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作戦会議

 かぐやを筆頭としてふたたび国として回復したラングネは、早々にアリストスへ宣戦布告を行った。対するアリストスはこれを無視し、ラングネ国内に散らばっていた残存兵力を国境付近の砦へと集結させ、逆襲をはかっているとの情報が入ってきた。

 それでもひと月ほどは国境付近でにらみ合いの状態が続き、軍隊同士による戦闘は一度も行われなかったため、つかの間の平和がおとずれていた。

「――敵の防備が強大すぎます。これを切り崩すにはそうとうな準備が必要かと。ならばいまはアリストスと休戦協定を結び、国力の回復に努めるべきではないでしょうか」

 かぐや、サント、レンリル、そしてふたりの勇者が額を合わせて軍議を行っている。

 ラングネ城内のとある一室、中央に丸テーブルのおかれた小部屋には様々な調度品がおかれていたのだが、そのほとんどがアリストス兵によって略奪されていた。

 城内の目ぼしい品目はあらかた破壊されるか、盗まれるかして残っていない。

 かぐやは当初それを目にしたときひどく心を痛めていたが、いまは仕方のないことだと割り切って部屋をつかっていた。無くなってしまったものを惜しんでも先には進めない。

「そんな悠長なことをしていたら気勢がそがれます。アリストスを駆逐したいまこそ時を移さず反撃に転じるべきです。休戦などという甘い政策をとっていても、あのレーザー砲は消えるわけじゃない」

 レンリルがテーブルを叩いて力説する。

 軍部の参謀に任命された彼はアリストスとの戦いが小康状態に入っているあいだにも、せわしなく諜報活動を行っていた。

 それだけでなく前線の指揮に顔を出したり、軍隊の編成にも関わったりするなど、寝る時間を惜しんで働いているのだ。顔にはつかれたあとが浮かんではいたが、それでも精力的に意見を述べる。

「しかしラングネ軍が不利な戦況に立たされているのは事実、無理をして攻撃に転じれば取り返しのつかない損害を受けることになりかねない。幸いなことにレーザー砲はまだ投入されていないのだから、いまのうちに休戦協定を結んでおけば、アリストス側も無理に攻め入って来ることはあるまい」

 サントが反論した。

「あいつらはなんの予告もなしにラングネへ侵攻してきたんです、そんなやつらとの約束を信じることはできません。副隊長だってわかってるでしょ」

「――いまは隊長だ」

「ああもう、肩書なんかにこだわってちゃだめです。隊長になったからって消極的になるなんて」

「そういうわけではない」とサントはレンリルをにらんだ。「ただラングネ全体のことを考えての判断だ」

「ルア様がああ宣言した以上、我々には攻撃しか手段は残されていないんです。ここで怯んで足踏みをするようなことがあったらルア様の支持にも関わってくる。ふく――隊長はそれでもいいんですか」

「なにをそんなに焦っているのだ、時期を見誤るようなことはすべきでない」

 議論は平行線をたどっていた。

 石上はうつむいたままずっと黙ったままで、大伴御行も同じように押し黙っていた。

 ただし巨体は波が砂浜に打ち寄せるように前後に揺れていた。

「居眠りをするでない、馬鹿者」

 かぐやが小声で注意するが、いっこうに起きる気配がない。

「――やってくれ」

 ささやくようにつぶやくと、鋭い聴覚でかぐやの声を拾った大伴御行が石上の足をふんづけた。すこしだけ動きが止まるが、目をさましそうになかったので、火の球を石上の顔に近づける。

 あやうく飛び火するのではないかと思えるほどの距離になってようやく石上があわてて飛び起きた。はあ、とかぐやが嘆息する。

 石上を軍議に呼ぶのは無駄だろうとわかってはいたが、名目上参加させないわけにはいかなかったのだ。

「――だから、戦いには機運ってやつがあるんです。同じ作戦でも時期が違えば失敗するかもしれないし、運が良ければ成功するかもしれない。いまこそ攻めるべき時なんですよ」

「いや、防御の時間だ」

「頑固者」

 レンリルがサントに顔を近づける。

 負けじと老将軍もぐいと顔面を突き出した。

「若造が」

「意気地なし」

「青二才が」

「わからずやのもうろくジジイ」

「鼻たれ小僧の大馬鹿野郎」

「やめんか、見苦しい」

 いまにも殴り合いそうな勢いで罵り合うふたりをかぐやがいさめた。

 サントは顔を赤らめてしずしずと席に戻ったが、レンリルはしばらく鼻息を荒くしたままだった。

「攻めるか攻めないか、どちらにせよ問題なのは国境を破れるかということだ。あそこを突破できれば我らの勝利、出来なければ敗北ということになるだろう」

 腕に包帯をまいたままつり下げているかぐやが、テーブルに置かれた地図を顎でしゃくった。

 ガイザーに受けた傷はまだ完治していなかったが、ようやく最近になって動けるようになっていた。玉座の間で宣戦を布告したときにも、かなり無理をしていたのである。あのあとほとんど気絶するように倒れこんでしまい、二日間ベッドで寝込んでしまったほどだ。

