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003.仕入

小さな雇用、その小さな仕事が暗闇を照らし世界を救うことも


開店前の掃き掃除を終え、ドアのプレートを裏返し、定位置のカウンターへ向かおうとしたとき扉が軽く叩かれた。

「はーい、もう開いてるわよ。」

ノルンが振り返ると扉が小さく開き、少年がひょこっと顔をのぞかせた。


「おはようございます、ノルンさん!」

まだ声変わり前の澄んだ声。少年は10歳くらいだろうか、細身だが、働き者らしい手には少しだけ土の匂いがついている。両腕で抱えた大きな荷物――束になった松明がちらりと見えた。


「ああ、トリスね。今日もありがとう。そこに並べてくれる?」

ノルンが入り口脇の棚を指差すと、トリスは「はい!」と元気に答え、松明を丁寧に揃えていく。


「25本、先週と同じ本数です!」

自分の仕事を報告する少年を見て、ノルンは並べられた松明を確認する。


「へえ、ずいぶん上達したじゃない。火付きも悪くないって評判よ」


ノルンが一本手に取ると、それは見事に削り出された棒に、丁寧に巻きつけられた油浸しの布が巻かれている。布の巻き方も、松明の握りやすさも申し分なかった。


「松明ってのは使う場所次第で命を預ける道具になるんだからね。作り方一つで燃え尽きる速さも変わるし、手元が滑ったら大事故になる。たかが松明だけど、これに救われてる冒険者もいれば、足をすくわれた冒険者もいるのよ、わかった?」


真剣な目で頷くトリスを見て、ノルンは少しだけ笑みを浮かべた。


「で、今日はこの代金よね。」

カウンターに戻ると、小さな布袋を取り出し、その中から銀貨を数えてトリスに渡した。


「はい、これで25本分。」

両手でその銀貨を受け取り、嬉しそうに頷く。


「ありがとう、ノルンさん!」


ノルンは少年を見下ろしながら、ふと手を止めた。

「それで、トリス。」

「なに?」

「このお金で何を買うのかしら?」


他愛のない世間話のつもりだった。

自分がお駄賃でリボンやお人形の靴を買った時のように、少しだけ子供の秘密を共有したいという好奇心だ。

だが少年の答えはノルンが期待した者とは違い切羽詰まったものだった


「えっと…… 今、斧の柄が折れちゃってて……それを直すのに」

その言葉を聞いて、ノルンは少しだけ目を細めた。

柄が折れた斧で仕上げたとなればこれだけの松明にどれだけの時間がかかっただろうか。

幼い幼年の身の上を思えば、ノルンといえども多少の母性が重い首をあげる


「偉いわね。でも、少しは自分のためにも使いなさいよ。働いた分、少しくらい好きなものを買ってもいいんだから。」


「え、でも……」

「いいから。例えば、甘いお菓子でも買って、たまにはのんびりしなさい。子供は遊ぶのも仕事のうちよ。」


少年は戸惑いながらも、最後には「うん、わかった!」と笑顔を見せた。

その笑顔を見て、ノルンも微かに微笑む。

わかってない、子供といえど意地があり助けを求めることができない、男の子なのだ

ノルンは馬鹿で真面目で不器用な冒険者という男の子の事を何人か頭に思い浮かべる


「みんなおんなじか……」


僅かばかりの銀貨を大事に握りしめて、店を出ようとする少年にノルンは声を掛ける

壁にかかってどれだけの月日が経ったかわからない古ぼけた手斧に歩を進める

安物にすぎないがそれでもトリスの稼ぎでは到底手に入るものではない


「これ持って行きなさい」

「トリスの作った松明が無いと私が困るから貸してあげるわ」

「折れた斧は今度持ってきなさい、ちゃんと修理してあげる」


壁で偉そうにふんぞり返っているよりは、孫ぐらいの子とせっせと松明でも作っていた方が古ぼけた斧も幸せだろう

そんなことをふと思いながらケースごと手斧をトリスに手渡す

ずっしりとた手斧を胸に抱いてトリスは満面の笑みをこぼす


「こんどはもっといい奴つくってくるから!!」

扉の鈴がカラン、と響き、店内には午前のひと時、冒険者たちの喧騒までのわずかな静寂がおとづれる。


ノルンセレクト

松明(銅貨15):屋外用の照明具。安価な消耗品のため需要が大きい、薄利多売が基本だがノルンのとこは利益が無い。照明以外にも純粋に火のついた棍棒であり普通に危ない。虫や草木を焼いたり、火種にしたりと使い方は多岐にわたる。携帯性の良いランタンや光源魔法と選択になりがち。使用時に片手が塞がるという大きな欠点もある。



映像作品では肩身の狭い松明

魔法や暗視、ヒカリゴケ、なんか光る鉱石もう洞窟にシャンデリアでも驚かない

某ゲームで魔物発生を防止することで大出世

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