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魔王戦線  作者: 桜花
序章
1/5

魔王参加型緊急会議【ナチュラ】

悩んだ結果、序章を一つにまとめることにしました。

2.20 タイトルとあらすじの変更

 今から二千年程前。

 魔族が人間を貶め、嘲笑っていた時代。魔王と言う名前に価値がなかった時代に、一つの大きな戦争が起きた。


 それが『魔王戦線』。


 目的のそぐわない魔王達の間で起きたその争いは、とある魔王の勝利で幕を閉じ、ごみの様に多かった魔王を名乗る低級魔族達は滅び、その戦いで生き残った十五の存在が、真の魔王として君臨した。


 その際、十五人の魔王はある誓いを、契りを立てた。

それが、『無闇に人を傷つけない』と言うものだった。


 それからと言うもの、魔王達は政治面、財面などで人間を支え続け、その上、彼らの圧倒的な力は武力の抑制となり、ラクシア大陸と言う一つの大きな大陸の均衡は保たれていた。


 それから二千年の時が経った今、自体は動こうとしている⋯⋯




******



「これより、魔王参加型緊急会議。ナチュラを執り行います」


『ナチュラ』

 それは、均衡を揺るがし得る出来事、又は占い師であるノスドラが何かを予言した際に、魔王全員で行う会議のことだ。

 会議の開始を号令した人物が、そのノスドラである。


 会議会場は暗がりで虚ろ気味だが、十五人の魔王が囲む大きな円卓の中心には穴が空いており、そこにノスドラの席が設けられている。


「今回はエライ早かったじゃねーの。何年振りだ?」

「三十六年だ。確かに、いつもに比べれば少々早すぎるな」


 最初に響いたノイズの聞いた声に対し、ど太い声が答える。


「わたしなんて完全に油断してたからさっきまで男と遊んでたわ⋯⋯ああ、昨日は可愛い女の悪魔とあんなことやこんなこと⋯⋯」

「やめて。気持ち悪いわ」

「もう、相変わらずお堅いわね⋯⋯」

「あなたがオープンすぎるのよ」

「ヤダ! 褒めないでよ⋯⋯」

「そう聞こえたのなら貴方は随分と幸せ者ね」


 まるでコントのような掛け合いを繰り広げるのは、低い声を無理やり高く出しているような誰もが身のけもがよだつ様な声と、凛とした、それでいて静かな正真正銘、女性の声だった。


