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役立たず魔法で異世界攻略  作者: 北村 進
第一章 正偽のアンサンブル
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第二十四話 最強達の宴

時は僅かに遡る。



街からかなり離れた場所にある山の中。

危険な生物はほとんど生息しておらず、この世界でも屈指の安全地帯とされているその場所で、一人の女性が野営を張っていた。

傍には大きな袋。ピクリとも動かないそれをなんとはなしに眺めつつ、女はパンを口に入れようとして——


「こんばんは」


——硬直した。


「分身の中に直接入って動くのは確かに理にかなっている。でも、慎重な()がそんなリスキーなことをタダでするとは思えない」


暗闇から朗々と響くのは、これまで女性の暗躍を散々妨害してきた最警戒人物(アストガルム)の声。

女性は硬直から立ち直ると、即座に腰に下げていた2本のダガーを引き抜き周囲に視線を巡らせる。


「エリックも分身が二人いたし……いると思ったよ。三人目(保険)さん?」


女性のすぐ背後から、笑いを含んだ声が聞こえた。

即座に反応し振り向きざまにダガーを振るった女性は、何か小さな物を斬ったような手応えを覚える。

そして次の瞬間視界が真っ白に染まった。


「……聞いてたより強いね。やっぱり君がオリジナルか」


目眩しの閃光を直視したにも関わらず、まるでまだ目が機能しているような動きでこちらにダガーを向けてくる女性に対し、攻撃を仕掛けようとして踏み留まったアストガルムは苦笑する。


「分身を一体作るだけなら、それのクオリティーは本物と同じになる。けど、分身の材料になる本物の魂とか『存在』が取れる量は限られてるんでしょ?だから分身を二体以上作ろうとすると、使える材料を幾つかに分けないといけないから、どうしても本物の劣化版になってしまう」


最初のエリックが聡に時間を稼がれ、終いには倒されてしまうほど弱かったのもそれが原因だ。

もしそのエリックがレベル99(最強)の身体能力を持っていたら、聡では到底太刀打ち出来なかっただろう。

まあ『体を操っていたのがエリック本人では無かった』というのも大きな要因なのだが。


「僕が来て正解だったかな。僕かエリックくらいしか君に対処できなかっただろうし」


「…………こんな所で油を売ってて良いの?早く帰らないと、全部消えちゃうよ(・・・・・・・・)?」


これまで静かにアストガルムの話を聞いていた女性が、おもむろに口を開く。

その見た目に反してかなり幼い声と口調で発されたその言葉に、アストガルムは初めて目を見開いた。


「さっき貴方の街に、兵達をたくさん送り込んだの。貴方がいても大変なくらいの量を、ね」


アストガルムが初めて余裕を崩した事で笑みを浮かべた女は、無表情ながらも上機嫌そうな雰囲気を醸し出しながら鼻を鳴らす。

その台詞に驚愕から困惑の表情に変わったアストガルムは、眉で八の字を描きながら、思わずといった様子で小さく呟いた。


「……まさか、知らないのかい?」




◇◇◇






街を囲む巨大な壁の北区画にて。

エリックは、鼻を押さえて震えていた。


「あの野郎ぉ……やるなら先に言っとけよ……」


こめかみに血管を浮かび上がらせながら、頭の中に犯人だろう人物()の顔を思い浮かべるエリック。

つい先ほど、急にオルタネイルプロテクトが発動して顔面にサッカーボール大の結界魔法が勢いよく直撃したのだ。

エリックの並外れた『勘』が反応しないほどに威力は弱かったが、それでも痛いものは痛い。

今手元にある情報を踏まえれば、聡が自らエリックの結界を解くというのは王女を説得する上で欠かせない事だったのだろうと推測はできる。けれども、あいにく感情は理性の対極にあるものだ。


「ちったぉ甘くしてやろうと思ってたが……これなら大丈夫そうだな」


とりあえず訓練メニューを今の三倍くらいにしてやるか、と呟きながらエリックは悪魔のような笑みを浮かべた。

今まさに殺されかけている賢者は、生き残ったとしても地獄へ直行する羽目になるとは思いもしていないだろう。


「にしても、これがアルの言ってたやつか。相変わらずキメェなぁ」


エリックは、呆れたように視線を巡らせる。

街は、異形達に完全包囲されていた。

ヌルヌルと不定形なジェルや、額にいかつい角が何本も乱立する二足歩行の生物、さらには人間の手足が体のいたるところから生えた名状し難い何かなど、統一感のかけらすら感じられないそれらは、壁を突破しようと一心不乱に突撃し、城壁の上にいる騎士達から放たれる斬撃(・・)に撃退されていく。

