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魔王戦線  作者: 桜花
魔王戦線開幕編
5/5

4話 魔王ハイネス

 サーフィラの出産直後、膨大な魔力が大陸中を津波のように巡った。

その魔力の波に、弱きものはへたり込み、力あるものでさえも地に膝をつく。それは戦闘族である魔王ハイネスも例外ではなかった。


「なんだ⋯⋯この魔力量は⋯⋯」


 途絶えそうな意識をなんとか保ちながら、ハイネスは呟いた。視線を後方に向けると、従者であるカルロが倒れ込んでいる。


「一体なにが起きてるんだ? 俺と同じ、いや、俺よりも多い⋯⋯てか、こんな馬鹿みたいな量の魔力、魔王でも持ってるやつなんかそういねえぞ⋯⋯一体誰の──」


 そう口にしようとした時、ハイネスはある事に気がついた。


 魔力にはその者の癖がある。例えるなら体臭や雰囲気に近い。魔力の所持者によってその形は様々だ。

それは、魔王達にも言える事で、ハイネスの魔力は轟々と騒がしさを帯びている。魔王の中でも特徴的な魔力を持つ者は少なくない。その中でも特に特徴的なのはインナーワイヤー、プレゼント、そしてマオウの三人だ。

 インナーワイヤーの魔力は凛々しさと力強さを混ぜたような、プレゼントは日によってまったく違った一貫性のないような、マオウは言葉にできない威圧感を放つような魔力を持っている。

 上位種族である彼らは、魔力の癖も強くなる。その為、必然的に存在感もすさまじい。しかし、ハイネスが感じた魔力の波には対して特徴がなく、魔王達のイロモノ魔力とは似ても似つかなかった。

 だが、ハイネスはこの魔力を知っている。この魔力に似た魔力を魔王ハイネスは嫌というほど知っている。


「まさか、サーフィラ⋯⋯」


 他の魔王とは違い人間から純粋に進化したサーフィラの魔力はそこまで癖がなかった。故に彼女は魔王達の中でも目立った存在ではなかったが、ハイネスはサーフィラを魔王の中で一番信頼していて、彼女とは貿易面や外交に置いて積極的に協力体制を取っていた。その上、彼女が支配する魔王国カルトとハイネスが支配する魔王国マンバは同じ南側に位置していた為、共に戦う事も多かった。

 そんなハイネスだからこそ分かった。この魔力の正体が、サーフィラに近しいものであり、その持ち主がサーフィラの子であると。


「あの時ノスドラの野郎が言ってた事は、間違ってなかったってことか⋯⋯」


 数日前、ノスドラが予言した内容は、魔王を超える力を持った者が生まれるというものだった。それを聞いた時、ハイネスは直ぐにその正体がサーフィラの子であると悟った。ハイネスだけではない。恐らく他の魔王達も既に気付いていた。そして今、その予言が的中したのだと確信した。


「こうしちゃ、いられねえ⋯⋯」

 

 幸い、魔力は一瞬にして消えた為ハイネスは直ぐに立ち上がる事が出来た。


「おい! いつまで寝てんだよ!」


 魔力の影響で気絶したカルロにハイネスが平手を食らわすと、カルロは直ぐに意識を取り戻した。


「ハイネス様?⋯⋯私は⋯⋯一体⋯⋯」

「事情は後だ。支度しろ」


 ハイネスの言葉にカルロは一瞬怪訝な表情を見せたが、何かを察したように二つ返事を返した。

 カルロは数秒で支度を終わらせると、真剣な面持ちでハイネスに聞いた。


「どちらへ」

「カルト城だ。サーフィラが危ないかもしれない」

「御意」


 カルロは何も聞かなかった。彼はハイネスの行動を疑わない。主人を信じ、主人の成す事には口を出さず、主人の為に動く。それが魔王ハイネスと従者であるカルロの距離感だった。


 戦闘族であるハイネスは強靭な肉体と無尽蔵の体力を兼ね備えている。故に、彼の移動手段は生身での走行。

 魔族と人間が共存するラクシア大陸での移動手段は馬や飛竜など、多様に存在するが、ハイネスにとってはそれらを駆使するよりも自分の足で走った方が早い。魔王の中でも動体視力はトップクラスなのだ。

 マンバからカルトまではそこまで遠くはない。ハイネスたちが全力で向かえば数分で到着できる距離だ。

 ハイネスは全力で走る。従者であるカルロはハイネスに比べると遅れているが、何とか着いて来れている。


(なにもなけりゃいいが⋯⋯)


 不安視するのは他の魔王達だ。アダムとイヴが抑止力になっているとはいえ、中には隙を伺っている魔王がいる事をハイネスは知っている。そして魔王を超える力の誕生。もしその赤子が成長すれば、魔王間の均衡は圧倒的にサーフィラに傾く。正直、ほかの魔王達がおとなしくしているとは思えない。


(大体の魔王なら太刀打ちできる。だが、もしあいつに目を付けるのが⋯⋯)


 一瞬考えるだけでも三人は頭に浮かぶ。その三人、それどころかアダムとイヴが介入してくるとなれば話は変わる。どうあがいてもサーフィラを守れない。


(間に合ってくれ⋯⋯)


 ハイネスは更に速度を上げる。到底、カルロでは追いつけない速度でカルト城に向かった。

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