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第二話 あなたはヒドい第三王子を見た

無能にしか思えないようなイケメン王子様が登場します。

 魔法都市でもある首都サン・スウリ。その中心にある立派なお城に到着後、あなたとシグナミア嬢は謁見(えっけん)()で待たされた。


 フォーテック嬢がエスティール王子を迎えに行ってから、思っていた以上に時間がかかった。あなた達が不穏を感じるぐらい、かなり遅かった。


 ようやく王子が登場して早々、シグナミアは(いさ)ましく一直線にエスティール王子を指差した。


「エスティール王子! 私の妹との婚約は、破棄させて頂きますわ!」


 姉から無礼な婚約破棄を言い渡された第三王子のエスティールは、すらりとした長身の、非常に美しい二十過ぎの青年だった。

 王子は公爵令嬢姉妹よりも明るい金髪の持ち主で、二人と同じぐらいに髪が長かった。それと、目つきが悪い。もし耳が極端に尖っていれば、典型的な美男子エルフといった風貌(ふうぼう)だと言えるだろう。


「……ほぉ。わざわざそのような戯言(ざれごと)を告げるために、ここまで来たと」


「ええ! 私のかわいい妹であるフォーティック=アクソウシャは、貴方(あなた)との婚約破棄に同意しました! 貴方もフォーティックのことを(おも)う気持ちが少しでもあるのでしたら、おとなしく婚約破棄を受け入れて下さい!」


 謁見の間は静まった。


 王子が、シグナミアのほうに歩み寄って来た。


 すぐ近くで、立ち止まる。


 彼はシグナミアを見下ろす。


「……やなこった」


「え?」


 王族とは思えない返答に、シグナミアは聞き間違えかと思ったようだ。


「――やなこったと言ったんだよぉ、このアマがぁッ! てっめぇ、公爵令嬢の分際でこのオレ様の決定にケチつけんのかよぉ! ふっざけんじゃねえぞゴラァ!」


「なっ!?」


 シグナミアはすごく驚いた。王子が妹の話とは違って好戦的で、口調があまりにも粗暴(そぼう)だったからだ。


 近くにいたあなたも、第三王子がまるで不良戦士(チンピラ)のように思えたに違いない。黒を基調とした礼服がまるで似合っておらず、彼は純粋に怖い人だった。


「わかってんのか姉ちゃんよぉ、オレ様とフォーティックはよぉ、もう愛し合ってんの! 分かるかぁ? お互いラブラブなんだよ! だから婚約は破棄しねーの! ウゼェ姉は引っ込んでろバーカ!」


 こんなのをエルフみたいと言ったら、エルフがかわいそうだ。それぐらい、およそ王子という立場にいる者の態度や言葉(づか)いとは思えず、ただただシグナミアは気圧(けお)されていた。


「ひゃっはぁっ! フォーティックはオレ様とこっちに来いよお!」


 王子は静かに見守っていたフォーティックの細い腕を(つか)み、力ずくで引っ張り上げた。愛の欠片さえ感じられない動作だった。


「オメェもこの口答えするコイツになんか言ってやれや!」


 脅されるフォーティックは腕を握られたまま、震えた表情でシグナミアを見つめる。


「ごめんなさい……お姉様……」

「謝ってんじゃねえぞテメェ!」


「妹から手を放しなさいっ! 痛がってるじゃない!」


「痛がらせるためにやってんだから当然だろバーカ! テメェ立場ってもんを考えろやぁッ!」

「それはアナタのほうでしょうっ!」


 拘束したフォーティックの手を上にして楽しむ王子と、どうにかして妹を解放しようとするシグナミア。両手を伸ばしても背の高さに大きく差があり、シグナミアはフォーティックを助けられずにいた。


「はっはっはっ! 無能な公爵令嬢は無力だなぁ! いいザマだぜ!」


「お願いもうやめてっ! フォティの腕が折れちゃうっ!」


「じゃあ放してやる! ほらよ!」


 王子がフォーティックの腕を解放した。そのまま王子はフォーティックを乱暴に突き飛ばす。


「きゃっ!」

 悲鳴を上げたフォーティックが倒れてしまったのを目の当たりにしてしまい、あなたは王子を恐れた。


 あなたの主人のシグナミアは、王子を恐れた以上に、――王子への怒りを爆発させる。


「なんてことをするのよ! アナタ、フォティを愛してるんじゃないのッ?」


「ヘッヘェッ……もちろん愛してるぜぇ、めちゃくちゃ美人で有能だからなぁ。だからオレ様の奴隷にしてやんよぉ!」


「奴隷? 正気なの?」


「コイツは事実上、公爵領の領主様だからなぁ! 若いのにすっげえよなあ! そんなオンナを抱けるなんて、サイコーじゃねえかよ!」


 王子はシグナミアに汚い声を飛ばして、想像以上に下品に笑った。背の低いシグナミアへと、ご丁寧に背丈を合わせて(かが)み込み、顔を極限まで近づける。


「このオレ様がテメエの妹を遊び倒してやんよ。要らなくなったら、(くさ)らねーうちに回収しに来いよな?」


 限度を超えた。


「最低ッ!」


 シグナミアは右手で王子の左頬を思い切り引っぱたいた。


 平手打ちを受けた王子は顔を抑え、背を伸ばす。


「殴った……殴ったなぁこのオレ様を……。――アーハッハッハッハッ!」


 王子の笑いが周辺でよく響き渡った。


 そして、王子の気持ち悪い笑顔が怒りに染まった。


「公爵令嬢風情が第三王子であるこのオレ様を殴って済むと思ってんのかよぉ? 済むわけねぇよなぁ……。――おいてめえら! 来いッ!」


 王子が扉に向かって叫ぶと、そこから兵士達が押し寄せるようにやって来た。


「このオンナはオレ様に意見し、殴りつけた! こんな暴挙は許されない! 今すぐコイツを取り押さえろ! そして処刑だ!」


 見ていたあなたは、王子の本心を察した。最初からシグナミアをハメるために挑発をしていたんじゃないか、と。


「やめてっ! 私はフォティと離れちゃダメなのっ! やめてってば! いやぁああああーッ!」


 兵士達に囲まれて、あっという間にシグナミアは連れ去られた。


 あなたもフォーティックも、ただそれを見ているだけしか出来なかった。

本当にヒドいクズ王子を(えが)きました。


最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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