めていたシドが振り返る。
「お前じゃねぇよ。大体、お前は堕天使だろうが。親もなんだかわかってねぇのに」
シドの表情がふと曇る。
ーーお前達の……母親はーー
シドはふいっと前を向いた。クリストフはシドの様子をおかしく思ったのか、口に運ぼうとした煙管を持つ手を止めた。椅子に座って俯くミハエル。その隣、地面に直接座りこんで黒猫を抱くシド。シドは、ミハエルを見た。
「…聞いた方が、よかったかな」
「……」
チェシャはシドを悲しそうに見つめるが、何も言わない。シドの呟きにクリストフが何か言いかけた。が、ダンテが言葉を遮った。
「天使って、誰のこと? 僕?」
「……馬鹿言うな」
足をぱたぱたさせていたダンテはその足を止め、シド同様にむくれっ面になる。クリストフはシドを見つめながら煙を吸い、言った。
「エドガーだよ」
ダンテはミハエルを見て頷く。
「ああ、そうだったね。名前、ミハエルなんだっけ」
「ヴィエラ神話はあくまで物語。本当の天使が降りてくるわけもない。だとしたら、天使に例えられる人物がカイザを導くと考えられるだろ」
「そうなるとやっぱり、エドガーしか考えられないね」
おそらく和が用意したのだろう。東の雰囲気が漂う煙草盆がある。クリストフはそこから煙草入れを取って葉を丸め始める。ダンテは丸くなってゆく乾いた葉を見つめながら、言った。
「……神殿に行けば、奇跡はまた起きるのかな」
ダンテが言うとクリストフは視線をそちらに向けた。ダンテは開かれた本を見つめ、言った。
「部屋開いたら、世界は閉じられちゃうんでしょ」
「…ああ」
「だったら、カイザが願おうとしていたことも……叶わなくなるんでしょ」
ーークリストフ、頼む! 俺にその部屋を譲ってくれ!--
クリストフは眉を顰め、煙管を咥えたまま煙を吐き出す。煙は蝋燭の火の上で大きくうねり、空へと舞い上がる。
「そうだな」
「もしエドガーが天使なら……エドガーの部屋を開かなくても、神殿に行けばエドガーは目を覚ますかもしれない」
「奇跡ってそういうことか」
ダンテは小さく笑う。
「そうだったらいいなあ」
「同感だ」
クリストフはシドと並ぶミハエルの背中を見つめて微笑む。
「でもさ、」
ダンテが低く話し始めた。笑顔は消え、無表情。
「この物語の終わりはどういうこと」
クリストフは何も言わない。灰を落し、火皿に丸めた葉を詰める。
「運命の至る場所で戦士は眠りにつき、夜が訪れる。大地の裏側では朝が訪れ、戦士は再び目を覚ます」
「……」
「訪れる夜、裏側に訪れる朝。これって……」
「世界の終わりと、始まりだろう」
本当は、わかっていた。クリストフはそれを躊躇うことなく言葉にしたのだ。
「…結局、終わっちゃうんだ」
「でも戦士は目覚めてる。何もかもが終わるわけじゃない」
クリストフは、ダンテを見ずに静かに言った。
「東禊神話や、蘭丸の言う業輪がもたらす世界の終わりは、まさしく"終末"だ。しかし、ヴィエラ神話に書かれている運命の至るべき場所は救済の意味も含んでいる」
「……救済自体が"終わらせること"だとは考えないの」
「考えたくない」
ダンテは、眉を顰める。
「考えたくないで済む話じゃないんだよ」
「わかってる。だが今までだって世界は何度も節目を迎えてきた。500年前の神の啓示もそうだ。節目を何度も乗り越えて、あたし達は生きてきた」
クリストフの言葉にダンテは俯いた。
「だからあたしは同じ終わりなら希望が持てる方を取る。カイザにかける」
「……そうだね。僕達は進むしかない」
クリストフは力無くそう言うダンテを見て小さく笑い、葉に火をつける。ダンテは小さく息を吐いて、言った。
「結局、カイザって誰」
「誰って?」
「神に選ばれた戦士、クロムウェル家に生まれた神に選ばれた子、そして、エドガーが本に書いているカイザ。神に選ばれた戦士なんてころころと姿を変えている。クリストフが言ったとおり鍵戦争の関係者がこのカイザの変身一つ一つに当てはまるとしたら……カイザは何人いるのさ」
「……それについては、考えがある」
ダンテが顔を上げると、クリストフは本のページをぱらぱらと捲りながら言った。
「堕天使のシド、天の使いのルージュ、悪魔のオズマ、吸血鬼のオズマの友人、異国の化け物の蘭丸……他にもいくつか変身しているが、皆、神に選ばれし戦士だったということだ」
