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59 絆の契約

 メアの洗脳支配魔法によって操られている会場の警護スタッフらに取り囲まれた麗人(れいじん)(いた)って冷静だった。

 自分の弟さえも操られ、その弟に銃口を向けられている状況だというのに麗人は他人事のように()げる。


手際(てぎわ)がいいな。これもきみの計画か?」


 麗人は相変わらず会場に身体の正面を向けたまま、肩()しに振り返り、リクトに(たず)ねた。


「半分だけです。みんなの知恵をお借りしました」

「ほう」


 麗人は身体の正面をリクトに向けると、両手を広げてみせた。


「聞かせてほしいな。

 きみにどのような知恵が集まり、きみはどのように準備をし、どのようにしてこの状況を作り上げたのか」


「……──」



* * *



 話は数時間前に(さかのぼ)る。

 ルースさん達と合流したリクトは包帯少女を鼠側の仲間として紹介した。

 包帯少女は『そんな浅い嘘なんて、すぐに見抜かれて終わりよ』と言っていたが、女子が大好物であるルースさんはリクトの浅い嘘に気づくどころか、包帯少女に抱き着き、新たな仲間として大歓迎した。


『みなさんに“提案”があります』


 リクトは以前から考えていた“あること”を開示した。


『みなさんには()()()()()()をやってほしいんです』


『は?』


 ルースさん含めた一同の頭の上に『?』マークが浮かぶ。

 至極当然の反応だ。

 すると、怪訝(けげん)そうな表情を顔に浮かべたガーランドさんが挙手(きょしゅ)する。


『どういうことだ?

 お前みたいに俺らも《召魔銃士(ガンサマナー)》になれって言ってるのか?』


 リクトは微笑みを顔に浮かべてこくりと頷いた。


『はい! みなさんにぼくの召喚獣をレンタルします!』


 ふふん、と満足げに腕を組み、胸の中にしまっていたアイデアをここぞとばかりに発表したリクトであったが、一同は全員黙り込んだままだった。

 逡巡(しゅんじゅん)(すえ)にミトラちゃんがジトリと目を細めて口火(くちび)を切った。


『そのさ、“()()()()”って……なに?」



* * *



『アスカナ』には《召喚士(サマナー)》系の職種(ジョブ)限定で召喚獣をレンタルするシステムがあった。

 似たシステムだと、ユーザーが独自(どくじ)に生成した冒険者を冒険者ギルドにレンタルするものもある。

 これらはおもに新人ユーザーやゲーム初心者に配慮したもので、レンタルされる数が増えればレンタルオーナーに報酬金が支払われる。


……と言っても、リクトはそのシステムを知って利用はしていたが、資金面は十分(うるお)っていたので、報酬に対しての喜びは無かった。

 しかし、報酬を貰うたびに自分が育てた召喚獣が他のユーザーに使われていることを実感すると、親バカに似た優越感を抱いたものだ。


 この世界に来てからはそのシステムの存在さえ完全に忘れてしまっていた。

 思い出したのはダンジョンでダンテさんをコピーした元NPCのモンスターと出会った時だ。

 ハウジングシステムさえあるのなら、レンタルシステムもあるのではないか。


 けれども、だ。


 すべてが現実化した世界でレンタルシステムがどのようなカタチになっているのか、どのようにレンタルするのか、方法も分からないし、そんなことをしてる時間も余裕もなかった。

 しかし、クレンスに案内されたアイテム保管庫で見つけたもののなかで、レンタルシステムを利用する際に使用する金貨を発見し、このアイデアを実行しようと思うに至ったワケだ。


『それじゃあ、この金貨に自分の血を一滴(いってき)でいいんで、与えてください』


 一同の手に握られたのは六芒星(ろくぼうせい)(きざ)まれた金貨。

 幸運にもレンタル用金貨の枚数は十分あった。

 保管庫に入れた者がその金貨の本当の利用方法を知っていたとは思えないが、もしその人物に会えたら、全財産をゆずって感謝の手紙と共に毎週かかさず仕送りをする。

 レンタル専用金貨はそれでも足りないくらいのレアアイテムだ。


 こうして一同に金貨を(くば)り、特訓を始める前に契約儀式を完了させた。

 最初は訝しげに説明を聞いていた一同だったが、いざ召喚獣を出現させると驚嘆(きょうたん)と興奮の声があがるようになった。


 召喚できるのは一人につき一柱(ひとはしら)の召喚獣のみ。

 貸出される召喚獣はランダムで決定する。

 召喚獣のレベルとマスターとなる者のレベルに差がかなりある場合、レベル差を(おぎな)(さく)として、その都度(つど)リクトが魔力を分け与えた。


『召喚獣はもともと実体が存在しない幽霊のような存在です。

 顕現(けんげん)するためには魔力と詠唱呪文、そして媒体(ばいたい)となる召喚アイテムが必要になります。

 召喚アイテム自体は自由ですので、お好きなものを使ってください』


『あのう、召喚したモンスターが時間が経つとすぐに消えてしまうんですが、どうしてですか?』


 アイシャちゃんが質問を投げた。


『召喚した時に一度出した魔力は時間が過ぎれば消えてしまいます。

 なので、召喚獣が顕現する時間は限られてしまいます。

 魔力を与え続けることで顕現時間を延ばすことも可能ですけど、魔力が底を尽きるとマスター自身が死に至るので、その方法はあまりおすすめはしないです』


『だったら、全員で一つの召喚獣に魔力を(そそ)ぎ込めば長い時間、顕現も持続(じぞく)できるんじゃないか?」


 アギレラさんがボソッとつぶやいた。

 瞬間、リクトは険しい顔つきに変わる。

 一同にしん、と沈黙がおりた。


『それ!! めちゃくちゃいいアイデアじゃないっすか!!』


 みるみるうちに瞳を輝かせたリクトは前のめりで興奮気味に声をあげた。


『でも』とルースさんがスッと挙手して横槍を入れる。


貸出(かしだし)召喚できるモンスターはこっちじゃ選べないんでしょ?

