表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】嫌いな後輩にキスされました  作者: 灰庭たま
第三章 嫌いな後輩とライブ
8/10

酔ってないって言うけれど

 近くの居酒屋に入った。

 土曜の夜で混んでいたけど、運良くカウンター席が空いていた。

 席について注文する。


「花森さん、カシオレだよね?いつも」

「はい、でも今日はビールにします」

「え、飲めるんだ」

「飲めますよ別に。カシオレの方がウケがいいから飲んでるだけです」

「……ウケ?」

「飲み会で女の子がカシオレとか飲んでると可愛いって思うじゃないですか」


 おしぼりで手を拭きながら、花森がケロッと言った。


(こいつは…。したたかというか、計算高いというか…)


 私は苦笑いした。店員を呼んで、生ビールを二つ注文した。

 花森がキャップを脱いで、髪をふわっと直して息をつく。


「今日のライブ、本当によかったですね」

「うん。やっぱり生は違うね」

「harutoくん、かっこよかったなあ」

「……やっぱりharutoか」


 そんな会話をしているうちにビールが来て、乾杯する。


「お疲れ様です」

「お疲れ」


 ジョッキを合わせて、一口飲む。

 冷たいビールが喉を通って、体に染み渡った。


「でも、浅海さんも意外とライブとか行くんですね」

「うん、行くよ、普通に。普段はめちゃくちゃインドアだけど」

「たしかにめっちゃインドアなイメージでした」

「そんなハッキリ言われたの初めてだわ。花森さんこそ、意外。あんまりバンドの曲とか聞かなさそうだから」

「昔はあんまり聴きませんでしたけど、元彼の影響ですかね」

「ああ、そういうことね」


 なんとも恋愛体質の花森らしい理由だなと思った。

 カウンター席だからか、距離が近い。花森の横顔が、すぐそこにある。

 唐揚げとポテトをつまんでビールを口に運んだ。


「……朝倉さんとは、何か進展ありました?」


 急な質問に、ビールを飲む手が止まった。


「進展って」

「だから、そういう」


 花森が少し探るように見てくる。


「ない」

「えー」

「だって、そういう関係じゃないし」

「でも好きなんでしょ?」


 ずばっと言う。

 花森、酒が入るといつもに増してストレートである。


「……まあ」

「じゃあもっとアプローチしないとダメですよ」

「してるよ、一応」

「全然ダメです。あんな綺麗な人、すぐ取られちゃいますよ。もっと積極的にいかないと」


 花森が説教口調になる。

 こいつはいつも偉そうだな。ほんとに。


「花森さんは、田村さんと進展あったの?」

「うーん。進展は微妙かも。アピールはめっちゃしてますけど」

「それは知ってる」

「昨日もランチ誘いました」

「で?」

「断られました」


 花森がケロッと笑った。


「……大丈夫なの?」

「大丈夫です。諦めませんから」

「強いな」

「浅海さんこそ、すぐ諦めないでくださいよ」


 二杯目のビールが来る。


「浅海さん、朝倉さんのどのへんが好きなんですか?」


 花森が少し身を寄せてくる。


「え?」


 私は視線を泳がせた。こういうことを口に出すのは、どうにも気恥ずかしい。第一、好きかどうかもまだよく分からないし。


「言いにくいですか?」

「いや、うーん、そうでもないけど」

「じゃあ教えてくださいよ」


 花森が楽しそうに促してくる。観念したように、私は口を開いた。


「落ち着いてるところ、かな。判断が早いし、仕事もできる。あと……優しいし」

「ふーん」

「それに、その……雰囲気とか、たたずまいが綺麗だなって」

「やっぱり見た目ってことですね」


 花森がにやっと笑った。私は思わず顔を背ける。


「花森さんこそ、田村さんのどこが好きなの?」

「全部です」

「早いな」

「だって本当なんですもん。顔もいいし、仕事もできるし、優しいし。完璧です」

「ふーん」


 それからしばらく、色んな話をした。

 不思議と会話のテンポが合って、落ち着くと思う自分がいた。

 

 花森の顔が、どんどん赤くなってきて少し目が座っている気がする。


「花森さん、酔ってる?」

「酔ってないです」

「顔、真っ赤だよ」

「浅海さんこそ赤いじゃないですか」

「私はまだ大丈夫」

「わたしも大丈夫です」


 花森がムキになってビールを飲む。弱いくせに強がって。

 なんか、ちょっと可愛い。


「こうやって女の人と一対一で飲むの、ほぼ初めてかもしれないです」

「そうなの?」

「はい。同性の友達、ほとんどいなくて」

「ああ、前に言ってたね」


 花森が少し寂しそうに笑う。


「だから、今、けっこう新鮮です」

「そっか」

「意外と楽しいですね。また飲んであげてもいいですよ」


 またこいつは上から目線で…。

 少しイラッとしたが、ここは大人になって何も言わず我慢した。


 その後は少し沈黙が流れる。

 でも、不思議と嫌な沈黙じゃなかった。


「…え、もうこんな時間?」


 ふと、花森がスマホを見て目を丸くした。


「……終電、ない」

「うわあ…本当だ」


 私も時計を確認する。午前0時前。

 しまった。会話が思いの外盛り上がって、時間を全く気にしてなかった。

 完全にアウトだ。


「どうします?」

「ネカフェかな」

「そうですね……」

「この近くにあったはず」

「浅海さん、詳しいですね」


「前にも終電逃したことあるから」

「…誰とですか?」


 花森が少しだけ、探るような目でこちらを見てくる。


「友達」

「本当ですか?」

「本当」

「ふぅん。……なら、いいですけど」


(ならいいですって何…?)


 花森がふいっと前を向いた。

 その横顔が、少し拗ねてるように見えた。

 

***


 お会計をして(結局私の奢りで)、居酒屋を出て近くのネットカフェへ。

 自動ドアを開けて、受付に向かった。


「すみません、個室二つ空いてますか?」


 店員が端末を確認する。


「申し訳ございません。個室は満室でして……」

「そうですか…」


「カップルシートでしたら一部屋だけ空いておりますが」


 店員が言った。


「え」


 私と花森は同じタイミングで声を出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