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星が落ちた空を見上げる者よ  作者: 鳴誠
何も無い黒
11/19

深く暗い

遅れましたァ!

最近寒くない?

でも寒い日に食べるアイス美味いよね

「強かった。あの魔物は」


汗が頬を伝う。

血が滲む包帯をして寝ているハイドを横目に呟く。

想像にいる二足歩行の狼。

暗い夜に仲間という身体を使い戦うあの獣を。

果たして俺は倒せただろうか。


木の皮が剥がれ落ちる。

幾度と無く殴り、蹴られた木はバキバキと音を立てて倒れる。

何度も、何度も何度も何度も。

想像した。切った。殴った。折った。

しかし、倒せない。あと一歩足りない。

二歩かもしれない。倒せない。

弱い。ただひたすらに。自分が弱い。


強くなった気でいた。負けた訳じゃない。

それでも弱さに気がついてしまった。

がむしゃらに刀を振るう。

刃こぼれなんて、折れるなんてしらない。

自暴自棄だ。強さがあると思っていた。

貰った星は強い。分かりきっている。


そうだ。自身が、自分が弱いのだ。

それを理解してしまった。


「俺は弱い・・・。これじゃあっ・・・」


遂に膝を着いてしまう。

地面を思い切り拳で叩く。

何回も。何回も。


「そこで、お前は止まるのか?」


ハッと顔を上げる。

血の滲んだ包帯をつけた狼が二本足で立っていた。


あぁそうさ。俺は弱い。

強くなった気でいた。前の巨人と戦った時も思った。

考えないようにしていた。

そうしてしまったら、戻れない気がした。


「だから止まるのか?」


低い声が頭に響く。

それは試されているようで、答えを待っている。

お前はそうなのかと。お前は止まってしまうのかと。

俺は打ち勝った、お前はどうだ?と。


「あぁそうさ!俺は弱い!どんだけ能力が強かろうと!」


手前が弱きゃ意味ねぇよ。

そうだろう。

俺には・・・理不尽に勝てないのだ。


「今のお前ならこのボロボロの身体でも勝てそうだ」


これは挑発だ。

いつもなら冷静に挑発だとわかっていただろう。

しかし今はそんなことを考える余裕もない。


「ああぁああぁぁぁあああ!!!」


気がついたら刀を振るっていた。

気がついた・・・というかハッと挑発だと理解した時にはもう刀はハイドを切ろうと振り下ろしていた。

しかし刀はハイドの肩を切る事はなく肉すら断ち切れなかった。


「理解をしたか?お前はそこで止まるのか?」


ただ一言。

それは何気なく言った言葉なのかもしれない。

ただ励ます言葉だったのかもしれない。

しかし、その言葉はアルケルの張った心の壁をすんなりと通ってきた。


「あぁ、俺は弱い。その弱さを理解する。」


持っていた刀を静かに下ろす。

分かりきった弱さを認めるんだ。

それだけで一歩前に進める。

小さな小さな一歩かもしれない。

見えない一歩かもしれない。


それでいい。

それじゃなきゃいけない。


「弱さを理解出来ぬ者は、強くもなれない。」


大きな大きな手が、強くしなやかな指がこちらを指す。

言葉の意味がわかる。

思っていることが理解出来る。

でも、それから逃げてしまえば弱いまま。

自分が弱いと確認する行動こそが大切なのだ。




木の上で一人。

高く鋭く空に伸びる針葉樹の上に座る人影。

それは大きくなく。華奢な姿。


「ふぅん?面白いじゃん。」


小さな男の子。

二人が談笑するのをただ遠くから、目の前にいるように見ている。

首を少しだけ上にあげて虚空を見つめる。

口角を上げ、歪んだ顔はおぞましい。

ただの小さなどこにでもいる男の子。


身なりは整えられ、背中にひとつの鉄の塊を背負う。

無愛想である。

ひとたび少年が立てば背負う鉄の塊で前に倒れてしまう。


「楽しみだなぁ・・・。」


夢にまで見た殺し合いだ。

魔物は弱すぎる。

はやく殺りたいな。

僕の武器にどんな反応するだろうか。

恐れるだろうか。それでも挑んでくるだろうか。

逃げようとするだろうか。萎縮してしまうだろうか。


「あぁ・・・僕は凄い楽しみだよ!」


彼は十九。ただの十九。

特別な数字ではあるが、ただの少年だ。

ふわりと浮いた彼はくるりと背を向け、森の中に消える。

彼の首元に彫られた刺青はこの世界には見られないモノ。

天をも照らすあの御方の為に。


僕は十九。それだけで良い。

あの御方に選ばれたのだ。

それで良い。下克上なんぞするものか。

御方が選んだのだ。そのお選びに不満を持つなど。

僕には出来ない。

それに他に選ばれた者は僕には分からない。


「━━━━様。お迎えに。」


黒いフード。

如何にもお付きの者の姿をした声がする。


「僕は十九だ。二度と間違えるな。」


憤怒の表情を隠しきれない十九に萎縮しながらも謝罪をする。フードの人物。


「申し訳ありませんでした。では十九様と。」


直ぐに訂正したことで、多少和らいだのか十九はそれ以上何も言わなかった。


「では、移動致します。」


小さく高い音が少しだけ周りに響く。

そこには先程まで人が居たという足跡のみが残されていた。

それももう無くなるだろう。


ただの静寂と歪んだ何かがそこから消えた。

アルケル達がそれを知るまでまだまだ先の話。

ご拝読頂きありがとうございます!

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