ルマニア戦記〈中央大陸編〉EP02
実在するタレントさんをうっすらモデルにした寄せキャラの登場、まずはメカニックマンのクマのおじさんです。とってもバカでっかいw おおよそのイメージとしては間違ってないのだろうけど、ちょっとビミョーなのか? キャラと役柄がマッチしているのではと、作者的には納得のクマさんでした♡
-LumaniaWarRecord-
ルマニア戦記
〈中央大陸編〉
EP02
ルマニア王国の外征軍においてまさしく最新型の巨大な空飛ぶ戦艦――。
カテゴリーで言い表すならそれすなわち、航空重巡洋艦、その名も『トライ・アゲイン』!
おまけ空母級艦船とも言いうるものだったが、このちょうど船底に、アーマーの整備区画は位置していた。
それは生まれつきに大柄なクマ族の男をもってしても、この天井を見上げるのも辺りを見渡すのもホネなくらいに広大なスペースだ。
そしてそこはいつだってやかましい騒音で満たされていた。
艦の最後尾のエンジン区画とも隣り合わせなのも手伝ってか、重たくて低い震動がひっきりなしに足下を伝わる。
そんな中を、だが今はそれにも負けないけたたましい怒号がガンガンと響き渡っていた。
それはまたあたりの喧噪にも如実に伝わって、異様な熱気のごときものをこの空気にはらませるのだ……!
それまでせっかくいい気持ちで寝ていたところを血相を変えた若い整備士にせき立てられて、このデッキに顔を出したベアランドだ。
実にのんびりした大股で現場に踏み込んだクマ族のパイロットは、ちょっと困り顔でこの一角にできたそれらしきひとだかりを眺める。
既にケンカがおっぱじまっているのかと思いきや、殺気立つ気配と周りの好奇心旺盛なギャラリーの顔つきや雰囲気から察するに、まだどちらも手を出すまでには至っていないらしい。
はああ、どうせなら終わらせてくれてたらよかったのに……!
周りがうるさいのをいいことにそんな内心のぼやきをため息交じりに吐露してしまう茶色いクマの隊長さんだ。
そんな良からぬ独り言を知ってか知らずか、この背後で慌てふためくリドルがのらくらした歩みを無理矢理でも押して進ませる。まったく華奢な身体つきで、実にけなげなさまにこの顔の苦笑いがより強くなる。
正直、面倒くさかったが、チームメイトと世話になるメカニックマンのいざこざともなれば、この隊長としてほっておく訳にはいかないものだ。
またため息つきながらみずから一歩を進ませた。
「あ~らら、もうはじまっちゃったのね! まったくうちのオオカミくんたら何かって言うとケンカっぱやいんだからw ぼくらみたいなギガ・アーマーのパイロットが自分がのっかるアーマーの整備をしてくれるメカニックともめたって、いいことなんてなんにもありゃしないのにさ……!」
「しょっ、少尉どのっ、早く! 相手はこの艦で一番のベテランで実力のあるメカニックどのであります!! おまけに見上げるくらいに大きなクマ族で腕力もやたらにありそうでしたし!?」
「はいはい。てか、この艦で一番のメカニックは、現状、このぼくのランタンを任されてるきみだろ? なんたってあの泣く子も黙る名メカニック、かのブルースのおやっさんの最後の愛弟子でもあるんだから♡ だったらここはむしろきみが仲裁するのがスジってもんだよ、違うかい?」
「むむっ、無理であります!! ウルフハウンド少尉どのはめちゃくちゃ殺気だってるし、あんなのたぶん殺されてしまうであります!!」
「はは、かもね? うわ、ギャラリーがすごいや! どれどれ、ちょっとごめんよ、どいたどいた、さっさと通して…………ほんとに邪魔だな! もうっ、いいからみんなあっちに行っておいでよ! 巻き込まれたらぜったいケガするんだからさ?」
かねてよりエースの呼び声高いオオカミ族のパイロットと、実質この場を取り仕切る年長者でベテランのクマ族のメカニックの一騎打ちだ。
このまたとない大見世物を見逃すまいとぎゅうぎゅうにひしめく有象無象たちのスクラムを、力ずくで無理矢理にでもひっぺがしながらズカズカと輪の中に入り込む。
すると衆人環視の人垣の真ん中には、元から見知った人影と、こちらはつい最近に知り合った顔が、お互いにひどく苦み走った表情でキッとにらみ合っているのがわかる。
どちらも視線を外さないが、殺人光線みたいなのがバチバチと空気中でショートしているのが目に見えるような険悪さだった。
「あ~らら、こいつはまた、えらい剣幕でにらみ合っちゃってるね! 朝っぱらから何をそんなに怒ることがあるんだか??」
「そ、それが、その……!」
あわわと顔面蒼白の若いクマ族を振り返るに、その視線の先にあったものを見て、ただちにそれと理解する隊長さんだ。
「ん…………ああ、なるほど、そういうことね! シーサーのアーマー、ギャングだったけ? 見たところ機体の一部がカスタムされちゃってるけど、さてはそれで機嫌をそこねちゃったんだw まあ、この先を考えたら仕方ないっちゃあ、仕方ないんだけど……!」
いがみ合うふたりの男たち越しに見上げた、目の前の巨大なハンガーデッキに格納される、大型ロボット兵器のそのありさま……!