「全員、"カイザ"だってこと?」
「そうだ。そこから篩にかけられ、一人の戦士が運命の至るべき場所への門を開く。鍵戦争こそがそのただ一人を決める戦いにも思えるが……あたしは、この戦争が始まる前に神はもう判決を下していたんだと思う」
「…それが、僕達の知ってるカイザ」
「鍵戦争はカイザが神殿へ辿り着くまでの試練……みたいなものだと思えば、辻褄も合うんじゃないか?」
「大分無茶があるけどね」
ダンテは身体を捻らせて仰向けになり、空を仰ぐ。瞬きもせず、薄く口を開けて星を見つめる。
「……なんでカイザなんだろ」
「そうだな。それだけは全くもって理解できない」
「根暗で」
「辛気臭くて」
「短気で」
「奥手で」
「たまにわけわからないことするし」
「たまに親馬鹿だし」
沈黙。クリストフもダンテのように仰向けになって星空を見つめた。口からフワフワと煙を洩れさせ、群青の空を煙らす。そして、言った。
「顔だな」
「うん」
クリストフの言葉にダンテは頷いた。美女達が頭を休ませるようにぼんやりと空を眺めていると、ミハエルの隣で少年と黒猫が囁き合うのが聞こえた。クリストフは視線を空に向けたまま、なんとなくそれに耳を向ける。
「…お前、知ったところで……」
黒猫の低い声。よく聞こえない。
「でも、僕のせいで……だから、僕のお母さんのこと……」
少年の不安気な声。よく、聞こえない。
「僕とサイのお母さんは……」
シドとサイの母親。そうだ。シドの堕天が審判の日に関係しているかもしれない。クリストフはのそりと身体を起こし、シドを見る。その背中は小さく、今にも闇に溶けてしまいそうだ。風が吹いた。そよそよと肌に吸いつくような秋風。それは突如逆巻き、少女の髪をふわりと舞いあげる。そして、シドのフードが風で下ろされる。暗がりで艶めく黒い髪。星空の下に並んで座るミハエルとシド。少女は二人の背中を見つめて、固まった。黒い髪、黒い瞳、透けるように白い肌……
ーー退廃的、というか……そういえばお前、顔付と雰囲気だけならあいつに似てるなーー
似ている。
「どうしたの?」
ダンテが仰向けに寝そべったまま、上目遣いにクリストフを見た。
「…本当に、カイザは二人いたのかもしれない」
「……どういうこと?」
「あたし達が知ってるカイザの他に、エドガーはもう一人のカイザと出会っていたのかもしれない」
「え、全然話が見えない」
ダンテは顔を顰めて身体を起こす。少女は、シドとミハエルを見つめたままに言った。
「シドとサイの母親がわかった」
「…え?」
ダンテは混乱のあまり瞳をきょろきょろと動かし、え、え、と言葉にならない声を漏らす。
「ど、どういうこと。何で、どうして?!」
「待て、シドの話が先だ」
クリストフはダンテに向かって黙るようにと手を出した。ダンテが口を閉ざすと、クリストフはシドを見て、言った。
「シド、」
シドが振り返る。赤い目、尖った耳。チェシャも何事かとシドの腕の間から顔を出す。
「こっち来い」
「……何?」
クリストフの真剣な表情に、シドは不安気に応える。
「とりあえず、こっち来い」
疑い……ではない。怒りでもない。少女の発する険しい空気を感じながらも、シドは立ち上がる。ブーツを脱いで絨毯の上を歩き、シドはクリストフの隣に座った。蝋燭と本を囲む、シドとダンテとクリストフ。
「……」
それでも少女は何も言わない。ただシドを見つめる。シドはその空気に耐えきれず、ぐっと目を瞑って俯いた。すると、少年の身体がふわりと浮いた。
「いいか、ちゃんとあたしの話を聞くんだ。いいな」
クリストフは胡坐をかいてその上にシドを抱くように置いた。シドの背中に伝わる少女の胸の温もりと柔らかさ。黒い髪を優しく撫でる手。シドはクリストフの温もりに安堵したのか、少女の腕の中で背中を丸めて小さくなった。
「お前の、母親のことだ」
チェシャを抱くシドの手に、力が入る。
「今までちゃんと話したことはなかったが……お前も鍵戦争とは無関係じゃないからな。しっかり、順を追って話そう。あたし達はな、神に愛された女なんだ。ダンテは男だけど」
少女は優しい声でシドに語りかける。シドは俯いたまま、大人しく聞いている。
「あたし達は神から業輪っていう特別な宝物を変わり番こに守ることを言いつけられた」
