01 再起、そして再会
真っ白な建物が建ち並んだ港町ドーヴァー・コースト。
ほとんどの建物が二階建ての高さで統一されているが、町の中心に塔のようにそびえ立つどデカい時計台がある。
そこは四階建ての建物くらいに高く、町のシンボルになっているが、通りを歩く人間の大半は顔を上に向ける事なく、あっさりと素通りしていく。
理由は簡単。
この町に時間なんて気にしてるヤツはほとんどいない。
それなのに時計台が町に置かれてるのはおかしくないかって?
まぁ、話すと長くなるんでハショるが、そのむかし世界全体が灰の空に包まれてた時期があった。
今が昼なのか夜なのかも分からなくて、みんな混乱した。
そんな時にアレが建てられたワケ。
んで、英傑さん御一行がその問題の源をバスッと解決~!
空は色を取り戻し、それ以降、時計台は存在価値がなくなったとさ。
町によっては時計台を壊してるところもあるそうだが、だいたいの町はそのまま残してある。
現在は過去の歴史を伝えるモニュメントとして、待ち合わせ場所の目印として、存在し続けているってわけだな。
そんな立派な背景がある時計台の上にケツを乗せて座るクールでニヒルなアウトローがいる。
そいつの年齢は21歳の超イケメン。
細身の体格でオールバックにした長い赤髪と内側にアクセントで紫に染まった髪を後頭部の高い位置でまとめたハーフアップヘアー。
まあ『遊び人』と呼ばれることもあるが、おれっち的には『美男子』と呼ばれるとテンションあがるので、そこのところよろしく!
漆黒のコートをなびかせながら、真鍮製の単眼望遠鏡を用いてターゲットの蒼髪くんを監視する──それが俺っちの現在の仕事。
ターゲットはリクト・サシューダ。
年齢推定、十代後半くらい。
短い蒼髪と前髪の一部が白く染まっててオシャレ。
俺っちよりほんのちょっとだけイケメンかな?
「しっかし、不知火さんから聞いてた印象とだいぶ違うなぁ。
あれじゃスライム一匹すらまともに殺せないだろ」
すると、ターゲットの蒼髪くんのもとに三人の若者が近づいてきた。
一人は丸眼鏡をかけた上下黒の神官服に身を包んでる。
暗そうな雰囲気の女の子だ。
こういう子、俺っちは苦手だな……。
もう一人は異国の衣服を身に纏った桃色髪のカワイコちゃん♪
そして、最後の一人は目つきの悪い小柄の兄ちゃん。
「ほ~。眼鏡っ子を除けばバイセルン事変の中心にいた3人がまた揃うとは……。
こりゃまた物騒なことが起きそうですわな」
単眼望遠鏡を玩具のようにもてあそびながら立ち上がり、ケツの埃を手で軽く掃う。
「さてと。そんじゃ行きますかね」
* * *
時計台のある広場のベンチにリクトはモモカさんと腰かけて話をした。
久しぶりの再会だったが、リクトは内心複雑な気持ちだった。
ピスケくんの父親を見つけ出すと息まいて出て行ったのに目標を達成するどころか、腑に落ちない結末に終わった。
そして町に戻ってきたことをピスケくんやモモカさんに告げるのが、後ろめたく感じていまだにまともにモモカさんの顔も見れない。
目の前に川があれば飛び込んで死んでしまいたい。
……すると、そこへ聞き覚えのある鋭い男の声がした。
「久々にツラおがめたと思ったら、まだメソメソしてんのか」
声がしたほうへ顔を向けると、ヴェルカンが憐れみを込めた冷たい表情で腕を組みながらこちらにやってきた。
「救世主ってのは精神管理が大変だな」
鼻と口を覆った鉄仮面から吐き出された言葉には相変わらずトゲがあった。
けれど、これが彼の本心ではないことは知っている。
強い口調のなかに相手を思う優しさがある。
それがヴェルカンというキャラクターであり、彼がゲーム上で人気キャラランキング1位なのもこういうところがファンに愛されてる理由だ。
だから思いきって言葉を紡ぐ。
「ぼくは疫病神なんでしょうか」
ヴェルカンがぴくりと反応したが、リクトはうつむいたまま続ける。
「どこへ行っても誰かがなにかを失うことばかりで……やったこと以上の損害や犠牲が出てしまって……。
いっそ、自分が行動しなければもっとマシな結果になったんじゃないかって、思うんです」
「それはないです! リクト様は誰よりもっ──」
モモカさんが言いかけた途中でヴェルカンが制止する。
「“誰かが青空の下を歩いているなら、遠くの町ではきっと雨が降っている”」
ヴェルカンの言葉にリクトは言い返す。
「それって、犠牲はつきものだから仕方ないってことですか」
「まっ、そういうことだ」
そう言い、ドサッとベンチに腰掛けたヴェルカンは前かがみの姿勢で通りを行き交う人々を眺めながら言った。
「この世に永遠に失われないものは無い。
大なり小なりヒトは何かを失うし、不幸な目にも遭う。
生きてるだけで引き算だ。
俺らはそのなかでも目につく世の中の犠牲や損害をなるべく最小限の損程度におさまるよう努力する。
神でもない俺たち人間にできる事はせいぜいそれくらいだ」
ヒトの皮を被った狼にド正論を叩きつけられたリクトは返す言葉も見つからなかった。
それを察してか、ヴェルカンは後ろを振り返り、誰かを手招く。
すると、彼の背後から現れた人物にリクトの目が見開いた。
「久しぶり……ですね」
落ち着かない様子でたたずんだ丸眼鏡の少女が、ルースさんだと分かるまで、三秒ほどの時間を要した。