これを見るなりしきりと納得するベアランドに、その横で所在なげな若いクマのメカニックが声をひそめてまた言うにはだ。
「はい! この先の海上での作戦を考慮して、そちら仕様のパーツに脚部をまるごと換装! フルカスタムしたのですが、ウルフハウンド少尉どのはこれを聞いていないと、とてもご立腹でして……!」
おなじくひどい困り顔でこれを見上げる青年に、こちらもまだ若いクマ族のパイロットはひどく白けた眼差しで見返した。
「まあ、だからってそんな腹を立てられてもね? というか、リドル、きみ自身は聞いてなかったのかい? ぼくら新型アーマーの専属で、言えばチーフメカニックともなるきみがさ? だとしたら、そっちのほうが問題じゃないかと思うけども……」
「ああっ、それは、その……!」
しどろもどろで言葉に詰まるリドルだ。
その様を前にして、さてはここにも問題があるなと内心で考えあぐねるベアランドだった。
目の前で鼻息荒くしたクマのベテラン整備士なのだが、見た目まだ若く経験の浅いだろうこの同僚のメカニックを、そもそもでかろんじているような節が見られるのが傍目にも明らかだった。
内心で大きなため息ついて、仕方もなしに一触即発の現場に最後の一歩を踏み出す。
「はいはい! やめたやめた、おふたりさん! すっかりギャラリーに囲まれて完全に見世物になっちゃってるじゃないか? いいから、シーサー、落ち着きなよ、何も悪いことなんてひとつもありはしないだろう? きみのその、ギャング、だったけ?? 見た感じ前よりも立派になったじゃないか♡」
「! ……ちっ、ギャングスター、略してギャングだよ。いいや、冗談はよしてくれ! こいつのどこが立派っだて言うんだ、大将? こんな不細工でぶっとい脚を付けられて、走るどころか歩くのだって一苦労だ! おまけにこの俺さまの了解を得ないままに、よくもこんなふざけた改造を、おい機械小僧、おまえは関わっていないんだよな?」
「あっ、はっ、はいっ、少尉どの……!」
荒くれるオオカミににらまれて生まれつき小心者で華奢なクマ族は、とうとう身体のでかいベアランドの背中に隠れてしまう。
やれやれと肩をすくめる隊長だ。
そこにベテランの大柄でやたらに恰幅のいいクマ、もといクマ族のおやじが食ってかかる。
内心のため息が尽きない隊長さんだ。
「はあ、冗談じゃない! そいつはこっちの台詞だよ。どいつもこいつもふざけやがって、まずそのギャングってのも、紛らわしいったらありゃしないや。いいかい、こいつの正式名称はハウンドだろう。我らがルマニア軍を代表するビーグル・シリーズの上位機種が、なんでそんな下品な名前で呼ばれにゃならないんだ? あとこのぼくがやったことに間違いなんて一つもありゃしない、そうだろ?」
「はあっ…………うわ、よく見たらばこのぼくよりもデカいんじゃないかい、このクマのおじさん??」
のしかかってくるような圧迫感と鼻息の荒さにちょっとだけ引いてしまうベアランドだが、まさしく野生の熊さながらの迫力とボリューム感たっぷり!
そんなものだからいい歳したオヤジのメカニックは、その見た目にはあまりそぐわない饒舌な口ぶりでここぞとばかりに嘆き節をがなり散らしてくれる!!
