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サント、奇襲する

 土煙がこうこうと巻き起こっている。

 ラングネ城の付近は整備が行き届いているためジープが激しく揺れることもなく、ただ砂を後方に巻きあげながらアリストス軍へ向かって疾走していた。

 両側を走るのは数台のジープのみ。

 荷台にはそれぞれ何名かの兵士が乗り込んでいる。サントもそのなかのひとりであった。

「無理な戦いはしなくていい。あくまでこれは敵をおびき出すことが目的だからな」

 サントが細かい指示を出す。

 アリストス軍は防御網を形成し、サントたちを迎え撃とうとすでに陣形を整えていた。まともに立ち向かえば数分と持たずに全滅するだろう。

「逃げるのも戦法のうちだ。友軍と合流後、全力で後退するぞ」

「ジープは大丈夫でしょうか」

 さきほどレンリルについて語り合った新兵が不安そうな表情でサントを見る。

 剣を持つ手が小刻みに揺れていた。

 サントはジープの荷台のはしにもたれかかりながら車体をぽんぽんと叩いた。

「車は便利な道具だ。もし古代人の予言が成就するのなら、このジープも壊れることはないだろう。ルア様の運命が生と死のどちらにつながっているのか――結局はわからないのだからな」

「ルア様は本陣にいらっしゃるのですよね、わざわざこんな危険な作戦をとらなくてもいいのに……」

「これはルア様やレンリルの考えた作戦ではない。完全な独断だ」

「え?」

「驚くことはない。ルア様は我々などよりもずっと危険な場所で戦っておられるということだ。レンリルや勇者様たちといっしょにな」

 新兵はしばらく唖然として言葉を発しなかった。ジープの走る音だけが荷台の上を通り抜けていく。

「それは、囮という意味ですか」

「もっといえば囮の囮だ。すべてはラングネの勝利と復興のため、そのためならどんな無茶で危険な作戦もやってのけなければならない。それが軍人としての務めというものだ」

「ルア様はどこにいらっしゃるのですか」と新兵は絞り出すような声で尋ねた。「どこで戦っていらっしゃるのですか」

 サントはアリストス軍が待ちかまえている方角を指さし、

「ラングネ城だ」

「――本当でございますか」

「嘘はついていない。だから我々の働きがルア様の生死をきめるといっても過言ではないのだ。いいな」

 新兵はあんぐりと開いていた口を閉じると、しっかりとサントの瞳を見つめ返しながらうなずいた。

 ジープのエンジン音がひときわ大きくなる。

 スピードが上がり顔にあたる風が強さを増した。痛いほどの風を切る音が次々と襲いかかってくる。

 風圧に負けないように両手で剣を握ると、サントは荷台から身を乗り出した。

 赤い鎧の群れが近づいてくる。サントたちの乗ったジープの進路をたしかめると、そこを避けるように両側へまわりこんできた。

 ジープの戦闘が通過すると同時に何本もの光がまじりあった。

 車にはねとばされないよう側面にまわったアリストス兵たちがジープ本体を狙って繰り出した剣を、サントたちがはじいたのだ。

 あまりにも一瞬の出来事で、結果をたしかめる暇もなかった。

「気を緩めるな! ここからが勝負だぞ」

 サントが声を張り上げ、周囲の兵士たちを鼓舞する。

 敵は規則正しく隊列を組んで並んでおり、どこかに隙があるという感じではなかった。ジープはがむしゃらにアリストス軍の真っただ中を走り抜けていく。

 車をかわしきれなかった何人かの敵兵が衝突する鈍い音が前方から聞こえてくる。猛スピードで直進しているため手加減することはできない。

 サントの視界に剣を振りかぶっている兵士の姿がうつる。

 まずい、という直感が身体をつらぬいた。

「避けろ!」

 同じように荷台から身を乗り出していた新兵の首根っこをつかむと、思い切り身をよじった。いままで胴体があった場所を熱線が通過した。

「油断するなよ」

 眼前に起こった光景を見て青ざめている新兵に声をかけると、サントは反対側のふちへと移動した。さきほどの攻撃に脆くなっている壁に寄りかかっていては、いつ崩れてもおかしくはない。

 怒声と風の轟音が叫ぶようにこだまするなかでジープは着実にレーザ砲へと近づいて行く。

 これを破壊できれば勝利は間違いない。が、アリストス兵もこちら側の狙いを察して防御をさらに手厚くしていた。

 ジープを立ての代わりにならべて、レーザー砲の側面を守っている。

「サント様!」

 隣にいた兵士がすっとんきょうな声を上げた。

「どうした」

「敵の追撃部隊が迫ってきております。レーザー砲の付近以外にもジープを隠し持っていた模様です」

「まったくアリストスはいったいどれほどジープを有しているのだ」

 サントは呆れたようにつぶやくと荷台の隅に積んでおいた発煙筒の束を投げ込んだ。これが撤退の合図になっている。

 もくもくと煙が立ち上っていく。

 それと同時にラングネのジープがいっせいにハンドルを反対方向へ切った。

 身体が投げ出されそうな負荷がおそってくるのをどうにかこらえて、敵に背を向けながら逃走をはじめる。自分たちの背後からジープが向かって来るとは想定していなかったのか、前方にいたアリストス兵たちは総崩れになった。

 逃げ惑う人の後方から、ジープの部隊が追いかけてくる。

 サントはニヤリと微笑みを浮かべると、はるか向こうに見えるラングネ城へ視線をやった。


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