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/F_o_a_F/ (たぶん)友達のともだちから聞いたはずの不穏な話

プラットホーム

作者: 小林鶏男
掲載日:2026/08/22

挿絵(By みてみん)



_/00年代後半/神奈川県川崎市/女性/22歳/学生/



 その日、Aさんが出席しなければいけない講義は午後の三限だけだった。いつもなら余裕をもって家を出て、あえて急行に乗り換えず各駅停車のまま一時間弱かけてのんびり座って行く。

 だが、前日の呑み会が響いて寝坊してしまい、家を出る頃にはすでに正午を回っていた。各駅停車では間に合わないので、乗り換え駅で下車して急行を待った。

 電車がホームに到着します、白線の内側まで下がってお待ちください、とアナウンスが流れる。電車の近づく音が聞こえた。


 ……と、Aさんの隣の列の先頭にいた大柄な中年女性が、急にしゃがみこみ、そのまま手を付くようにして線路のほうへ身を乗り出した。

 後ろにいた男性が「あっ」とつぶやくのと、駅員が「下がって!」と叫ぶのが聞こえた刹那、ホームへ入ってきた電車の先頭車両と女性の頭部が「ごん」という音を立てて接触した。

 はじき飛ばされた女性は、大の字に手足を広げて仰向けになったまま動かなくなった。

 悲鳴が上がり、ホームが騒然となった。

 Aさんは脚が震えてきて、倒れた女性を直視できなかった。

 女性は担架で運ばれて行ったが、その後どうなったのか、命は助かったのか、わからない。

 飛び込みではなかったからか意外に復旧には時間がかからず、三限には五分ほど遅れただけで出席の点呼に間に合った。


 休み時間、同じ講義をとっている男友達に事故のことを話した。

「貧血とかで急に気分悪くなったのかな? やっぱ列の先頭にいるとああなったとき怖いよねー」

 Aさんは事故の光景を思い出しすぎないように、わざと少し軽いノリで話していた。が、それを聞いていた友達のほうの顔色が曇っている。

「あ、こういう話ダメだった?」

「うーん、いや――それさあ、どこの駅?」

「え、●●駅だけど」

「……そうか」

 やっぱそうなのかな、と彼はつぶやき、声を落として教えてくれた。


 それさ、気分悪くなったんじゃなく、その人、覗き込もうとしてたんだと思う。

 反対側の、上りの線のホームの下。

 俺も何回か見たことあんだよ、そういう人。

 首かしげながら向かいのホームの下を見てる人、ちょいちょいいる。

 小さい子がホームの下を指さして、ギャン泣きするのも見た。お母さんはわかってなかったみたいだけど。

 終電近くに、酔った爺さんがすごい顔してじっと見てたこともあったな。


 ――たぶんさ、そのおばさん、急に何かに気づいたか、ちらっと見えちゃったんだと思う。

 それで、どうしても気になって、ちゃんと確かめたくなったんじゃないかって。

 向かいのホームの下、よく見えるよう、しゃがんで、覗き込んで。

 あの駅さ、たぶん、たぶんだけど、上りのホームの下に、いるんだわ、なんか。




 以後、どんなに急いでいるときでもAさんはその駅で乗り換えをしなくなった。

 ホームの下に貼りついているものになど、絶対に気づきたくなかったからだ。

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