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役立たず魔法で異世界攻略  作者: 北村 進
第一章 正偽のアンサンブル
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第十一話 賢者のアド

この世界において、今の所判明している聡が持つアドバンテージは二つほどある。

一つ目は賢者ボーナスで魔法を大量に連射できる事。

確かに魔法の火は全然物を燃やせないし、魔法の水をぶっかけてもあまり濡れない。

しかも魔法で出てきた物質は、強い衝撃を受けたり一定時間経つと消滅してしまう。


しかし実体を持っている(・・・・・・・・)。それだけで『役立たず』というレッテルは『使いづらい』というものに変化する。

目隠し、陽動、落とし穴……使い手の発想次第で魔法はいくらでも応用できる、というのが聡の現時点においての結論だ。


そしてもう一つのアドバンテージ。諸刃の剣ともなり得るそれは、召喚初日の魔法記憶作業中に発覚していた。


「あれ?これ普通に暖か――って熱っ!?」


「おいおい大丈――熱いだと?」


この世界の物質はほぼ全て魔法抵抗を持っていると言われている。

しかし、当たり前の事だが地球出身地球育ちの純地球人である聡、そして聡が身につけていた地球産の衣服は『この世界の物質』に分類されないのだ。


それ即ち、魔法抵抗を所持していないという事である。


魔法抵抗を持たない利点、一つは魔法で構築された物質を本物の物質かのように扱う事が出来る事。


以前聡が行っていた魔法の岩を足場として扱う戦法も、実はこの世界でただ1人地球の靴を履く聡にしか出来ない芸当だ。

普通は足を乗せ踏ん張った瞬間岩がスナック菓子のように崩れるのである。



そして魔法抵抗を持たないもう一つの利点は、身体強化魔法の掛かりが一般より何倍も良い事だ。


この世界の者達に「あったら便利だけど無くても特に困らないよね」という評価を下され『便利魔法』『運搬専用魔法』『老後の知恵』などという不名誉極まりない称号を与えられたこの魔法は、聡が使用した場合に限りその真価を発揮する。

具体的には腕力、脚力、跳躍力、瞬発力、動体視力……ありとあらゆる身体能力が大幅に強化されるのだ。


これを使っている状態なら素人の聡でもインハイ陸上を総ナメ出来るだろう。

速攻で不正を疑われるだろうが。




「っ……あぶっ!?器用だなお前!?」


飛来する木の幹。

顎が外れたままなのにも関わらず聡の接近を察知した蛇は、その尻尾で器用に手近な木を引っこ抜き、正確な軌道で放り投げる。

それをスライディングでギリギリ回避した聡は近くの木の陰へ隠れる。

そして右手を木の陰から出すと茶色の魔法陣を浮かべた。


「ロックブラスト!」


バランスボール大の岩の塊が放たれ、蛇の鼻先に命中したそれはボガンッと大きな音を立てて砕ける。


突然の出来事に驚いたのか固まる蛇。

しかし見た目の派手さに比べてさして痛痒を感じなかったようで、すぐに硬直から立ち直りふるふると頭を振って鼻の上に残った岩の破片を振り落とした深緑蛇は、怒りからか警戒音を発しながら聡が隠れた木の裏を覗き込み――いない?