その光景を目を細めながら眺めていたエリックの元へ、一人の騎士が駆けつけてきた。


「団長!お持ちしました!」


「よし、んじゃあ始めるぞ。お前らは早いとこ他に合流な」


「はい!」


受け取るのは巨大な漆黒の戦斧。

片手でそれを持ち上げ何度かしごいたエリックは、一つ頷くと勢いよく壁の上から飛び出した。


(ここ)は俺だけでなんとかなる」


急速に近づく異形達の姿を見据えながら、黒斧を振りかぶる。


「東と西は部下達にやらせりゃいい。まあいい訓練になるだろ」


着弾。恐ろしい爆音が響き渡った。

その衝撃波だけで、周囲の異形達がことごとく潰れていく。


「俺の分身だってんだろ?なら楽勝だよな?そんくらい」


土煙が立ち上り、知能が低いはずの異形達が思わず立ち止まるほどに濃密な殺気が発される。

異形達の動きを一睨みで封じた『最強』は、再度斧を振りかぶると混沌の中に突撃していった。




◇◇◇





南部の城壁の上に、彼等はいた。


向こう(・・・)は何とかなったみたいです」


「そうか。んじゃ、こっちも終わらせるか」


「……本当に大丈夫なんですか?今のエリックさんってかなりレベル下がってるんですよね?」


「そういや60くらいになってたんだったな。まあ大丈夫だろ」


「……」


レザーアーマーを纏い腰に片手剣を()いた黒髪の若い少年が、隣に立つ男性になんとも言えない目を向ける。

それを華麗にスルーした男は、おもむろに背負っていた銀色の巨斧を持ち上げ、ぶん投げた。


「ちょ、何やってるんですか!?」


「あんな急拵えのデカブツ、使ってもすぐぶっ壊れんのがオチだ。なら面倒そうなヤツのタマと交換した方が得じゃねぇか」


高速回転しながらはるか遠くへと飛来していった銀斧は、遠方に見えていた飛び抜けて大きいカエルに似た外見の黒い異形の脳天に直撃し、頭ごと吹き飛ばした。

その顛末を見て唖然とする少年をよそに、剣を抜き放った男は城壁の上から飛び降りる。


「俺ら用の陽動にしちゃあ、量ばっかで質はそんなにだな。詰めが(あめ)ぇ。焦ったか?」


オオカミのような三つ目の異形をクッションにして着地した分身エリックは、周囲の異形達を見回しながら独りごちる。


「さぁて、このやり方は久しぶりだが……タラタラしてっと後が怖ぇしさっさと終わらすか」


片手間の一閃で三つ目オオカミ(クッション)の首を斬り飛ばし、その頭を掴み上げ適当に投擲。

飛来する途中に黒い液体へと(・・・・・・)変化した(・・・・)それは、数瞬だけ最前列の異形達の目から分身エリックを隠し———


「お前らってこんな面白生物だったっけか?」


———今度はその異形達の首が飛んだ。

幾つかの異形の死体が大量のドロドロとした液体に変わり、大地に流れだしていく。

そんな光景を眺めながら、分身エリックは首を傾げた。


今攻めてきている異形達の総称は『魔物』。魔王の兵士だと考えられている未確認生物だ。

普通の動物よりも遥かに身体能力が高く、危険だが……死んだ後に液体化する魔物というのは、近衛騎士団長の記憶を持つ分身エリックですら聞いたことも見たこともなかった。

前代未聞の敵というのは本来なら警戒し、冷静に分析するべきだ。

しかし、そんな余裕は無い。


「新種か」


とりあえず雑に結論づけた分身エリックは、迫り来る新たな魔物達に向けて砂を盛大に蹴り上げる。

『最強の劣化』による蹂躙の狼煙が今、上がった。




◇◇◇




「……()け身が自覚した(・・・・)?」


「へぇ、ここからでも向こうの様子が分かるんだ」


空気が張り詰める森の中で、女は僅かに顔をこわばらせた。


「どうやって気づかせた?自分じゃ気づけないようにしたはず」


「さあ、どうやってだろうね?」


「……むかつく」


満面の笑みを浮かべるアストガルムに対し、相変わらず無表情のまま露骨に怒気を強める女性。

それに対して更に笑みを深めたアストガルムは、空いている左手の人差し指をクイクイっと曲げるジェスチャーをした。


「かかってきなよ。僕を捕まえれば何か分かるかもよ?」


「……安い挑発」


「衝動買いしても後悔しなさそうでしょ?」


「……」


数秒の沈黙。次いで、同時に二箇所で爆音が響く。

初撃で大地を割りながら、『もう一人の最強』の戦いが幕を開けた。

Q.エリック'sの戦い方の違いって何なの?


A.本物エリック……ステータス任せの脳筋戦法

分身エリック……ステータスが低かった頃によくやっていた目隠し&大量暗殺(・・)戦法



ごめんなさい。色々と試行錯誤した結果、戦闘描写は丸々カットすることにしました。

内容的には〇〇無双シリーズの雑魚戦です。しかも量だけはやたらと多いので展開も自然と遅くなります。危うく三話くらい雑魚掃討戦に持ってかれそうになった……

まあアストガルムさんの戦いは書いて良かったかもですね。いずれ番外的な感じで書くかも?


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