「カイザが探してる宝物?」
「そうだ。今それがなくなって、大変なことになってる」
シドは黒猫の背中から蝋燭へと視線を移す。赤い光が、シドの赤い目に反射する。
「その宝物はな、あたし達が持っていれば世界を守ってくれるいい宝物になるんだ。でもな、業輪は一つだけ願いを叶える部屋に通じてるもんだから、他の人間が取り合おうとして争いを引き起こしてしまった。それが鍵戦争だ」
「…悪い宝物なの?」
「あたしやダンテが持っていれば問題ないんだよ。だから、あたし達はこれまでずっと業輪を取り戻そうと旅をしてきた」
ミハエルのためにカイザが探してきた業輪。この旅の意味を、少年はやっと知る。
「でもな、今また違う問題が起きてるんだ。シドも聞いただろ? 審判の日だ」
シドの小さな身体に、力が入る。クリストフは黒猫の背に置かれたシドの手に自分の手をかぶせ、握る。
「業輪を取り戻すだけじゃ駄目になってしまったんだ」
「……僕の、せい?」
悲しげなシドの声。正面に座っていたダンテは、困った顔をしてシドを見つめる。すると、クリストフはシドをぎゅっと抱きしめた。
「違う。お前は悪くない」
「でも、ルージュは僕が堕天したからって……」
「違う。お前が堕天したんじゃない。世界が……あたし達が、お前を堕天させてしまうような世界にしてしまったのがいけないんだ」
ーーシドを堕天させてしまった以上、我々は責任を負うことになるでしょうーー
ルージュの言葉。誰も、自分を責めない。
「お前のせいじゃないから、な?」
「……うん」
シドが頷くと、クリストフは小さく笑って腕の力を緩めた。
「いい子だ」
クリストフはシドの頭をぽんぽんと軽く撫でた。
「審判の日にお前の堕天が関係しているとしたら、お前の両親の片方はとんでもなく偉い人だということになる」
「ルージュが言ってた。天使かもしれないって」
「…そうだな。天使、かもしれない。天使かもしれないし、もっと偉い人かもしれない」
クリストフの言葉に、ダンテは表情を固まらせてしまう。この少女は、何を言おうとしている。
「もしかしたら、神かもしれない」
「待って!」
堪らずに、ダンテが口を挟んだ。シドは驚いて顔を上げる。クリストフは落ちついた表情でダンテを見た。
「本の落書きがあったから、そう考えたの」
「…そうだが」
「じゃあ、君は、こう言いたいの? カイザとエドガーが出会う前。エドガーには"カイザ"っていう旦那がいて、その旦那が神様で。その子供がシドだって!」
「…そうだが」
ダンテは言いきると、大きく息を吐いて肩の力を抜く。シドは心配そうにクリストフを見る。クリストフはダンテを見つめ、言った。
「それなら世界に終わりをもたらす審判の日にシドが関係しててもおかしくないだろ。神の子供なんだから」
「待ってよ、おかしいじゃないか。確かに僕達は神様の姿を知らない。羽を持っているとも考えられる。でも、実際神の子供として生を受けたガトーには羽が無い!」
「神の姿を見ていない。つまり、あたし達が接してきた神が同一人物だったか。それすらもわからない」
クリストフの言葉に、ダンテは口を噤む。
「…シドの父親についてはまずいい。今の話は、あくまでもシドが審判の日と関係しているとを想定して考えただけだ」
「…まるで、母親なら審判の日のことを考慮しなくても確実にわかるみたいな口ぶりだね」
「お前がさっき自分で言っただろ、エドガーだ」
ダンテは黙り込み、クリストフを睨む。シドは俯いて小さくなる。言おうか、言わまいか。
「あのね、話が支離滅裂だよ。エドガーが母親だと考えられるのはシドの父親が神様だった場合でしょ」
「そうだったら確実だが。シドの母親はエドガーだ」
「だから、何でそうなるの」
「似てるから」
クリストフはシドの前髪を上げてその顔を覗きこむ。そして、赤い目を見て舌打ちをする。
「くそ、月のせいで目が赤いな……でも、昼間は黒いしほら、目元とか……」
「そんなの理由にならないよ!」
「そういや、カイザにもなんとなく似てるな」
「勝手に話を進めないで! 似てたとしても、父親がカイザはありえないでしょ!」
「エドガーの旦那とカイザの顔が似てたのかもしれない。それならエドガーがカイザを特別視したのも頷ける」
「だから、勝手に話を……!」
言い合う二人に挟まれ、シドは困った顔をしている。