「こっちだよバーカ」


蛇の脳天に銀の刃が突き刺さる。

蛇がもたついている間に木を登り、木の葉の影から飛びかかる機会を窺っていた聡は蛇を小馬鹿にしながら剣を引き抜く。

そして地面に飛び降りると、何やら微妙な表情で離れた場所の木の上に佇むエリックに少し自慢気な顔を向けた。


「どうですか?」


「あー……そうだな、よくやった?」


「え、何ですかその反応」


「いやまあ、今回は俺が悪いからな……すまん」


「え?」


頭を掻きながら謝るエリックに何のこっちゃと首を傾げる聡。

その時、周囲が少し暗くなった。


「……そういう事ですか」


「そいつ、頭の皮が厚くてな……その剣じゃたぶんギリ届かねぇんだ。先に俺のを貸しときゃあ良かったな」


色々と察し、頬を冷たい雫が伝うのを感じながらゆっくり振り向くと、目の前には鎌首をもたげて今にも襲い掛からんとする蛇の姿が。


「シャァァァァ……」


「あの、助太刀とかは?」


「俺が手ぇ出すとレベル上がりにくくなるんだよ」


「なるほ、どぉぉお!?」



いつの間にか顎も完治していた蛇の噛み付きをなりふり構わない横っ飛びで緊急回避した聡は、とりあえず有効打になり得る武器を受け取るためエリックの元へ向かうのだった。



◇◇◇



あの後、「どうせだしデコからなら攻撃届くだろうからそのままやってみろ」という無茶振りをなんとか達成した聡は、無事城に帰還していた。


「ほんと、エリックさん頭おかしいんですよ。無茶振りばっかですし、僕が食べられかけてもワッハワッハ笑ってるんですよ?」


「アハハハ……その無茶振りに応えれたサトル様が頭おか――凄いんスよ」


「今何か言いかけましたよね?」


「気のせいっス」


ヘラッと笑って聡の追及を華麗に受け流した鎧姿のこの男性の名はトーマス・サルザラード。

近衛騎士の1人で、聡と歳が近いからかエリックの手が空いていない時の護衛として側にいる事が多い。

そのため、未だ互いに敬語のままではあるが、二人はこの数日でかなり打ち解けていた。


「それで、また図書館っスか?」


「ああいや、今日は研究室です。帰ってきたら一回寄れって言われてたので」


「了解っス」


訓練場のちょうど反対側。聡にとって物凄く不便な場所にそれはある。

通称『魔道研究室』。王宮魔導士と呼ばれる魔法使いのエリート中のエリートが集まる王家直属の魔法研究施設だ。


「メレーヌ先生いらっしゃいますか?」


「……おや、思ったより早かったねぇ。ちょっと待ってな」


何かの魔法陣が刻まれた重厚な木の扉を押し開けると、目の前には本や紙束で構成された山並みが広がっている。

そんな山の一つの向こう側からヒョイと顔を覗かせた初老の女性、研究室長であり、聡の魔法アドバイザーでもあるメレーヌ・コルトルクは何やらゴソゴソと近くの紙束の丘を掻き回し始めた。


「お手伝いしましょうか?」


「ん?じゃあこれ持っててくれるかい?あとこれと……ついでにこれも、ああこっちも――」


聡の両手に紙束や本、何に使うか想像もできない謎の器具が積み上がっていく。

そのあまりの量に思わず苦笑しながら甘んじて荷物置き場になっていると、メレーヌはかなり底のほうから簡素な木の箱を引っ張り出した。


「あったあった。ほら、着けてみな」


「これ……腕輪ですか?」


手に持っていた荷物を全て近くの椅子の上に置き、メレーヌが箱からとりだしたそれ……高そうな黒い革ベルトに青い液体が詰め込まれたC字の管が括り付けられた、少し奇抜なデザインの腕輪を受け取って左手首に着けてみる。

かなり着け心地がよく見た目もドンピシャなそれを「おぉ〜」と小さく感嘆の声を上げながら色々な角度から眺めていると、聡はふとある事に気づいた。


「あれ、ちょっとここ白くなってませんか?」


「よし、上手くいったみたいだねぇ。作った甲斐があったってもんだ」


満足そうにウンウン頷くメレーヌは戸惑う聡に簡潔な説明をした。


曰く、この腕輪の名は「マグニカル・リミッター」といい、使用者の魔力残量を計測できる魔法器具を携行用に改造したものだという。

魔力を消費すると青い液体がC字の片方の端からどんどん白く変化していき、ちょうど魔力切れのタイミングで管全体が白くなるのだとか。

もちろん魔力を回復すると付随して液体も青くなるそうだ。


「経験積めば自前(・・)で分かる様になるからいつかはいらなくなるだろうけどね……まあそれまでの簡単な補助さね」


「いやこれかなり助かりますよ。ありがとうございます!」


聡は現在レベルが頻繁に上昇する時期であるため、魔力量の最大値が高頻度で変動している状況だ。

そのためどれほど魔法を行使していいのか自分でも把握しきれておらず、森での戦いでは魔力切れに怯えて常に節約しながら戦っていたのだ。


「そうかいそうかい。それは結構頑丈だからちょっとは粗く使ってもいいけどね……壊したら替えが無いから気をつけるんだよ」


「ごめんなさい」


頑丈だと聞いて、試しに管に強めのデコピンを食らわせた聡の手をベシッと叩いて釘を刺したメレーヌはため息をつきつつ席に座り直す。


「それで、森はどうだったんだい?」


「それが凄く大変だったんですよ。あの人無茶振りばっかりしてきますし……」


「あの鼻垂れ小僧は相変わらずだねぇ。ま、もしギャフンと言わせたいなら一つ良い方法があるよ。聞きたいかい?」


「是非とも」


専属魔法アドバイザー(悪知恵製造機)の言葉に口の端を吊り上げる聡。

悪い顔で話し合う2人に、近いうちに尊敬する上司が酷い目に遭うだろう事を予知した若手騎士(トーマス)はやれやれといった様子で肩をすくめると、自らも一枚噛むためにその話し合いに入っていった。



尊敬はしてる。けどそれはそれ、これはこれ(パワハラ訓練の恨み)(ワハハで済ますなクソが)(巨大鷹……剣一本縛り…………ウッ、頭が……)


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