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開戦

 レンリルがかぐやの脱走の報告を耳にしてから半日後、かぐやたちを乗せた王族用のジープが陣地へと到着したときにはすでに攻撃の準備は整っていて、レンリルと数千の兵士たちがザリアへ向けて侵攻しようとしているところだった。

 レンリルは陣地の外にまでジープを迎えに行くと、うやうやしく頭を下げた。

「ルア様、お待ちしておりました」

「――送り返さぬのだな」

「オレが諌めたところで諦めるような姫様でないことはよく知ってます。いらっしゃったなら、それ相応の働きはしてもらいますよ」

「わかっている。石上がいるから心配してくれるな」

 レンリルは石上に愛想良く会釈した。勇者は小さく頭を下げることもなく、ぶっきらぼうな表情のままだった。

 ザリアへの攻撃をしかける軍勢の数は、サントの率いるものよりもいくらか少なかったが、それでも大軍と呼ぶには十分なほどだった。規則正しく隊列を組み、ザリアを見下ろす位置にある小高い丘に布陣している。

 敵は応戦の姿勢を見せていて、ザリアの街をぐるりと囲む城壁の上にぎっしりと兵を配置している。アリストス軍が城壁を乗り越えようとすれば、激戦になるのは必至だった。兵数でいえばまだ敵のほうが多いだろう。しかし、指揮官であるレンリルに不安な様子はなかった。

「おい、わかってるよな」石上が小声で耳打ちする。

「おまえのそばから離れるなというのだろう――頼りにしているぞ」かぐやが聞き取れないくらいの声で返した。




 怒声はかぐやがこれまで聞いたどんな声よりも破壊的な衝動に満ちていて、あまり心地の良いものではなかった。数千の人々が梯子をかけ、城壁に登ろうとしているのを、上からアリストスの兵士たちが妨害している。空が覆い尽くされるほどの弓矢が行き交い、雨のようにラングネ軍の頭上へ降り注いでいた。

 レンリル、かぐやと石上は軍のなかほど、ちょうど矢が飛んでこないぎりぎりの位置にいた。

 そこが指令本部となっており、レンリルがせわしなく指示を送っているのだ。かぐやと石上は戦いの行方を見守っていたが、旗色はほとんど互角のようだった。

「――敵の勇者というのは、出てこないのか」

 かぐやが疑問を口にする。

 城壁の攻防戦では一般兵たちが死闘を繰り広げているのみで、圧倒的な戦闘力を持った勇者の姿はうかがえなかった。いれば、すぐにそれとわかるはずだ。

「楽観的にいえば、大納言がどうにか処理してくれたんだろうな。もしくは今ごろおれたちの背後を取っているのかも」

「それにしては落ち着いているな」

「おれが負けるわけねえだろ。それに、大納言は死んでないって確信があるからな。あの人はそう簡単に死ぬような人物じゃない。きっとどこかに潜伏して、機を待っているはずだ」

「わたしも大伴が倒されたとは思っていない――だが、それならばどこへ消えたのだろうな」

「おれの直感ならザリアにいる」

「アテにはならないな」

 その時だった。ザリアの街から巨大な火柱が上がり、城壁をなぐように龍の形をした火炎が蹂躙した。火から逃げるように落ちた兵士も、運が悪いことに身体を炎に包まれた兵士もいたが、ラングネ軍にはまったく被害がなかった。

 火炎は意思を持ったように城壁を一周すると、ぱたりと消えてしまった。

「――おれの直感は冴えてたな」

「偶然だろうな」

 アリストス軍が混乱するには十分すぎるほどの打撃だった。互角だった形勢はまたたくまにラングネ軍に傾いたようで、梯子を伝って城壁に飛び移ると、次々に内側へと侵入していく。

 防御側の兵士はもとから士気も高くなかったようだったが、大伴御行の炎がとどめをさしていた。

 ほとんど刃を交えることなく敗走する。それを追撃していく洪水のようなラングネ兵たちは怒声をさらに強め、ほとんど半乱狂だった。いつの間にかレンリルの姿が見えなくなっている。かぐやは血相を変えて立ち上がると、石上に呼びかけた。

「……まずいな」

「ああ、嫌な空気だ」

「このままだとザリアの街と――アリストスの国民が危ない。石上、行くぞ」

「暴徒になった兵士たちをとめるのは簡単じゃねえぞ――どうするつもりだ」

「敵の国王を倒し、さっさと勝利宣言をするまでだ。レンリルがやらないならわたしがやる。ラングネの目的は破壊でも虐殺でもない。この戦争を解決することだ」

「んじゃ、最後の戦いに出陣するとしますか」

 石上が肩を回す。やる気のみなぎっている音が、関節の爆発音となって聞こえてきた。

「準備運動はいらないな」

 かぐやは武者ぶるいを一つすると、腰にさげてあった柄だけの刀をつかんだ。たちまち青い光の刀身があらわれる。

「これで終いだ――すべての決着をつけに行くぞ」


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