「いいかい聞いてくれ、そこのクマ族の隊長さん、このバカ! いや、もとい、この副隊長のパイロットどのはだね、あろうことかアーマーで海の上を走るだとか言いやがったんだぜ? そう、よりにもよって海の上をだ! 笑っちゃうよね? だって聞いたことがないだろ、重たくてバカでかいギガ・アーマーで大波荒れ狂う海の上をドカスカ走ろうだなんて!? はっ、無理だね! 絶対に! 賭けてもいい!!」
かあっと真っ赤に上気した顔で牙をむくオヤジに、これとおなじクマ族のパイロットもややたじろいでしまうくらいだ。
そのくらいに怒りと殺気に満ちあふれたメカニックマンだった。
ここが戦場の最前線だというのが改めて身にしみる。
後ろで若いメカニックがひいっ!と裏返った悲鳴を発するが、いよいよ先が思いやられて自然と天を仰いでしまう。
「ああ、まあ、なるほどね! 言い分はわかるんだけど、じぶんの命を任せた機体を無断でいじられるのは、やっぱり気分がいいものじゃないのはわかるだろう? んん、だからほら、ここはお互いさまってことで、どっちも納めてくれないかな? まあだめならケンカ両成敗ってことで、このぼくがふたりをぶん殴ってもいいんだけど、それだとケガするだけ損だろう? シーサー、そんな顔しない! ほんとに殴るよ? ね、えっと、イー……、ビーガル、曹長?」
牙をむいてうなる同僚のオオカミ族には、とっととあっちに行ってくれ!とこちらも牙をむいてしっしと追い払うクマ族の隊長さんだ。
渋々で踵を返す灰色オオカミは舌打ちしながらギャラリーを掻き分け、みずからの機体、銀色の大型ロボットへと歩いていく。
とどのつまりでこの機体の状態を確かめるべくだ。
まったく本心ではわかっているくせに、本当に素直じゃないなとその背中と太くて立派なしっぽを見送るベアランドだが、すぐにも残るクマのオヤジへと向き直った。
するとこの若い隊長の仲裁で修羅場を無難にやり過ごした中年の整備工ときたら、ちょっとどっちらけたさまであさっての方角向いてなにごとかつぶやく。それからまた改めて正面へと向き直るのだ。その時にはやや気まずげな表情で、大きな頭をぺこっと上下させていくぶんかトーンを落とした口ぶりで言うのだった。
「ああ、ベアランド隊長、すまなかったね。年甲斐もなくついカッとなってしまって? これでも昔よりはだいぶ落ち着いたんだが、ああいう若くて威勢のいいヤツを前にするとどうしても……! いざケンカになったら勝てやしないのはわかっているんだ。だからあんたには謝っておくよ。それと名乗るのはこれで二度目だけど、念のために。イージュン・ビーガルだよ。イージュンでもビーガルでも、好きに呼んでくれ。あとそっちの小さくなってくるそこの若造君もね!」
「ああ、若造、ね! いろいろと楽しくなりそうだ。大丈夫なのかね?」
恐縮する若いクマ族のリドルを背中に控えながら、横幅がじぶんの三倍くらいもありそうな肥満のクマ族に向き合うベアランドだ。おんなじクマ族でもここまで大柄なのはそうそうお目にかかれないと恐れ入ってしまう。
勢いもすさまじい。
聞けば意外なことを言い出すこの凝り性のクマ族に半ば詰められながら、今度はじぶんのアーマーについてあれやこれやと質問攻めに遭う隊長は、背中の専任メカニックもろともにノックアウトされてしまうのだ。
嵐のようなアーマー談義、あるいは漫談がはじまった。
半ばで記憶が飛びかけるアーマー小隊隊長は、戦場の過酷さを思い知らされた。昼近くになってお互いの腹が大きな音を立てるまで、戦いは続いた。
あやうく死ぬのかと思った。
若い整備士ともども。
戦場にはいたるところに猛者がいた……!
※次回に続く……!
まだまだいろんな寄せキャラが出てくるので、その活躍と併せてお楽しみいただければ幸いです。
実はこの話はまだ途中で投げ出していたみたいで、オチがないままに放置されていたのですが、強引にオチを付けてしまいました。余裕があったらまた改めて……やらないか(^_^;)




