第一話 姉は妹に婚約破棄を告げる
令嬢の侍女が眺めるファンタジー世界です。
今回、婚約破棄と婚約解消の違いを調べました。婚約破棄は一方的に婚約をやめさせることで、婚約解消は話し合いで婚約を取り消すことだそうです。そういう話に疎いので、分かっていませんでした……。
では、物語を開始します。
「フォティ! 貴女とエスティール王子の婚約は破棄させてもらいます!」
アクソウ公爵家長女のシグナミアは、妹のフォーティックに声高々と宣言した。
豪邸の大広間にて、悪役令嬢が言いそうな発言を姉から受けた、妹フォーティック。彼女は驚いた表情を見せたものの……、
「分かりました。お姉様がそうおっしゃるのでしたら、その通りにさせて頂きます」
従順なフォーティックは簡単に受け入れた。
「……え? よろしいのですの? 私、まだ理由もお話しておりませんけど」
「はい、私のほうは問題ありません。今、申し上げました通り、お姉様のお言葉でしたら、私はお従いする他にないでしょう」
混乱するシグナミアに、冷静なフォーティック。
二人とも長い金髪で、姉のシグナミアのほうはゆったりとした三つ編みにしている。
緑の瞳を持った、お互いに美しい令嬢達。姉は十九歳で、妹は十六歳。
シグナミアの侍女を務めるあなたは、二人のやり取りをすぐ近くで見ていた。
「ですが、お姉様。婚約を破棄するのでしたら、エスティール様にもお伝えする必要があります」
「そうですね……。では、さっそく王城に向かうとしましょうか!」
「今からでしょうか?」
「ええ、そうですよ、フォティ。善は急げです」
シグナミアはフォーティックの手を引っ張り、外へと連れ出そうとする。あなたの前に来たところで、シグナミアは足を止めた。
「貴女も同行よろしくね。準備が出来次第、すぐに出発します」
公爵令嬢に命ぜられたあなたは一礼し、行動を開始した。迅速に外出の準備を終わらせる。
あなた達は、用意された黒の馬車に乗った。公爵家の騎士でもある若い女性御者が、この馬車を上手に走らせる。
目的地は、王子がいるニゼイサン王国の首都、サン・スウリ。
馬車の車内にいる二人の令嬢はロングドレス姿で、あなたは黒いロングメイド姿だ。薄い青と白を基調とするドレスをまとったシグナミアの横に、あなたは座っている。薄緑のドレス姿のフォーティックは、シグナミアの正面で向かい合う。
姉のほうが背は少し高いものの、妹のほうが胸部は大きかった。
「まさか、貴女が第三王子と婚約までお話を進めていたとは思いませんでしたわ。お父様もお母様も教えて下さいませんでしたし、どうして私にだけ、今まで黙っていたのです?」
シグナミアはフォーティックに尋ねた。その声にはやや批判の調子が含まれている。
「……すみませんでした、お姉様。急に決まったことでしたので……」
「そうだとしても、フォティと世界一仲の良い私を差し置いてお決めになられるような事案ではありませんわ。それなのに、お父様お母様ったら、不満があるなら王子に直接言いなさいなんて勧めてくるのですもの。婚約を軽々しく考え過ぎではないでしょうか? まぁ、私はお二人に忠実な娘ですから、王子には不満を直接、申し上げますけどね!」
長々と語るシグナミアは、機嫌が悪そうだ。大切な妹の未来が懸かった一大事に相談もなかったから、大変ご立腹なのだろう。
「貴女も知らなかったのかしら?」
あなたへとシグナミアは話を振る。あなたは知らなかったので、正直に首を横に振った。
「良かったです、安心しました。貴女もご存じでしたら、除け者の私は、本当に立ち直れなかったことでしょう」
シグナミアはあなたに笑顔を見せた。
「いきなりの訪問は無礼でしょうが、フォティとの婚約をこの私に隠すような無礼な王子様には、遠慮は無用でしょうね。ところでフォティ、お相手のエスティール様というのは、どのようなお方なのですか?」
「はい、エスティール様は……、平和と芸術をこよなく愛する、穏やかなお方です」
「あら、そうですか。エスティール第三王子とはあまりお会いしたことがありませんから、楽しみですわ、ふふふ……」
闇の浮かんだ表情をしていたシグナミア。
彼女とは対照的に、馬車の窓から見える草原と青空は、非常に澄み渡っていた。
馬車の移動はちょっと憧れます。実際は乗り心地が悪そうですが。
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