言葉の裏に潜むもの
食事を終え、妹と隣の女性の弾む会話を聞きながら兄はお茶を淹れる。
「お姉ちゃんが作ってくれた炒め物、味噌がピリッとして美味しかったよ」
「ありがと。今度また作ってくるね」
「あの味噌ってどうやって作ったの?」
「味噌とみりんと豆板醤と……いろいろ混ぜ合わせたのよ」
二人の前にお茶を置く兄。
そして静かに座り、会話を見守る。
「調味料の作れるなんてすごいなー、私なんて全然」
「やってみれば簡単だよ?」
「できる人はみんなそう言うよね……」
妹が首を垂れる。
「人は人、自分ば自分よ。ちょっとずつできるようになろうよ」
隣の女性がすぐに妹を励ます。
「お兄ちゃんもそう思う?」
心配そうに妹が聞いてきて、兄は首を縦に振って返事を返す。
「そうは言うけどさ、やっぱり人とは比べちゃうよ。今日だって……」
妹が今日学校であったことを話し出す。
「なるほど。それで役に立ちたいって思ったのか」
妹が話し終えると、兄は頷いて、妹に言葉を返す。
「私がやったのはお話聞いただけで、写真とか動画作成とかみんな任せだったの」
「うんうん。意見を出したり技術なことをやってみたりしたかったんだね」
「そう!でもどうしていいのかさっぱりで……」
「なら、家でいろいろ練習してみようか」
「練習かあ……だったら、今日はお風呂の準備と洗い物私一人でやって良い?」
「良いけど、大丈夫かい?」
「うん!眼鏡壊したお詫びでもあるから」
そう言うと妹はお茶を飲み干して、コップを持って洗い場に向かう。
「すごい張り切りよう」
妹が立ち去った後、隣の女性が兄に話しかけてきた。
「理由がなんであれ、変わりたいって思えることは良いことだからね」
コップを手に取り、兄は答える。
「人は人だから、自分の良さを磨いていけば良いのに」
「そうだね。それも良いよね」
「ほかにもあるの?」
「人と比べて差を実感したからこそ、追いつきたいって気持ちもあれば」
兄は持っていたコップをテーブルの上に置く。
「比較するのは過去の自分で、できることが増えたのを喜んでほしいなとも思う」
「よかったら、私が妹さんに伝えておくよ」
「自分で気づいてほしいなって気持ちもあって……難しいね。こういうの」
「そうね。教えるのは難しいね。会話なら簡単なのに」
「まったくだね。言葉の裏に潜むものに気がついてほしいな」
兄の言葉に共感したように隣の女性は頷き、お茶を飲む。
「そろそろ帰るわね」
「なら、門まで送りますよ」
外をみるともう暗くなっていた。
隣の女性は妹の名を呼び、兄と一緒に席を立つ。
「またね、お姉ちゃん」
玄関を開けエプロン姿で門まで見送りに来た妹が、二人に声をかけた。