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死神戦姫と召魔銃士と異世界冒険紀行  作者: 翠雨このは
第三部 第三の騎士
98/105

03 四魔騎士の正体

「あれは……まさか!」


 リクト含めた男組が呼吸を合わせたかのように感想をつぶやいた。

 町の上空を浮遊する一人の少女。

 大鎌に腰かけたその少女を目にしたリクトはごくりと息をのんだ。


 《深淵の死神(アヴィス)》──


 リクトをこの世界に送り込んだと思われる『アスカナ』のステージボスだ。

 自我を得てからその行動は意味不明なことばかり。

 二度目の再会時ではなぜか幼女の身体に変わっていた。

 理由は謎だが、ダンジョンのデスゲームでは手を貸してもくれた。

 敵なのか、それとも味方なのか、

 なにを考えているのかまったく分からない。


 死神幼女はコツン、と町の通りに降り立つ。

 スカートの(すそ)を軽くつまみ、集まった群衆に向け、彼女は礼儀正しくお辞儀してみせた。


「初めまして。ニンゲンの諸君。

 ()は四魔騎士が一人。アヴィス。

 この世を終焉に導くために存在する者だ」


 死神幼女の口から告げられた壮大な自己紹介に周囲の人々は茫然とした。


「世界を終焉にって……なにを言ってるんだ?」

「ハッタリなんじゃねえのかよ」


 ざわざわと周囲の声が飛び交う。

 直後、建物の窓から人影がサッと飛び降りた。

 死神幼女の前に着地し、颯爽とあらわれたのは殺気に包まれたヴェルカンだった。


「……つまり、俺たちの敵ってことか!」


 そう言って、ヴェルカンが腰に携えた剣に手をかけると、死神幼女は鼻で笑う。


「そう捉えても構わん。

 余もニンゲンと親交を深める趣味など毛頭(もうとう)無いのでな」


「ハッ、そうかよ。

 なら、お言葉に甘えて斬らせて貰おうじゃねえか!」


「ま、待ってください!」


 睨みあう両者の間にモモカさんが割って入った。

 モモカさんは剣を抜きかけたヴェルカンの肩に手を添え、厳しい眼差しをヴェルカンに向ける。


「ここでやりあっても死人が無駄に増えるだけですっ!

 話し合えるのなら、それに越したことはありません!」

「……チッ」


 ヴェルカンは不服そうな顔でチャキンッと音を立てて剣を納める。


「そこの小娘のほうが状況をよく理解している。

 ニンゲンという種にも知能があるヤツがいたようだな」


 腕を組んで冷たい口調であおる死神幼女の姿をじぃっと睨み続けたルースさんが、拳をぎゅっと握りしめる。


「くっそ~。あんな見た目可愛いのに性格悪いとか反則級~!」


 一人だけ変な部分で盛り上がってるルースさんをよそに群衆の中からスッと手を挙げたのはマーテルさんだ。

 群衆から出てくるなり、マーテルさんはコホンと咳をした。


「みんな混乱してるだろうから、この私が勝手にこの場を仕切らせてもらいます。

……それで、あなたの話が仮に全部本当だとして、世界を壊す存在が私達にいったい何の用なの?」


「……」


 死神幼女は目を閉じ、沈黙してしまった。

 辺りが静寂に包まれるなか、「ごめんごめーん!」と聞き覚えのある女の人の声が飛んできた。

 一同が声の源に顔を向ける。

 《三脚天使(トリステル)》の建物から長身の女性が出てきたと思ったが、目を凝らしてよく見るとその女性は不知火さんだった。

 あわてふためいた様子でこちらに駆け寄ってきた不知火さんは死神幼女をビシッと力強く指さした。


「その子に説明を求めても時間の無駄!」


 そう言って不知火さんは息を整えると、今度はすました顔で告げる。


「だから、代わりに《影繋ぎ(ファントム・シェル)》の団長を務めるこの不知火が、お答えさせていただきます!」


 とは言いつつも、大っぴらに話すと問題になるからという理由で、不知火さんはいったん群衆を解散させた。

 町の住民には安全の保障を前面に出して安心させ、なんとかこの場を収めた。

 その交渉術はどこで学んだのやら……。

 冒険者ギルド《三脚天使(トリステル)》の二階にある会議室に場所を移すと、全員が落ち着いたところで不知火さんがおもむろに口火を切った。


「いい機会だし、ここにいるみんなに知ってもらいましょう。

 四魔騎士について、そのルーツってやつを……」


 そこで言葉を切ると、壁にもたれている死神幼女のほうに顔を向ける。


「話しちゃっても構わないよね?」


「フン……好きにしろ」


 死神幼女から許可を貰った不知火さんはまず『黙示録』についてから話を切り出した。


『ゲテナの黙示録』──


 それは『アスカナ』の読み物として入手できるアイテムで、ゲーム上ではそう呼ばれている。

 書の内容をざっくり説明すると、いずれやって来る世界の終末について書き記したいわゆる預言書だ。

 そこに書かれてあるもののなかで特に有名なのが『《黙示録の四魔騎士アポカリプス・フォー・ホースメン》』と呼ばれる存在。

 この書によると、新しい世界へ変えるために一度世界の穢れを浄化する神の使者ってことにされている。


「ウチは天使みたいなニュアンスで受け取っていたけれど、実際やってることはかなりエグいから悪魔と大差ないかも」


 そう言って不知火さんは肩をすくめた。


「でも、あなた達一般の人は黙示録の存在すら知らなかった。そうでしょ?」


 そう言い切った不知火さんが一同の顔を一人一人見渡していくと、リクトの周りにいた役人やマーテルさん、他の店員たちも一斉に頷いた。

……え、そうなの?

 黙示録ってこの世界ではメジャーじゃなかったんだ。


「黙示録の内容は神官のなかでも神に許されたごく一部の者しか知らない神聖なモノ。

 なんでそれをあなたが知ってるの、ですか?」


 ルースさんが訝しげに鋭い眼差しを不知火さんに向ける。


「そう思うのも無理はない」


 ルースさんの隣にいたヴェルカンが代わりに答えた。


「お前は知らないだろうが、彼女はそれくらい世界のあらゆる問題に関わってきたんだ。

 それこそ、世界の(ことわり)に触れるレベルのな。

 だから世界のとんでもねえ秘密を一つや二つ、三つ知っててもなんら不思議じゃない」


 ヴェルカンからの回答にルースさんはやや不服そうではあったものの、言い返すことなく静かになった。


「それじゃいい? まずは四魔騎士のルーツから話そうか──」


 キリッとした顔で指を立てた不知火さんが放った次なる一言に一同は驚愕する。


「この子達はかつて世界を一度滅ぼし、そしてこの世界に連れて来られた──“厄災(やくさい)”達です」

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