「そうよ。私は幸せ最高潮なの⋯⋯貴方とは違ってね」


 そのままおかまチックな声が煽る様に言うと今度は建物を揺らさんばかりの大きな声が響き渡る。


「そうかい!! 幸せかい!! ならよかった!!!!」

「うるせーよ! お前はもっと静かに話せねーのか!?」


 耳を塞ぎながら、怒鳴るのは、若々しくもあり、頼り甲斐のある声だ。


「あ⋯⋯あの!」


 愉快に会話が進む中、一人の少女が弱々しく自信の無さそうな声で切り出した。

 全員の視線が少女に向けられる。


「話が進まないので、一回静かにしませんか?⋯⋯」


 か細い声でおずおずと話していると、また違う声で薬と誰かが笑った。

 騒いでいた者たちが気まずそうにぐうと言う声を漏らす。


「すまない。ルナン⋯⋯私の役目だったがな」

「い、いえいえ⋯⋯ボルケーノさんに任せてばっかじゃダメだと思って⋯⋯」


 先程とは明らかに違う、本当に逞しい声が彼女に謝罪すると、少し跳ねた様な声でそう返した。


「話を続けてくれ」


 そのまま声の対象は占い師へと向けられ、話は本題に戻される。


「皆さんを呼んだのは他でもありません。私が見た未来のことです」


 途端に雰囲気が変わる。

 会議室に緊張感がこもる。


「近い未来に、あなた方を超える力を持った者が生まれると思います」


 魔王達の反応は様々だ。

 静かに驚く者もいれば、「なんだと!?」と声を上げる者、話を全く聞いていない者や、聞いた上で無言を貫き通す者もいた。


「場合によっては、今の状況から大きく変化する可能性もあります。皆さん、十分に備えておいてください」


 占い師が冷静に注意喚起すると、それに対し今まで喋らなかった、緊張感を纏った声が彼女に問うた。


「その赤子はいつ生まれる?」

「もうすぐです。既に何者かのお腹に宿っています」


 そんな声音にも悪魔で冷静にノスドラは答えた。

 彼女はこう見えてもこの中にいる魔王の誰よりも長生きしている。

 何故なら彼女は【長寿族】と言う種族だからだ。 

 とは言え、そんな種族は元々存在していない。

 彼女を含め、ここにいる全ての魔王は進化した存在なので、各々『上位種族』なる存在だ。

人族、魔族、妖精族エルフ、竜族が、自分の個性や、自然の摂理などを用いて進化しているのだ。


 瞬間、会議室の灯りが灯った。

 全員の姿が確かなものとなる。



魔王ルナン『妖精族』ピクシー

 弱々しい声の正体。薄黄色の髪と先の尖った長い耳が特徴の魔王。


魔王ハイネス『戦闘族』バトラー

 人族から進化した魔王。炎の様な赤い髪をカチューシャの様な物で上げている。

彼から発せられる、若く力強い声は、彼が戦闘族である所以だ。


魔王サヤマンダルク『神脳族』サイコミッター

 一見、典型的な真面目な短髪黒髪にメガネという容姿だが、彼女の頭脳は魔王の中でも群を抜いている。

 因みに、先程のクールな声は彼女のものだ。


魔王アダム&イヴ『原初族』エンペラーヒューマン

 人族派生の進化。

 いつも二人くっついている少年少女だが、彼らに頭の上がる魔王はいない。


魔王ガレス『浪人族』ムーンヒューマン

 ヒューマンとは言うが、魔族からの派生。

 頭だけ狼で、手が六本ある。

 満月の夜は魔力量が三倍まで膨れ上がる。


魔王ゴレム『岩躁族』ゴーレマー

 人族が進化して、岩と融合した魔王。

 岩や石を操り、ゴーレムを召喚したりできる。


魔王インナーワイヤー『中性族』ニューヒューマン

 性別不明の人族派生。

 男の力強さと、女のお淑やかさを兼ね備えたハイブリット。(オカマ)


魔王ブルルブルルル『王蟲族』オーム

 虫が進化した存在。

 声にはノイズの様な雑音が混じっていて、かなり肌黒い。


魔王プレゼント『不思議族』ミステリー

 基本何を考えているか分からない。

 人族派生。


魔王サーフィラ『人間族』ヒューマン

 唯一人間のまま魔王になった存在。

 現在、お腹に子を授かっている。


魔王バイオスバイス『爆音族』ボイス

 声のデカさが武器の魔王。

 普段の声も大きい。

 人族派生。


魔王ロストベルク『羽人族』フリューゲル

 人族派生の悪魔で、背中に鳥の様な翼を宿している。

 

魔王テクニシャラ『色欲族』サキュバス

 人を魅力することに長けた、魔族派生の魔王。

 彼女が本気になると、誰もが誘惑されてしまうかも⋯⋯


魔王ボルケーノ『竜神族』ドラゴン

 竜族が進化し、魔王になった存在。

 人の様な姿をしているが、竜の特性はしっかり兼ね備えている。


魔王マオウ『魔神族』ダークマスター

 魔族から純粋に進化した魔王。

 両目の下に悪魔の紋章を宿している。


「それでは、皆様の判断を楽しみにしております」



 個性とりどりの魔王達と、不老の占い師。


 大陸最強の彼らが突如呼び出され出向いた会議。ナチュラは、ノスドラの一言で強制的に終幕を迎えた。

 魔王達は厄介な話で盛り上がる前に、空間転移で一瞬にして自国へと戻された。

 彼らがどう思い、どう行動するのか⋯⋯

 これからの展開に占い師は一人心踊らせニヤリと微笑んだ。



******


 ノスドラにより各々の城に戻された魔王達。

 

「お帰りなさいませ。サーフィラ様」


 城の自室に戻ってきた魔王サーフィラを、一人の女が迎えた。


「ただいま。ミナ」


 魔王達には、それぞれ従者が付いている。

 その距離感は魔王によって違うが、サーフィラの従者であるミナは魔王であるサーフィラに敬意を込めて接している。


「今回はお早かったですね」

「まあ、前回のことがあったからね⋯⋯」


 呆れたように肩をおとすサフィーラ。

 それもその筈、前回ナチュラが開催された際には『原初族』であるアダム&イヴの提案でそのまま宴が行なわれ、その宴は丸々一か月間の間続いた上に、帰ってきたサフィーラは完全に出来上がってしまっていた。

