第四話 悪役令嬢は断罪される
シグナミアは婚約破棄をしようとしたのですから、悪役令嬢に含まれます。悪人ではないです。
牢で監禁されていたシグナミアは、夕刻になって移送された。
これより、首都内の広場で公開処刑がおこなわれる。
上部が十字になった、はりつけ台。
速やかにシグナミアは右手、左手、両足と、台に縛りつけられた。
薄暗くなりつつある広場では、大勢の人が集まり、シグナミアの処刑を見物しに来ている。その中に侍女のあなたは混じっていたが、城内で別れたフォーティックを見つけられなかった。
妹の姿がないことに、シグナミアも気づいているだろう。彼女の顔は青ざめていた。
「これより、罪を犯した貴族の処刑を始める!」
まだ新しい木で作られた台の横に立つ、美しきエスティール王子。国民の前だからなのか、ふざけた言葉遣いはしていない。
「何か言い残すことはあるか?」
力強さのある低い声で王子はシグナミアに問う。
「妹はどこなの?」
「人体実験のため、隣国に向かっている」
衝撃的な返答だった。
「なんで! あの子は、私から離れると死んでしまうのよ!」
「ああ、知っている。だから実験だと言っただろう?」
ニヤリと王子は笑った。監禁前に見た嫌な顔である。
「彼女は、自らの意志で隣国に向かった。彼女を乗せた馬車は、すでに首都を遠く離れている」
「そんな……ッ!」
シグナミアは涙を流した。遠く離れてしまった妹の生存は絶望的だと思ったからだ。
「安心しろ。フォーティック嬢はまだ生きている」
「あり得ないわ! だって、郊外なら数キロ以上離れているもの! そんなに離れて無事なわけないじゃない!」
「貴様が考えているほど、近くにいる必要はなかったということだ」
「良かった……」
希望を抱いたシグナミアだが、王子は険しい顔をやめない。
「良かったのだろうか? それはつまり、これまで貴様は妹に、ただ拘束を強いていただけになるのだぞ?」
「拘束ですって? 私はフォティの出掛ける時には、どこへでもついて行ったわ! そんな事実なんてありません!」
「フォーティック嬢が行けたのは、公爵家として赴く必要のあった場所だけだろう? 好きな場所には自由に行かせず、移動の伴う娯楽は一切許されていなかった」
「うっ……」
シグナミアにとって痛いところを突かれた。
呪いによって二人が離れられないことを理由に、両親からは不要な移動を禁じられている。フォーティックにはすまないと思いながらも、シグナミアは彼女の命を守るため、その言いつけを昔から忠実に守っていた。
「だって、それは、呪いのせいだもの! 私の意志じゃない!」
「貴様は呪いのせいにして、妹の自由を奪っていただけではないか?」
「そうよ! でも、アナタだってフォティの自由を奪おうとしているわ! 私を処刑したら、フォティも死んじゃうんだからッ!」
「この私がいる」
王子は自身の心臓の前に手を置いた。
「はぁ?」
シグナミアは王子の言うことが理解出来なかった。
「私の魔力も、貴様と同質らしい。この私がいたからこそ、首都を離れても彼女は無事だった。つまり、貴様は用済みということだ」
「……え」
シグナミアは唯一の拠りどころを失い、顔を絶望へと歪める。
「フォーティック嬢は、貴様のことを恨んでいたよ。ずっと貴様に、その縄のように縛られていたと」
「嘘よ! フォティがそんなこと言うわけがない!」
「……ふん。ならば真実を教えてやろう。今回のことは、私とフォーティック嬢、貴様の両親との共謀でおこない、貴様は蚊帳の外だったということだ」
「なんで!」
「分かっているだろう? フォーティック嬢は貴様のことが嫌で裏切り、私の側についた。それだけだな」
「なんで……」
シグナミアは諦めに近い声だ。
あなたは見ているだけしか出来なかった。
見物客達も、全く騒いだりせず、なりゆきを見守っているようだった。
「死ぬ前に、貴様には、裏切り者の妹に伝えたいことを聞いてやろう。好きなだけ、怒りや不満を吐き出すといい」
「……妹には、何もないわ」
「そうか」
「でも、アナタには言わせてもらう。――アナタの嘘なんか、絶対に信じない! 私は誰よりも、親よりもフォティを大切にしてきた! 私のしたことが間違っていたとしても、絶対にそこだけは譲らない! 私を処刑しても、フォティは私の仇を取ってくれる! 覚悟しときなさいこのクソ王子!」
普段なら絶対に口にしないようなシグナミアの罵倒まで引き出した王子は、彼女の言葉で表情ひとつも動かさない。
「処刑は、この私が自ら下してやる」
王子は右手をシグナミアに向けた。彼は炎を魔法を使えるらしい。右手に炎をまとわせていた。
シグナミアは最期を覚悟して、目をつぶる。
赤い炎が渦を巻きながらシグナミアへと襲いかかり、彼女を包み込んだ。
実は魔法も使える有能な王子でした。
今回も読んで下さり、ありがとうございます。