春の嵐が水を差す
「水入れてきたよ」
西和議は教室の扉を開ける。
すごい匂いが教室中に立ち込めていた。
「なに、このにおい?」
「カラースプレーの匂いだよ」
問いかける西和議に東沼が答える。
「窓開けようか?」
絵筆を洗うバケツを机の上に置く西和議に、班の子は話しかける。
「そうだね。そうしようか」
東沼は絵筆を水でぬらす。
西和議は廊下側の窓を開け、風の通り道を作る。
班の子が一番近くにある外側の窓を勢いよく開けると、風が入り込む。
ビュウッと強い風が教室に入ってくる。
「ちょっ!風強すぎ!」
誰かが叫ぶ。
雨のにおいを含む強い風が教室内に吹き荒れる。
「窓閉めて!早く!」
窓を開けた子が慌てて窓を閉める。
その直後に、雨音がする。
たたきつけるような水滴が窓を当たる。
「ひどい雨だね」
雨の様子を見て東沼がつぶやく。
「春の嵐かな。帰るとき大変だね」
「画材入れのカバン置いていこうかな」
「荷物多いと大変だもんね」
つぶやきを聴いた西和議が、東沼と会話する。
「あーあ」
外の様子を見ていた西和議が、誰かの声に振り替える。
風で吹き飛ばされたカラーボードが壁にたたきつけられ、壊れていた。
「カラーボードほとんど壊れちゃったね」
東沼がぽつりとつぶやく。
「窓開けるからこうなったんだぞ!」
川と橋の写真を撮った子たちが言う。
「スプレー缶使うからでしょ!」
桜並木を撮った子たちも言い返す。
「どうする西和議ちゃん?」
「えーと、うん。掃除してから、使えそうなものを探そうか」
西和議と東沼は、吹き飛ばされたカラーボードを片付けていく。
何を言い争っているのか、西和議は聞き耳を立てながら。
カラーボードを片付け終えるころ、言い争いもひと段落していた。
「落ち着いた?」
西和議が班のみんなに声をかける。
「まあ少しは」
言い争っていた子たちは水筒のお茶を飲んで一息つく。
それを見て西和議も東沼もお茶を飲む。
「西和議さんはどっちが正しいと思う?」
思いがぶり返したのか、川と橋の写真を撮った子が聞いてきた。