風化した過去
最近寒くなってきましたね
最近めっちゃ布団の中にいる気がする
未だに思う。
何故誰も不思議に思わないのだろうか?
今は家が建ち、魔物と戦いながら月日が流れる。
食文化は今も新しいものが生み出され、武具も考え込まれたものが数多く試作品として出回り、商品化を目指していると言うのに。
皆、考えるのは未来か、現在だけなのだ。
ならば『過去』は?
過去という言葉があるにも関わらず。
その意味を知っているのにも関わらず調べようとしない。
多くの文献は過去を記している。
しかしそれは今の情勢ができてから今現在までの過去である。
ならばそれより前は?
今の国々が発足するより以前の世界はどうなっていたのだろうか。
お父様に聞いても、お爺様に聞いても知らないと言う。
ならばこの手で調べるしかない。
誰も教えてくれない。
だから仕方なかった。
探究心とは、そう思ってしまったらこの眼で確認して見たいと思ってしまうのだから。
アルケル達が次に行く国を決めていたところの話。
ある話が飛び込んできた。
それは龍の国で、王族が死刑を言い渡されたという噂だ。
よくよく聞くと、ある禁忌を犯したらしい。
龍の国は今の世界が出来上がる前から現在まで、霧と嵐を盾に周りの国々に周知すらされていなかった国だ。
魔法とは違う術を使い、直剣では無く反った武器を使うことで有名である。
それが現在少しずつ普及し始めたのが「刀」である。
龍の国では、過去を調べることは禁忌である。
過去は消え去ったものであり、価値のないものである。
そして、それを調べるということは大いなる災いの元であるということだ。
「アルケル・・・これは・・・」
ハイドがこちらを見る。
それに頷きで返すしかない。
今の自分たちにコレは必ず必要なものである。
「行こう。ハイド。龍の国へ」
龍の国。
激しい嵐と霧に守られる島国。
雷雲が国を囲うように鎮座しており、それが龍のように波打っているからとそう呼ばれている。
あるものは空に登る蛇のようなものを見たという者もいる。
あの国は何かを隠している。
それだけは各国もわかっているが外交に持ち込める訳もなく、見るだけしかできていないのが現状だ。
船で行けば転覆し、島国なので陸を歩くことも出来ぬ。
しかし、龍の国の民は確かに大陸にいるのだ。
何か、彼らが安全に進める道があるのは間違いない。
それを見つけることは出来ず、ただの事実が転がっている。
それが公になっている、というか一般的に知られている龍の国である。
しかし、方法が無い訳では無い。
ある龍の国の商人に気に入られる、大金を渡すと龍の国に入ることが出来る。
これは暗黙の了解のようなものであり、ひとつのルールであった。
これは違法であるが龍の国も黙認しているものだ。
しかし、アルケル達に大金は無い。
ならばどうするのか。
ならばもうひとつの方法を取るしかないのである。
向かったのは誰も寄り付かぬ路地裏。
そこには龍の国に行くために必要な商人の店がある。
一目見ただけではただのボロボロの家。
屋根は崩れており、所々に蜘蛛の巣が張っている。
ベランダは腐り、崩れている。
立て付けの悪い扉をゆっくりと開けるとそこにはいかにも商人の店が広がっていた。
「いらっしゃい。何をお探しで?」
ポーション、武具、魔導書まで数多くのレア物が並ぶ店内。
その商品達の奥から低い声が聞こえる。
煙管を咥え、ふぅっと煙を吐く男が現れる。
彼が商人である。
指に大きな指輪を嵌め、バンダナを巻いたクマの酷い男。
商人と言うだけあり、クマが酷くてもその眼は瞬時に見抜く。
品定めをする眼である。
それが、商人と分かる鋭い眼である。
それでもアルケルは言わなきゃいけない。
自分達の為に。
自分達がやりたい事の為に言葉という回収出来ないナイフを飛ばさなければならない。
「気高い蛇を捕まえたい。麓までのチケットはあるか?」
それは隣にいたハイドにも分からない一言。
しかし、その言葉は数多の商談を潜り抜けたであろう男には伝わっている。
「クハハ!面白い。そういう奴は初めてだ。」
灰皿に煙管を乱暴に置くとゆっくりと口を開く。
商談というテーブルに座った商人程、恐ろしいものは無いと言う。
「それで、見たところ金も無い冒険者だろ?どうやってそのチケットを買うんだ?」
せいぜい1週間持てば良いくらいの貯金しかないアルケル達の有り金をかき集めてもたかが知れている。
しかし、アルケルには絶対的な自信があった。
それは彼自身のものでは無い。
しかし彼の力になってくれるものである。
「物々交換のようなものだ。それでも構わないか?」
「いいぜ?商人は情報だろうがなんだろうが売るもんだが、買うのも商人の嗜みだ。」
ニヤリと笑った。
それは勝ち誇った顔であった。
商人が商談というテーブルに着いた時点で勝ったようなものだ。
「城塞都市『ローンファ』の最優秀鍛冶師の武器をこの店に卸す。ってのはどうだろう。」
例えそれが世界一の豪商だろうと。
耳を傾けなければならない内容だ。
それを肯定するように目を見開いて固まっていた。
「面白い!良いなお前!だが、どうそれを証明する?」
「現在のローンファの最優秀鍛冶師カサスは俺の兄だ。」
冒険者カードによりそれは証明される。
商人はお手上げの状態で呆れていた。
「良いだろう。この商談乗ってやる。」
「ありがとう。俺はアルケル、こっちはハイドだ。」
「よろしくなアルケル。俺はアサヒってんだ。」
龍の国へのチケットはこうして二人の手の中に収まった。
そして、数日の時間をかけ二人は龍の国に一番近い海岸に来ていた。
「さて、ここからは他言無用だ。良いな?」
「うっかりバラしてしまった場合どうなるんだ?」
「龍の裁きを受けるだろうさ。」
そう海の向こうを見据えてアサヒが言う。
そうして一番近くにあった木の根元から石を拾ってきた。
「そんな石、何に使うんだ?」
アルケルが疑問に思う。
ニッと笑ったアサヒは海岸の一番高い木の裏に回る。
そして拾ってきた石を木の凹みにはめ込んだ。
小さな高いハマる音が聞こえた。
そうすると海岸の大きな石が少しだけ、人一人がようやく通れる地下道が現れるではないか!
「行くぞ。ここからはオマエらに取っては未知の国さ。」
暗い地下道にランプを灯し進む。
龍の国は誰にも知られず鎮座する。
龍の脚に見つからないように進むしか無い。
それが掟なのである。
今回の商人『アサヒ』は龍の国生まれ。
外の世界でたくさんの魔道具、魔導書などを集めたいという夢の元外に飛び出た。
実は今回、龍の国に帰るのは出ていって初めてである
アルケル達より前に龍の国に行きたいと言った人達は部下に行かせた。




