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005.秘薬

万能薬ではない扱いの方

 「すまない、これと同じものを五本くれ」


 少し慌てた様子で店に飛び込んできたのは、冒険者ギリシャだった。彼はなじみの客であり、冒険者パーティーのリーダーでもある。その右手には、握りしめられた秘薬の空瓶があった。


 秘薬——所謂ポーション。魔力で強化された液薬であり、迅速に効果を発揮する。場合によっては切断された腕さえ即座に繋げることができる。しかし、その対価も大きい。価格は勿論のこと、魔術によって一時的に引き上げられた身体には大きな反動が残る。特に治癒系は本来の生命力を前借りするようなもので、長い目で見れば寿命を削る代物だ。


 冒険者にとっては切り札とも言えるこの薬を、五本も求める。それだけで、ギリシャが重大な仕事に直面していることは明白だった。


 「治癒薬を五本って……あんた、死ぬ気?」


 ノルンは驚きを隠せず、眉をひそめた。肉体的にも、そして経済的にも、大きな負担になるはずだ。


 「死にかけてるのは俺じゃねえよ。すまない、あるだけでいい、頼む」


 ノルンは無言で頷き、奥の棚へと向かう。やがて、小箱を抱えて戻ってくる。その中には、用途ごとに蓋の形状が異なり、色付きの蝋で封印された薬瓶が整然と並べられていた。


 選択の羊はただの道具屋である、錬金術師の店ではない。多種多様な薬品を扱うわけではなく、冒険者が手に入る価格帯で、需要の大きいものだけを厳選して置いている。大雑把に治療、強化、回復——この三系統が基本だ。


 「空瓶持ち込みで、金貨四枚でいいわよ」


 ノルンは小箱から、ギリシャが持ち込んだものと同じ造りの瓶を五本取り出し、カウンターに並べた。赤い蝋で封印されたそれは、身体的な外傷に効果を発揮する治癒薬だ。


 「すまねえ、恩に着る」


 ギリシャは懐から金銀の硬貨を取り出し、カウンターに広げて金貨四枚分を用意する。


 「はい、確かに金貨四ね」


 ノルンは代金を受け取り、ギリシャをじっと見つめた。


 「それで、何があったの?」


 ギリシャは息を整えながら答えた。


 「旧堕法院の遺跡で、大きな落盤があった。ヴィヴィ達が巻き込まれたんだ」


 「……大丈夫なの?」


 「詳細はまだわからない。でも中で何かが暴れてる。救出依頼は出したが、動くのは明日になる。それまで待てないから、俺はエレノアと先行して様子を見てくる」


 遺跡内ではよくあることだ。しかし今回は、少なくとも異変に気付いてもらえただけ運が良い。多くの冒険者が、人知れず消息を絶つのだから。


 「ヴィヴィがいるなら、これを持ってきな」


 ノルンはそう言って、紫色の蝋で封をされた小瓶を差し出した。それは枯渇した魔力を一時的に回復させる薬。普通なら魔術師用の品だが、ヴィヴィなら有効に使えるはずだ。


 「あと、エレノアに伝えて。旧堕法院の西側は、詞選院の階廊に繋がってるって。彼女なら意味がわかるはずよ」


 ギリシャは一瞬きょとんとしたが、頷いた。エレノアなら、その情報から抜け道を見つけ出せるだろう。


 「助かる。行ってくる」


 ギリシャは薬瓶をしっかりと袋に収め、店を後にした。ドアが閉まり、再び静寂が戻る。


 ノルンは溜息をつき、カウンターの上に残された空の薬瓶を手に取り光に当ててみる。幾度も再利用されたその硝子の表面には、無数の痕跡が残っていた。歴戦の薬瓶ほど縁起が良いという者もいる。


「あんたのおかげで客足が途切れないってのも問題よね……」


そう呟きながら、彼女はその空瓶を大事そうに木箱の中へとしまい込んだ。

その手つきは、どこか優しさと祈りに満ちていた。



ノルンセレクト

治療の秘薬(低品質):金貨1

小さく厚手の硝子瓶に入った薬液。容量で言えば30mlほど。

治癒能力を爆発的に上昇させてある程度までの怪我を即座に癒す。自己修復の前借のため乱用はお勧めできない。また体力も消耗する。


魔力の秘薬(中品質):金貨1と銀貨20

こちらも同じ程度の容量。

枯渇した魔力を回復させ。精神の消耗が激しいため使用後には安静が必要になる。


ポーションについて。

あれば永久に戦えるとか、どんな怪我や損傷も見境なしに完治したりはしない。

あくまでも魔力によって薬効即効性を大幅強化した薬の一種。副作用も当然ある。

専門に扱うのは錬金術師。要望に合わせた様々な効能で作り出せるが特注品はとんでもない価格になる。

ノルンが扱う廉価品でも価格は金貨単位とかなり高め。

店舗に並べないのは万引き対策。

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