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44 蜘蛛婦人 其の五

 一歩前に足を踏み出したリクトに対し、ガーランドさんはポカンとした顔で「しょ、正気かよ」と口にするが、リクトは彼からそんな言葉を浴びせられても自信に満ちた表情を(くず)す事はなかった。


「さっきまでビクビクしてた子犬が、いきなり態度を大きくさせちゃって。急にどうしたの?」


 淑女は甘ったるい声を出して腕を組み、大人の余裕を見せる。リクトは目を()せて口を開いた。


「この勝負──」


 リクトは伏せた目を上げ、口元に笑みを作ってみせた。


「たぶん、()()()()()()です」


 瞬間、リクトから小さな影が飛び出し、ルースさんにめがけてそれが飛翔(ひしょう)する。


「フッ、なにを放っても無駄! あたしの防御魔法で──」


 小さな影がルースさんの眼前に近づいたその時、小さな羽を羽ばたかせた愛らしい童女(どうじょ)の顔がルースさんの視界を(おお)った。


「ふ、せ、い、で、み、せ……!」


 直後、ルースさんは突然めまいを起こしたようにぐらりと身体が崩れた。


「今だっ!!」


 ルースさんがエレウの愛くるしさに身悶えるのを横目にリクトは千載一遇(せんざいいちぐう)好機(チャンス)(のが)すまいと、銃口を淑女に向け、引き金を思いきり引いた。

 ズガン。辺りに(とどろ)く一発の銃声。たちまち広間は(けむり)に包まれた。


煙幕(えんまく)……? フン。こざかしい真似だこと。いかにも鼠らしいわね」


 続いて再び鳴り響く二発目の銃声。淑女は煙によって視界を(さえぎ)られながらも、すかさず呪文を言い放ち、蜘蛛の巣状の結界が淑女の正面に展開させる。


「お馬鹿さん。いまさら銃なんて時代遅れの武器があたくし達、偉大なる魔法使いに通用(つうよう)すると思って?」


 しかし──煙を切り裂いて淑女の眼前にあらわれたのは銃弾ではなく、召喚獣・メアだった。


「っ!!」


 思いがけない敵の出現に目を見開く淑女。

 前髪で片目を隠したメアの片目が紫色に妖しく輝きを放った──





「──ZZZZZ……」


 床に横になって静かに寝息をたてている黒仮面の淑女。

 もしも今ここに何も知らない人がこの状況を目撃したら、無防備に寝ているこの人物が、まさかさっきまで命のやり取りをしてた相手だとは思えないだろう。

 リクトは淑女から目を離し、手に握った彫像の人形へと視線を移した。


「メアの固有(ユニーク)スキル《夢ノ籠(インキュナビュラ)》──メアが()に現れた(さい)、一人の対戦相手を対象とし、強力な催眠効果(さいみんこうか)を与え、《寝ボケ》状態にする……」


 メアを召喚できるほどの魔力はまだ完全に溜まっていなかったから、メアを召喚できるかは正直()けだったけど……。

 リクトはガーランドさん達が見ていない死角の位置でそっと胸を撫でおろした。

 目を伏せたリクトの視線の先にはメアの姿形をした小さな彫像・被造物人形(クリーチャー・ドール)があった。安堵(あんど)の笑みが自然とこぼれる。

 リクトは手にした彫像(ちょうぞう)の人形を温かな眼差しで見つめながら、胸一杯の想いを込めて語りかけた。


「ありがとう。メア。君のおかげで命拾いしたよ」


 その時、とすん、とほっぺたを(ふく)らませたエレウがリクトの肩に乗っかる。


「もちろん、エレウもね」


 そう言ってリクトはエレウの小さな頭をすりすりと優しく撫でつつ、言葉を(つむ)ぐ。


「二人は命の恩人だ。これからは二人の助けに甘えないように頑張るよ」


 すると、膨らませたほっぺたを萎ませたエレウが今度はニッと愛くるしい笑顔を見せた。

 その一方、ルースさんはリクトから少し離れたところで頭をかき、小首を(かし)げながらブツブツと何かを(とな)えている。


「ああ、なんかいい夢見た気がするんだけどなぁ……全っ然思い出せないわっ!」


……ここはあえて何も言わないでおこう。


「おいリク! コレ見ろよ!」


 ガーランドさんが突然声を張り上げ、途端に緊張が走る。

 彼が指さしたものを目にしたリクトはゆっくりと目を見開いた。

……そこには、元・奴隷たちが携えていた武具が山のように積み重なっていた。


「これって、淑女が集めた伝説級の魔法道具!?」

「ああ。普通なら意識を失った程度で持ち主の専用武器を落とすことはないんだが、おそらくこの遊戯(ゲーム)を仕掛けた側がそういう術式をかけたんだろう」

「なるほど」

「俺たちの戦利品だ。有難(ありがた)(いただ)くとしよう」


 思いがけないところで棚から牡丹餅(ぼたもち)を得た。

 しかし、その牡丹餅はリクト達にとって、心強い味方であると同時に新たな戦いが始まる前触(まえぶ)れでもあった。

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