「そこだけだ。いけるか?」

「……正直なところ、決め手にかけます」

 レンリルがめずらしく弱音を吐いた。

「レーザー砲でもないことには分厚い防壁を突破するのは不可能でしょう。なにかひとつ、強力なきっかけがあればいいんですけど」

「これでなんとかならぬか」

 かぐやが石上に視線を送る。

 白羽の矢が立った大柄な勇者は誇らしげに胸を張った。

「個人の力でどうこうなるものでもありません。一撃であの防壁を吹っ飛ばせるというのなら別ですが、勇者の力が古代人の道具によるものなら、同じ古代人のつくった要塞を破壊するのは無理というものです」

「では、大伴ならどうだ」

「――炎を自分から離れた場所に出現させることができるというなら話は別ですが、手から放つ以上、限界があります。ちょっと炎を放ったくらいで火事になるような甘っちょろい設備じゃありません」

「……ならば、レンリルはどうやって攻撃しようと考えていたのだ」

 かぐやが質問すると、レンリルは視線を伏せてしまった。なにも良案がないままに攻撃の意見を出していたということだろう。

「おまえにしては珍しいな、なにも策が浮かんでこないというのか」

「敵がアリストス軍だけならば困ることはありません。問題はあの砦です。レーザー砲が出てくるまでながいこと国境を守り続けてきただけあって、難攻不落ってやつですね。取り囲んで食料がなくなるまで待つっていう作戦をとりたいものですが、敵地に進入することができないんじゃどうしようもない。お手上げですよ」

「ならば、やはり休戦すべきだろう」

 ここぞとばかりにサントが語調を強めた。

「それだけは最悪の行動です。まだ全軍突撃して全滅した方がいくらかマシっていうもんですよ」

「だが、レンリルにもどうしようもないというなら、無駄な命をなくすこともあるまい。兵士だってものではないのだぞ」

「わかってますよ、そのくらい」

 ふてくされたようにそっぽを向くレンリル。

 まるで親に怒られている子供みたいだな、とかぐやは思った。

「休戦して戦力をととのえた場合、アリストス軍の再侵攻を防ぐことができるか? それとも時間をかけて軍備を拡大すれば国境を突破できるというのか」

 かぐやがサントに向かって聞いた。

 サントもレンリルと同じように表情を陰らせると、

「……砂漠地域の発掘を行えば、あるいはレーザー砲のように強力な武器が見つかるやもしれません」

「その保証はどこにもないんですよ」とレンリルが口をはさんだ。「それにあっちだって馬鹿じゃないんだ、砂漠に軍隊くらい派遣してくるでしょう。その時レーザー砲をつかわれたらひとたまりもない。砂漠なんて足場の悪いところじゃ、機動力は使えないから、各個撃破されるだけです」

「だが、やらないよりはいいだろう」

「そんな当たって砕けろみたいなことをやっている余裕はないんですってば」

 レンリルとサントが激しく意見を対立させる横で、かぐやが難しい表情をして考えこむ。

 また議論がもとに戻ってしまった。問題なのは決定的な決め手がないということだ。

 なにかしらきっかえさえあれば、行動をとることができるのだが。

「――レンリルのいうことにも一理ある」

 たしかに今を逃せばアリストスを攻撃するのは難しくなるだろう。ラングネ国民の感情が高揚しているうちにアリストスに攻め込まなければならない。

「だが現時点ではどうしようもないというのもまた事実だ」

 サントとレンリルがうなずく。

 かぐやは大伴御行に意見を求めた。

「大伴はどう考える」

「――私は、攻撃すべきだと思います」

「ふむ」とかぐやは身を乗り出した。「それはどうしてだ」

「地球のことわざに、鉄は熱いうちに叩けというものがあります。人間は過去を忘れていく生き物ですから、時間が経てばどんなに苦しかった経験でも、どんなに屈辱的な言葉でも、すっかり忘れてしまうものです。なかにはそうでない人もいますが、一般大衆においてはそうだと考えて問題ないでしょう」

「それはその通りだが」

 かぐやは眉間にしわを寄せた。端正な顔立ちは、多少のことではくずれない。

「攻め手がないのは大伴もよくわかっていることだろう。まさか石上を放り込むなどという荒技が使えるわけでもあるまい」

「あの馬鹿力なら出来ないこともなさそうですが――」と大伴御行は苦笑しながらつづけた。「ここはやはり内通者を送り込むのがよろしいのではないかと」

「スパイか」

 大伴御行の提案をまとめると、このようになる。

 何名かのラングネ兵をアリストス人として送り込み、内部から組織を崩壊させるというものだ。その間、ラングネ側は牽制程度の偽攻撃を仕掛ける。

 防戦の対応をしなくてはならないアリストス側は足元にまで気が回らず、知らないうちに内側からじわじわと蝕まれることになる。折を見て一斉攻撃を仕掛け、内部から防御網に穴をつくっておくことによって、一気に打ち破るという作戦だ。

「大伴にしては豪快なプランだな」

 かぐやが晴れない表情をして感想を述べた。

「相手の守備が強固である以上、針でつつくようなことをしていてはらちが明きませんので」

「スパイを上手く送り込めるものか、レンリル」

 諜報担当の参謀にたずねる。レンリルは首を横に振った。

「無理ですね。あっちも警戒しているはずです。女子を送り込むっていうならまた別かもしれないけど、そんなことをしても無意味ってやつです。どうせ軍の中枢には関与できませんから」

「ならば、どうする」

「この頭がね」レンリルは自分の頭をこつこつと叩いた。「いまの話を聞いてうまいこと考えついちゃったんですよ」

「聞かせてもらえるか、その名案とやらを」

「もちろんです」

 そういってレンリルはにやりとほほ笑んだ。


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