みんなの役に立つために
「大丈夫だって」
ホームルームが終わり、西和議が戻ってくると藩のみんなは安堵のため息をつく。
「なら、さっそく明日の放課後作っちゃおうぜ」
「あれ?みんな部活は?」
「しばらくは自主練だってさ」
指さされた先にあるグラウンドを見る西和議。
「なら、顧問の先生に聞いてみて大丈夫だったら、必要なもの決めようか」
西和議が雨でぬかるんだグラウンドを見ていると、東沼が提案した。
顧問の先生たちから許可をもらい、翌日の放課後になる。
「教室でやるから、班の形にしちゃおうか」
曇り空の下、西和議たちは机を藩の形に並べなおす。
「あれ?ほかの班は?」
「ほかの班はもうパソコン使って編集始めてるんって」
東沼の言葉を聞いて、西和議の焦りの色が浮かぶ。
「なら急ごうか。親がカラースプレーも貸してくれたから使っちゃおう」
桜並木の写真を撮った子はカラーパネルの切れ端とともにスプレー缶を取り出す。
川と橋の写真を撮ってきた子たちは、机の上に新聞紙を引いていく。
東沼もハサミを取り出し、工作の準備を整える。
「どうしたの、西和議ちゃん」
その様子をぼんやりと見つめていた西和議に、東沼は話しかける。
「みんなすごいなって」
西和議が漏らした一言に、川と橋の写真を撮った子たちが話しかけてきた。
「西和議さんのほうがすごいって」
「私が?なんで?」
「俺たちの話聞いてくれるしさ」
「そうそう。自分の意見後回しにしてこっちを優先してくれるから助かるよ」
「たまたまだよ。私はみんなの話を聞いてるだけだから」
急に褒められ、たじろぐ西和議は率直な気持ちを伝える。
「それが良いんだよ。もっと自信もっていいぜ」
首をかしげながら話す西和議に、桜並木をとった子たちも声をかけてきた。
「えーっとその、そうだ、そろそろ始めようよ」
慌てふためいた様子で西和議は話し、全員で作業の準備に取り掛かる。
「私、絵筆洗うバケツに水いれてくるね」
「ありがとう西和議さん。先始めてるね」
お礼を言葉を背に、西和議はバケツを持って手洗い場に向かう。
「ホント偶然なんだけどな……」
西和議は手洗い場につくと水道の蛇口を開け、水を入れる。
「ただ、いるだけだよね。私って」
流れる水を見ながら、西和議はひとり呟く。
「みんなは意見出したり考えたりしてるのに、私は聞いてるだけ」
水がバケツの中に少しずつたまる。
「もっとみんなの役に立つにはどうしたらいいんだろう」
蛇口を閉める西和議。
バケツを手に取り、廊下を歩こうとしたとき、西和議は気づく。
今ここにいるのは自分だけと。
「やっぱり私は、もっとみんなの役に立ちたいよ」
周囲を確認した後西和議は決意して、魔法を唱えた。