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第三話 令嬢姉妹に科せられた見えない鎖

今回は、アクソウ公爵家の姉妹についての説明となります。

 三歳違いの姉妹。


 片方は妹への溺愛(できあい)を極め、もう片方は領地の経営を現公爵の父親から任された。


 多くの才を持つのは、明らかに妹のほうだ。物静かな彼女は、勉学に(ひい)でている。


 アクソウ公爵領が以前よりも裕福で住みやすい地になったのは、フォーティックの手腕によるところが大きい。幼少期から領地内にある図書館の書籍を読みあさり、有効と思われるものを選別して実践した結果だろう。


 人付き合いは苦手なフォーティックだが、人付き合いが出来ないわけじゃない。王家、他の領地の貴族との交渉も、冷静に判断がおこなえる彼女のお陰で、現領主である父親の出番はほとんどなくなってしまった。


 そんな優秀な妹に対し、能力的に劣る姉。


 妹と常に一緒にいるだけのシグナミアは、領民達からフォーティックよりも無能扱いされているかと思えば、そうではない。しっかり者で、領民に対して常に優しく接しようとするシグナミアは、フォーティックの心の支えとなっているし、領民達もシグナミアを(した)っている。


 それに、優秀なフォーティックにも、一つだけ、致命的な弱点がある。


 この点を(おぎな)えることこそが、シグナミアの使命であり、唯一の自慢だった。


 そのシグナミアの力を話す前に、あなたに聞いておきたい。


 あなたは、先祖返りをご存じだろうか?


 先祖返りとは、何代も前の先祖が持っていた性質を、子孫が偶然持ち合わせてしまうことを言う。


 このことが、二人の頭を常に悩ませる。


 確かにフォーティックは有能だ。


 だが、有能であるがゆえに、不確実性をもたらされたのかもしれない。


 フォーティックが生を受けた時のことを話そう。


 最初、フォーティックは死産かと思われた。しかし、心配したシグナミアが近づくと、突然フォーティックは生気を取り戻し、元気な泣き声を周囲に聞かせたではないか。


 この時に判明したのは、残酷な現実。つまり、フォーティックはシグナミアの持つ特殊な魔力が近くにないと、生きられない体質だったのである。


 家系を辿(たど)ると、そのような症状を持つアクソウ家の先祖が、過去にも何人か()たらしい。古き先祖が、なんらかの呪いを受けたのが原因だそうだ。


 その呪いに関しては、父でも母でもなく、シグナミアだけが効力を持っていた。


 両親はフォーティックの自由のため、シグナミアの自由を奪った。彼女には、妹にずっと寄り()うことを強要した。

 当の姉としては、それは決して苦ではなかったのだけれど。


 成長につれて、部屋の端から端まで離れていても、問題ないことが分かった。


 壁をいくつか(へだ)てた場所まで離れていても、問題はないことが分かった。


 それ以上は未知の領域だった。


 両親も姉も、怖くて限界を試すことが出来なかった。


 最後に試したのは、十年近くも前のことになる。


 フォーティックの先祖返りは結局、一流の専門家でも治すことは叶わなかった。


 だから、シグナミアは幼い時に決意した。


 フォーティックを自分が守ろう、と。


 シグナミアは自分に与えられた運命だと受け入れて、これまでずっとフォーティックのそばにいた。フォーティックが遠出する際には、シグナミアが必ず同行した。


 そのお陰で、シグナミアは自身の才能を存分に振るうことが出来た。


 図書館にはいつも一緒に行ったし、シグナミアはフォーティックの読後までずっと待っていた。他の場所でも同様だった。


 シグナミアとフォーティック。


 二人は、見えない鎖で(つな)がれている。


 お互いに、そのことを誰よりも意識していた。


 それだけにシグナミアは、フォーティックが婚約をして自分のもとを離れられないことを分かっていたし、両親が婚約を承諾したのも理解出来なかった。


 そしてシグナミアは、王都で王子の策により、フォーティックとの距離を強引に引き裂かれてしまったのであった。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。


次回は公開処刑です。

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