 みんなの血で召喚したとしても、おっかないモンスターが出てきちゃったら?

 かなり面倒なことにならない?』


 ルースさんの考えも確かに一理(いちり)ある。

 リクトは脳をフル回転させながら口を開いた。


『強制的に召喚をキャンセルすることはできるけど、一度解き放った召喚獣は顕現時間を過ぎるまで必ず召喚しないといけないルールだったはず。

 もしそれを(おこた)ると、魔力決壊(けっかい)が発生してしまって、かなりまずいことが起きる』


()()()()()って?』


 心配そうにこちらを見つめてくるルースさん。

 リクトは『設定……いえ、《召喚士(サモナー)》の(おきて)だと』と言い直し、一同に()げる。


『寿命が一年減っちゃいます』


 瞬間、重い空気がどしりとのしかかった。

 しかし、その後もみんなから沢山の質問や提案が飛び、特訓と会議は一つの作戦をカタチにするに至った。

 じつはマスターであるリクトが召喚をおこなう際、召喚対象は一体のみにしぼられていた。

 その時に一同の血で染めた金貨を銃弾の一部として同時発射させる。

 そうすることで魔力を大量に注がれたメアが長い間、活動できる。

 この解が出た瞬間、リクトは長いあいだ真っ暗で見えなかった場所に光が差し込んだような、一筋の光を得た気がした。


『この作戦だったら、みんなをここから脱出させることができるかも……!』


 こうして、作戦通りにメアを顕現させることに成功したリクトは胸元で(こぶし)をぎゅっと強く握りしめた。

 リクトが身を(ひるがえ)すと、その先には特訓で一段と輝き、晴れやかな表情を浮かべた一同が立ち並び、リクトに拍手を送った。

 その想いに胸いっぱいになったリクトは力いっぱいに頭を下げた。


『みなさんから出してくれた知恵のお陰です!

 たくさんの知恵を貸して下さりまして、本当にありがとうございました!!』


『頭をあげなって。

 あんたがいたからあたし達はここまでやれたんだ。

 感謝するならこっちのほうさ。

 ありがとう。リクト』


 そう言い、照れくさそうに鼻をすするアギレラさん。


『アギ(ねえ)の言う通りだ!

 俺たちはお前のお陰でここまで生きて来れた!

 お前がいなかったらとっくに全滅してたぜ。

 あんがとよ! リク』


 そう言って、腰に手を当ててコワモテさんが白い歯をちらりと見せた。

 そういや結局、あの人の名前まだ聞けてない……後で聞いておこう。


『俺の命の恩人でもある。

 この場を借りて礼を言うぞ。

 俺の命を救ってくれたこと、一生かけてでも恩返しするつもりだからな。

 覚悟しておけよ?』


 ガーランドさんはそう言って、太くたくましい腕を組みながら悪戯な笑みを浮かべた。

 イケオジの色気を含んだ笑みが眩しくなり、リクトは思わず目を(ほそ)めた。


『私たちも同じ気持ち』

『あっちもだよ~!』

『わ、わたしも』


 ミトラちゃんとマロンちゃんとアイシャちゃんの三人組は照れつつも、呼吸を合わせて感謝の言葉を()べた。


『我らを支配の術から()いてくださったこと、決して忘れません。

 この命に代えてでも、貴方の命を守るとお約束致します』


 そう言ってくれたのは、狩人に操られていた者たちだ。

 ちょっと気持ちが重いけど。

 そして、残るは──


 ちらり。


 ルースさんに視線を向けるリクト。

 するとルースさんは即座に顔を()らした。


『貴女も彼になにか言いたいことがあるんじゃないの?』


 包帯少女がそう言って、ルースさんの背中をポンッと叩いた。


『し、仕方ありませんわね……こほん』


 ルースさんはぎこちない動きで身体の正面をリクトに向けると、言葉を初めて使った赤ちゃんのように感謝の言葉をぎこちなく告げる。

 その様子が恥ずかしかったのか、ルースさんはリクトの胸に顔を埋め、わんわんと泣きだした。

 その拍子(ひょうし)に彼女の黒い帽子が舞い上がり、近くの床にトサッと落ちる。


『え、えーっと……』


 この状況どうしたらいいのだろう。

 リクトは一瞬ためらった。

 胸の高鳴りを必死に(おさ)えながら、ルースさんの頭を一回撫でてみる。

 意外とさらさらしてて心地いいかも。

 その光景を見届けた一同はにこやかに微笑む。

 すると、(あたた)かな空気に()れたメアが柔和(にゅうわ)な笑みを浮かべ、胸元に手を添えて唇を(ひら)く。


『マスターとの出会いに感謝を。

 この(なが)い悪夢にお別れを。

 そして、マスターに知恵を授けてくれた全員に心からの感謝と敬意を込めて……、


──“ありがとう”』


 その一言は昔ぼくがいた世界で某人気アニメの最終幕を彷彿(ほうふつ)とさせた。

 各々が感動の波にのまれるのを横目にリクトはルースさんの涙を受け止めたまま、率直(そっちょく)な想いを胸の内で()べた。


(うーん。

 なんなんだろう、この状況……)

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