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かぐや姫の生い立ち

 父親は厳格な人で、母は幼いころに病気で死んでしまったと聞かされている。とてもきれいな人だったということは覚えているけれど、記憶に残っているのはたっぷりと髭を貯えた父親の姿ばかりで、母のことはあまりよく思い出せない。きっと優しい母親だったのだろう。

 白い、長いひげを自慢げに整えていた父親は、ラングネ国の国王として長い間子供をのぞまれていたが、壮年になってようやく授かった第一子がかぐやであった。かぐやが生まれて数年後に后妃が死んでしまったため、かぐや姫に万が一のことがなければつぎの女王になるのは確定のはずだった。ラングネ国では女が王になることも珍しくはない、むしろ男の王よりも国がよく治まるという話さえあった。

 平和な世の中であるから、無駄な権力争いが起こるよりも、誰がつぎの王になるのかわかっている方が明快でいいというのが民の総意だった。ラングネ国の長い歴史にあっても最近の動乱はいつも王族内の権力闘争が引き金になっていた。

 かぐやの世話を受け持ったのが、じいと呼ばれる老兵であった。

 老年ながらも国王からの信頼も厚く、なにより子ども好きということでなくなった后妃の代わりによくかぐやの面倒を見た。家庭教師としてラングネ国の歴史を教え、つぎの王として国民との付き合い方を教え、そして皇女としてのあり方を教えた。長年かけて培ってきた知識は豊富で、ひとりで家庭教師をこなすことができたほどだ。たった一人の世継ぎということで可愛がられていたが、じいはかぐやを特別扱いはしなかった。あくまでひとりの皇女として必要なことを伝えたのである。大きな愛情と、それなりの厳しさを持って。

 勉強の時間は一日のなかでいちばん嫌いだった。

 はやく遊びや食事の時間にならないかなあなどと思っているとじいに叱られるし、なぜか勉強のときばかりは時間がゆっくりと進んでいるように感じられた。

 なかでも長ったらしい予言の暗記は厄介で、物心がつくまえから読み聞かされ、文字が読めるようになると書物によって覚えこまされていた。まるで歌でも聞くように、意味がわかる前から記憶に刻まされた。

 序文は記憶を失うことになっても忘れないだろう。自分の名前よりも強く印象に残っている、あの一文は。『彼の国に渡った者共の遺物を従えし勇者たちが、其の国を導くであろう』

 彼の国とは地球のことだ。そして其の国とはラングネ国のことだと聞いた。予言はもっと長く、あとになるほど重要度も低くなるから、ときどき最後のほうを思い出せなくなることはある。それでもこの一文だけは決して忘れることはなかった。

 父親もじいも、そして母も子守唄の変わりによく歌っていた。意味のわかる前から聞かされていた言の葉のリズムは、不思議と安心することができた。

 月の国には現在、ラングネ国とアリストス国のふたつの国があり、長いあいだ細々とした国境争いはあったもののかなり平穏に暮らしてきた。

 国土的にはアリストス国の方が大きかったが、土地の豊穣さではラングネ国のほうがまさっていた。人口はちょうど同じくらいであり、国力がほぼ拮抗していたため大規模な戦争が起こらなかったのだ。どちらかが本格的に侵略戦争を行えば、共倒れになる。

 ふたつの国のあいだに敵対心はあったがそれは微細なもので、民族に違いもなく、使う言語に差異もなかった。体面的な国があっただけで、民衆が団結するためのはりぼてのようなものだったのである。

 それが突然、崩れた。

 アリストス国の奇襲によってラングネ国の防衛隊は壊滅、またたたく間に首都の付近を制圧され、反撃の機会もないままに王城への侵攻を許した。

 ひとつには長い平和による油断があったが、それ以上に決定的な差だったのが、兵器だった。

 アリストス国は今まで見たことのない巨大なレーザー砲を用意していたのだ。その圧倒的な破壊力の前にラングネ軍は対抗するすべを持たず、王城でさえも崩れ落ちた。

 月の国には、すこし複雑な歴史がある。そのために兵器の生産はある意味で運次第というようなところもあった。



「ちょっとルア様、あたしのこととか説明してくれないんですか」

「あとでいってやるから、すこし黙っておれ」

「本当ですか? 約束ですよ」

「わかってる」



 月の国はむかし、ひとつの超大国によって成り立っていた。彼らは優れた科学力を持ち、月の全土を支配していた。宇宙を飛び回る舟も、大量に人を殺すことのできる兵器も、天気を作用できる機械でさえ、開発することができた。

 彼らは月に生まれてからというもの、ただ一直線に進歩の道を歩んできたが、その先に待っていたのは破滅だった。

 土壌は汚れ、空気はよどみ、空は濁った。

 水は飲めず、食べるものさえままならず、すべてが汚染されていた。

「もうここには住めない」

 と言い出したのは自然な流れだっただろう。

 目の前にある大きな青い惑星には無尽蔵の自然が広がっていた。彼らは地球に手を出すことをタブーとしていた。神の住む国、そういう言い伝えがあったためである。

 だが背に腹は代えられず、彼らは地球へ移住することを決意した。それだけの技術力はあったし、あとは心さえ決まればよかったのである。だが一部の人間はそれに反対した。故郷を捨てるのはしのびないという人々が少なからずいたのである。

 昔人は長く話し合ったが、ついに決裂しかないという結論に至った。彼らはある約束を交わして別れた。

 彼らの多くは船団とともにまだ自然の残る地球へと旅立っていった。そして残った人々は月で素朴な生活をはじめた。

 彼らの取り交わした約束は「科学力を破棄する」というものだった。地球に渡った者たちは言葉通り、自分たちの技術を捨て、裸の生活をはじめた。

 一方で月の国に残った人々は、科学の知識を継承しないという方法をとった。

 使用者がいなければどんな優れた機械も無用の長物と化す。一世代をへればあれほど盛んだった科学力のすいでさえあとかたもなくなったように消えてしまう。そうして彼らは今まで築いてきたものを、まるで砂の城を壊すように失った。

 機械の多くは砂に埋もれ、人々は再び一からの生活を得た。その過程で自然はだんだんと浄化されついには人が安心して暮らせるほどになった。だが長い年月と引き換えに科学力へ対する恐怖心は薄れ、彼らは地面から発掘した古代の遺物を次第に使うようになっていった。

 まずはスイッチを押すだけの簡単なもの。

 そうして使い方を学ぶと、次はそれを応用して使用方法を模索する。次第に技術は発達していき、もとの科学力とまではいかないがずいぶんと生活が便利になるほどになった。人びとは競って発掘を行った。途方もない宝物が出てくることもあれば、使い道のわからない謎の物体が出てくることもあったが、おおがねそれらは暮らしに役立つものばかりだった。

 そのなかには兵器もあり、兵士の使用する武器の大半は発掘によって得られたものを修復したり、見よう見まねで開発したものだった。兵士たちのビームサーベルはすべてが発掘されたものだ。赤や緑の色がついた光をまとった剣は、触れただけでものを切断することができる。

 銃は数は少ないながら発見されていたが、ごく少数だったために戦力にはならず、兵装はビームサーベルが主流だった。

 そのなかでアリストス国が見つけ出したレーザー砲である。

 兵器の圧倒的な差は、覆すことができない。ラングネ国は、崩壊を迎えた。


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