「…もう言ってみたらどうだ、シド」
二人の言い合いがぴたりと止まる。尻尾でシドの頬をぺちぺちと叩き、チェシャが言った。
「森であったこと。じゃなきゃこいつらいつまでもうるさいぞ」
「…うん。でも、なんて言ったらいいのか……わからないんだけど」
シドとチェシャの会話に、クリストフが首を傾げる。
「なんだ、何かあったのか」
「……うん」
シドは静かに頷く。チェシャは溜息をついて、言った。
「俺が説明してやる」
チェシャはシドの腕からすり抜け、クリストフとダンテの顔が見えるように座った。
「ホワイトジャックに遭遇したあの時、他に二人、そこにやってきたんだ」
二人。クリストフとダンテは顔を見合わせる。
「シドの兄貴と、蘭丸って奴だよ」
「……サイと蘭丸が?!」
クリストフは驚いた顔をしてシドを見る。シドは怯えたように縮こまる。
「何で言わなかった!」
「だ、だって……」
今度こそ怒っている。シドはフードを深くかぶった。
「言いたくても、言えなかったんだよ」
チェシャが言うと、クリストフはぎろりとチェシャを睨んだ。
「何で」
「ある真実を告げられたからだ」
クリストフは眉を顰めたまま黙り込む。ダンテは唖然として黒猫を見つめていた。
「シドとサイの母親は火災に遭って、二人を安全な場所へ連れていくよう蘭丸に預けてたんだ。だから蘭丸は二人の母親を知ってる。父親は知らないそうだが」
「蘭丸が二人を……」
ダンテは驚きの声を漏らす。チェシャは首を傾げ、俯き加減に言った。
「サイにシドを渡したのも蘭丸だが、ここでおかしな食い違いがあったんだよ」
「食い違い? 何だ」
「……サイが母親の元を離れたのは赤ん坊の頃。蘭丸がサイを預かった時、シドは生まれていないはずなんだ。それなのに……母親は死に物狂いで"お前達"を預けたと言った」
「サイを孤児院に入れた後、また母親と会ってシドを預かったんじゃないのか」
クリストフが言うと、チェシャは傾げた首を反対に傾げる。
「詳しくはわからないが、そうかもしれない。シドが言うには、その母親はシドやサイが知っている人物らしいんだ」
「誰だ」
「…わからない。蘭丸が言うには母親は死んでるらしいし、シドは蘭丸の放つ空気からそう読み取っただけだ」
クリストフは横目にダンテを見る。
「死んでて、シドやサイが知っている人物。ほら、エドガーじゃないか」
「まだわかんないでしょ」
ダンテは眉を顰めてクリストフを睨んだ。
「とにかく、蘭丸に聞けばシドの母親はわかる。隠す気もないようだったしな。シドはビビって逃げ出しちまったわけだが……その気持ち、わからなくもないだろ?」
黒猫の言葉に二人は黙り込む。シドは目を潤ませて俯いている。
「真実を知れば何もかもが変わってしまうかもしれないと……そこの英雄さんみたいに皆が取り乱してしまうんじゃないかと、不安だったんだ。だから、言いだせなかったことを叱らないでやってくれよ」
混乱して声を荒げたダンテ。シドに怒鳴ったクリストフ。二人は罰の悪そうな顔をして互いの顔を見る。そして、言った。
「悪い」
「ごめんね、シド」
シドは少しだけ顔を上げて、言った。
「…ごめんなさい。僕が、逃げたりしたから」
クリストフは溜息をついてシドの頭を撫でた。シドは肩を震わせている。
「僕、お母さんのこと聞いたら……皆と一緒にいれなくなるような気がして。カイザとも、離れちゃうような気がして……それで」
「わかったよ。お前が悩んでたってことは、わかった。でもな、これだけは覚えとけ」
クリストフはシドのフードをとって顔を覗きこんだ。驚いて顔を上げるシド。ぽかんとしているシドの赤い目からは涙が流れている。クリストフはその目を見つめ、微笑んだ。
「お前が誰の子供でも、あたし達は離れたりなんかしない」
ーー誰の子供でも、お前は俺の大事な家族だよーー
カイザの優しい笑顔が……頭を過る。シドはクリストフに抱きつき、声を上げずに泣いた。クリストフはシドの頭を撫でながら煙管に手を伸ばす。ダンテは二人をじっと見つめたまま動かない。シドの母親は誰なのか。エドガーだとしても、今のシドには……
「泣くな。煙草が吸えない」
「うぅ……」
知れっとシドを邪魔者扱いするクリストフ。しかし、離れようとしないシドをどけようともしない。まるで……親子だ。