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一章「恨み辛み妬み嫌み嫉み僻み」

正真正銘第一話です。今回出てくるのはこっくりさんです。

「さてと」

結界を解き、現実世界へと舞い戻る。足元に頼りになるコンクリートの感触が戻って来、目の前には割れた窓ガラスから月光が降り注ぐ。下手をしたら空中に放り出されていたことを考えるともう少し危機感を抱いた方がいいかもしれない。死にはしないが、怪異であることがバレたら狩られる。

私以外にも当然怪異を求める者はいる。主に駆除する方としてだが。年収はまあまあいいらしい。私は趣味だから一切収益にはなっていないが。

「すいません!」

「ん?」

背後から呼び止められて振り向く。

「霊媒師の神奈崎麗さんですか?依頼があります!」

どうやら、こういう時は収益があるようだ。





近くのファミレスへと移動して話を聞くことにした。なぜファミレスかって?ベタだからだよ。因みに代金は全額依頼者負担だそうだ、有難く頂こう。と容赦なく食えるだけ注文する。食わなくとも死にはしないが気は滅入る。やはり肉は食うべきだ、幸せフェロモンも出るらしいし、束の間の満腹感も得られる。

それにしても一応個人ホームページを開設しておいてよかった。確認はしてなかったけど。

「で、依頼とは何かな?」

一番最初に届いたコーラを一気に飲み切り、話を切り出す。やはり川の水よりはおいしい。

「実は━━━━」

彼女。或いは彼曰く、こっくりさんを怒らせてしまったらしい。かなり時代錯誤だが、最近の若者はそういうのにも興味があるのだろうと少しうれしくなりつつも話に耳を傾ける。

語られる話は如何にもな典型。好きな人でも何でもいい、質問をしてその答えが気に食わなかったから十円玉を処分せずに棄てた。すると、その友達がおかしくなってしまったらしい。だがしかし、棄てた場所がかなりの曲者である。なにせただの野原だ。従来通り神社であれば、ある程度は効力が抑えられ、探しに踏み込んだとて楽々見つけられるだろうが、何もない野原となると、こっくりさんとしての性能が遺憾なく振るわれ、件の友達とやらはもう死ぬだろう。事実友人は一回自殺未遂をし、病院に入院しているとのこと。頸椎損傷か何かで意識も戻らないのだとか。

「取り敢えず、探しに行こう」

届いた料理も食べ終え。伝票を片手に立ち上がる。付いて行くように立ち上がった依頼人は不安げな顔でこちらを見やり何を探すのだと訊いてきた。

「十円玉だけど?」

「はい?」

何を言ってるこいつはという顔で見つめられる。さっきこっくりさんとしての性能が遺憾なく振るわれるため手も足も出ない。といったからだが。

「私は儀式に関係ないからね。恨みを欠片もかっていないし、ぶっちゃけ勝てる自信もある」

君は帰りなさい。と支払いを任せて聞きだした野原へと向かう。そこはほんとに何もない通学路の片隅だった。近くに墓地とかがあったらテンションが上がるが、流石になかった。

「さてと」

腕まくりをして、茂みへと分け入っていく。草いきれが立ち込め、虫が飛び交うが、気にせず手当たり次第に探す。いくら怪異仲間とはいえ、ただの無線のマイクのようなものだ、わかってたまるものか。

茂みをかき分け、飛び交う虫を手で払う。偶に光るものを見つけては屈みこみ確認する。

それを繰り返すこと二時間ほど。周囲に人が集まりだしたことに漸く発見したのは鈍く光を発する十円玉だった。それ以外には精々ビニール袋や釘くらいしか落ちていなかったのでこれで確定だろう。拾い上げてポケットに放り込み、神社へと向かう。ここで処分してもいいが、その後の呪いがどうなるかが判らないため一応本人に拾わせて円満に解決することにする。

警察に通報はされたがなんとかした。





翌日、私は幼女一人と少女一人、更に童女も一人連れて神社へと来ていた。どうやら全員女性だったらしい。そのうち一人は目の下に隈を湛えてぶつぶつと何かを呟いている。どの娘かは想像にお任せしよう、一番好みのタイプに想像してくれ。隈を湛えつつも眼ははっきりと澄んでおり隈が無くなればかなりモテそうだ。そういうのに縁の無かった私からするとそこそこ羨ましい。

「取り敢えず、私はこの十円玉一旦置くから拾って。あとはそこの賽銭箱に入れといてくれ」

「あっはい」

私が適当に狛犬の台座の上に置いた十円玉を持ち、ゆったりとした歩みで時折ふらつきながら賽銭箱に辿り着く。何か躊躇するようなそぶりを見せた後、その十円玉を飲み込んだ。

「なっ…何をしているんだ!」

駆け寄って肩を掴み、振り向かせると彼女は凄絶な笑みを浮かべてこう宣った。

「だって…だってこの占いが終わらなかったら、ほんとにならないでしょ?三輪君も夏希ちゃんのこと好きにならないでしょ!?」

言語を絶した。今時の小学生はそこまで行っているのかと。人間はそこまで壮絶な表情をできるのか。と。そして薄々感づいてもいた。こっくりさんを怒らせた場合は、大概自殺や乗っ取りがオチだがこの少女は落ち込んでいるだけで体に不調も出ていなさそうだったからだ。精々子供の悪ふざけだろうと思っていた。だがしかし。更に質の悪いものだとは。

「すぐにっ吐き出せ!」

更に何か言おうとしていたが問答無用で腹に拳を突き込む。鈍い音が鳴り、細い体がくの字に折れ曲がったが、吐き出さずに逆に私の口から赤い液体が噴出した。

「ゴッ…」

四つん這いになって腹の中のものをすべて吐き出す。唇を腕で拭って前を向くと、立ち上がってこちらを見下ろす者が。冷汗がにじみ出る。おそらくこっくりさんの力を取り込み、文字通り飲み込んだのだろう。澄んでいた目がこっくりさんが混ざったのか深い殺意を湛えつつも濁っている。

「こっくりさんこっくりさん。其処の女を殺してッ!」

境内が赤く染まった。

「えっ…」

依頼人と、付き添いの血によって。呆然とする彼女。いや、怪物にたいしてネタ晴らしをする。

「残念ながら、メスではあるけど、怪異なんだ。君は無意識のうちに私が人だと思っていた。更にそのこっくりさんの性格の悪さによって、君は友人を殺すことになった。わかったかい新人君」

「ああっ…あああああああああああああああああああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

頭を抱え、蹲る彼女に引導を渡すべく、手頃な石を持って近づく。

「こっくりさんを宿したとはいえ器は人だ、殴れば死ぬだろう。聞こえてないだろうけどね」

正面に立って、石を振り上げた瞬間、鋭い拳が腹に突き刺さった。

「ぐぶっ…」

思わず倒れこみ、石を取り落とす。起き上がり前を向いたころには竹藪へと姿を消す少女の姿しか見えなかった。

「まさかこっくりさんを取り込むとは。想定外にもほどがある」

二人も人が死んだ上に依頼人がその一人で依頼も完全には達成できていないため、金も舞い込んでこない。得られたのはくたびれとファミレス一食だけだった。

更に、厄介な敵も増えた。元から霊媒師共とは対立していたが、積極的に祓おうとはしてこなかった。それに対して今度の敵は私の首を確実に狙ってくる。殺そうとした手前何も言えないが、対策を練らねばならない。

あとホームページも定期的に確認しなくては。

「さてと」

また極貧生活が始まる、秋へ備えるとしよう。

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