第十二話 闇夜の誘拐
やっとここまで来た……五話くらいには書きたかったのに倍以上かかってしまった……
深夜。城中の者達も寝静まり、夜の番を任された兵達も少し気が抜けてコソコソと小声で雑談を始める時間帯に、部屋の扉が静かにノックされた。
マグニカル・リミッターの使用感を試し、今の自分の限界を確かめていた聡は、多少の眠気による欠伸を噛み殺しながらドアの向こうに声をかける。
「どうぞ……ってエリックさん?」
「時間が無い。着いてこい」
「な、何かあったんですか?」
いつにも増して真面目かつ命令口調のエリックに首を傾げつつも、聡はエリックに続いて部屋を出る。
「こっちだ」
「こんなのあるんだ……」
人気のない静かな廊下をしばらく歩き、一番近くにある階段を降りる……かと思いきや、階段の途中に飾られた絵画をエリックがグッと引っ張ると、絵画の後ろから抜け道が現れた。
手前に倒れ隠れ道へのスロープとなった絵画を踏み締め埃っぽいその階段に足を踏み入れた聡は、火の魔法を明かり代わりに意外に綺麗なその階段を降りていく。
そうしてかなり長い道のりを経て辿り着いた場所は――
「……え、外?」
そこは街の外壁から七百mほど離れた場所に少しだけ群生する背の高い草の陰。
周囲の目から隠される様に地面に埋め込まれたハッチの様なものから這い出た聡は、呆けたようにキョロキョロと辺りを見まわす。
「あれに乗るぞ」
「え、気持ち悪……」
「文句言うな。普通の馬より早ぇんだよ」
ハッチを土で隠し終えたエリックが示した先、街の周囲を大回りするようにこちらへ爆速で近づいてくる顔面から短い触手がウネウネと生えた馬を見て引く聡。
そんな賢者を冷たくあしらいながら問答無用で抱え上げたエリックは、真横を素通りしたクラゲ馬に飛び乗ると、後ろに引かれている荷車に聡を放り込み手綱を握った。
「飛ばすぞ!」
「分かりまし――たっ!?」
返事を言い切る前に加速が始まる。
起き上がろうとした瞬間慣性の法則に従い荷車の最後部の壁まで吹っ飛ばされた聡は、今身動きを取るのは危険だと判断し大人しく縮こまるのだった。
◇◇◇
同時刻、その知らせは突然訪れた。
「サトルが消えた!?」
「はい!周辺の警備の者、見回りの者も同様に消息不明です!」
「チィッ!」
「団長!?」
自室で鎧の手入れを行っていたエリックは部下からの知らせを聞くのもそこそこに、手近な机に置いてあった武器と巻物を引っ掴み走り出す。
「俺がサトルを連れて帰る!お前らは他の奴らを探しとけ!」
「了解!」
慌てて並走してきた部下に大声で乱雑に指示を出すと、立ち止まり時間が勿体無いと近くの小さな窓を見据えて――「おい鼻垂れ!」――呼び止められた。
「何だよババア!」
「嫌な予感がする!一応これ持っていきな!使い方は分かるね!」
走ってきたのかハアハアと息が切れているメレーヌから投げ渡されたのは金色の巻糸。
「これ……あんがとよ!」
それをポケットにつっこんだエリックは、今度こそ窓に突進すると周りの壁ごとぶち破り、その身を満月の下に晒した。
「追跡開始!」
近衛騎士の巨体が重力に囚われ目下の屋根に落下していく。その刹那、巻物を自分の周囲を一周するように広げ、魔句を唱えた。
そして着弾。ドコォン!と大きな音をたてながら着地したエリックは、自分の周囲を見回し己の体から何処かへと伸びる濃紫に光る煙の紐を見つけると、それを道標に走り出す。
「くたばってたら承知しねぇぞ……!」
銀の聖騎士。人類最強と謳われる双璧の騎士の片翼が今、動き出した。
巻物魔法『紫煙の足跡』
巻物に刻まれた魔法陣を媒介として発動する巻物魔法の一つ。指定した物や人物と発動者を紫色の煙で繋ぐことができる。有効範囲は半径およそ3000㎞。また、指定者と発動者以外には煙は光って見えないため、夜間などには視認され辛くなる。
巻物魔法と普通の魔法の違いは魔法陣が超複雑かそこそこスカスカか、という所です。
巻物魔法にされる魔法は魔法陣が複雑すぎる代わりに有能なものが多いので、余裕で豪邸を買える程高値で取引されています。