 ミナはその時、よく一か月も飲みっぱなしで居れたものだと思っていたが、まだサフィーラはマシな方だ。

 純粋な人間という事もあるが、他の魔王達はサフィーラ程酔っ払ってはいなかったらしい。

 一か月飲み続けで無事なのもおかしいが、『神脳族』のサヤマンダルクは、『龍神族』であるボルケーノと飲み比べをし、そのクールな表情を崩す事なくボルケーノの遥かに多い量を飲んでいたとか⋯⋯

 全く、見掛け倒しにも程がある⋯⋯


 結果、その際の惨事を危惧したノスドラが、また魔王達が余計なことを言い出す前にと要件だけ伝えて城に戻したのだ。

 そのぐらいの抜かりなさを持つのだから、流石長い寿命をだてには生きていない。

相手が魔王だろうが肝っ玉は座りまくっている。


「そうまでして皆様をお呼びになるとは、そこまで重要なことだったのですか?」

「重要も重要ね⋯⋯もしかしたら、今まで通りにはいかなくなるかもしれない⋯⋯」


 大きく膨らんだお腹を摩りながら答えるサーフィラに、ミナは不安な表情を浮かべる。


「まさか!」

「ええ⋯⋯そのまさかよ。この子はものすごい力を持って生まれてくる。それは、私たち魔王も凌駕するほどの力⋯⋯」

「それを、他の魔王に知られたのですね⋯⋯」

「どちらにしても、知られてしまうわ。それだけの力を持つ子が生まれれば、魔力量ですぐ気づかれてしまう⋯⋯それに、私としても予想が合っていたのか知りたかったしね」


 サーフィラが小さく微笑みかけるも、ミナは難しい顔を崩さないでいる。


「もしですよ、サーフィラ様のお子様を他の魔王が奪還、又は処分しようと為されたら⋯⋯」


 そう言った瞬間、ミナは触れてはいけない部分に触れたのだと悟った。

 サーフィラから禍々しいほどの不気味な気配が溢れ出す。


「その時は、私はこの子を守るわ⋯⋯勿論、魔王の座から誰が消えようとも⋯⋯」


 息もできないほどの緊張感に、皆が固唾を飲み込もうとした瞬間、扉の向こうから慌ただしい足音が聞こえ、暫くすると扉が開かれた。


「何の用ですか!? 声も掛けずに魔王様の部屋に入るなど不敬ですよ!」

「す、すみません! ですが、緊急事態につきご勘弁いただけると!」


 入ってきたのはサーフィラの部下だ。どうやらかなり慌てている様子で、ミナに叱られると身体中に汗をかきながらも何か言いたげにしている。


「どうしたの?」


 サーフィラが自ら聞くと、部下は頭を地面につくまで下げて言った。


「は! 只今! 城の前に魔王マオウ様がお越しになりまして、サーフィラ様に合わせて欲しいと!」

「マオウが!?」


 信じられない様子でサーフィラが声を上げる。

 魔王の一人であるマオウは、嘗て一度たりとも他の魔王の領地に足を運んだことはなかった。

 つまり、彼とはナチュラの際でしか顔を合わせる事はなく、魔王の中でも、一番何を考えているのか分からないほどの底知れぬ存在だ。


「如何なされますか?」

「如何も何も、追い返すわけにはいかないでしょ⋯⋯」


 額から汗を垂らすサーフィラ。それほど読めない事態なのだ。


「取り敢えず、通して。いい!? 絶対に敵意だけは見せてはいけないわよ!」

「承知しました」


 サーフィラの焦り様から、事態の重さを把握したのか、震えた声で答えると、部下はそそくさと部屋を出ていった。


「一体、何を考えているのでしょうか⋯⋯」

「分からない⋯⋯ただ、このタイミングでここに来たという事は⋯⋯」


 苦々しい面持ちで再びお腹を摩るサーフィラを、ミナは見つめる。


「お茶をいれてまいります」

「ええ。お願い⋯⋯」


 そう言って、ミナはその場を離れた。


 一人残されたサーフィラは唇を噛み締める。


 全く予測ができない事態だが、唯一分かる事がある。

 それは、二千年続いた魔王の在り方が、この瞬間にも変わりつつあるという事だった。


 魔王マオウの訪問は、それほどまでに珍しい事だった。




 


 








種族の横のやつは二つ名みたいなものです

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