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21 アンデッドパーティ、相まみえる

 黄金の髑髏仮面ゴールドスカル・マスクの男の高らかな笑い声が迷宮内に轟く。


「面白い。

……いいだろう。そちらの要求を呑むとしよう」


 ただし──そう言い、黄金の髑髏仮面ゴールドスカル・マスクの男は人差し指をたてた。

 その瞬間、彼の黄金の指輪が輝きを放つ。


「こちらが勝てば、()()()()()()()()()()()()()

 それでいいな?」

「いいわ。条件成立ね」


 にんまりと笑みを浮かべるルースさんの肩にガーランドさんの手が触れる。

 彼の顔に視線を向けたルースさんの瞳には、ガーランドさんのぎこちない笑みが映った。

 顔の筋肉を使って全力で笑顔を作っているが、彼の目は全然笑っていない。


「ちょっといいかな? ()()()()()


 そう口にしたガーランドさんはルースさんの腕を強引に引っ張り、狩人に向けて「少し話し合いの時間をくれ」と頼むと、彼らに背を向けた。


「お前! ほんとに勝算があるんだろうな!? もしなかったら本気でぶん殴るぞ!」

「もちろんあるに決まってるじゃない。このあたしを誰だと思ってるのよ」


「「「「……」」」」


 その瞬間、男性一同は黙り込んだ。


「いや誰だよ」


 ガーランドさんからの冷たい視線を受けたルースさんは一瞬、顔をしかめたが、こほんっと咳払いをして、唇を開いた。


「聞かれたからには答えて差し上げましょう。

 (わたくし)は平民の生まれながら、神の子であるエライゼ皇女殿下から神官としての才能を見いだされ、そしてまだ神官見習い中の身であるにも関わらず、国の英雄こと、オスヴァルト様から旅のお供として引き抜かれた選ばれし人間──ルース・エヴァンズとはこの(わたくし)のことっ!」


「「「「「「……」」」」」」


 再び沈黙の間が流れた。


「だから誰だよ!」


 そう言われ、ルースさんはムッとした顔で丸眼鏡越しに男性一同を睨んだ。

 彼女は腹の底からこみ上げてきた怒りをなんとか押し殺して平然とした顔を作ると、声を潜めて言った。


「いい? あたしはここに来る前、オスヴァルト様からお借りした杖があるの。

 国宝級の代物よ。あれを使えば勝機はある。

 だけれど、威力があまりに大きすぎる。

 一度、魔法を使用したら長い間、魔法を使うことができないの」


「なるほど。察するに今はその杖で魔法を使っちまったあとってことか」


 ガーランドにそう言われたルースさんは気まずい顔になり、反射的に男性陣から視線をそらした。

 

「っ……そういうこと。

 相手は二人。一人はあたしが。もう一人の男はあんたに任せる」


 ルースさんはそう言って、リクトに指を差す。

 リクトは思わずどきりとした。

 すると、ルースさんは張り詰めた顔からすました顔になり、女子一同に顔を向ける。


「女の子たちは隠れていて。危ないでございますから」

「う、うん」


 アイシャ達はこくりと頷く。


「信頼してくれてるの? ぼくならあいつを倒せるって」


 リクトは自分を指さしながらルースさんに問う。


「あの“バイセルン事変”を生き延びたんでしょ?

『巨人から子供を救った』とか、『死神を倒した』とか。

 どこまで本当の話か知らないけど、その(たくま)しさ……あてにしてるわ」


 すると、通路奥に身を潜ませたアイシャ達はお互いに顔を見合わせた。

 そして、同時にリクトへ熱い視線を注ぐ。


「うちもあてにしてる」

「がんばって♪ お兄ちゃん☆」

「わたしたちもあてにしてます!」


「……というか、ルースさん? この子たちは誰なんですか?」


 それまでずっと腹の底でためていた疑問をついに口から吐き出したリクトだったが──


「話は済んだか?」


 ついに痺れを切らした黄金の髑髏仮面ゴールドスカル・マスクの男が言葉を投げた。

 リクトは狩人らのほうに顔を向ける。

……やるしかない。

 いま自分が召喚できるのはメアだけだ。

 しかもここへ来る前に一度メアを召喚したから、戦える時間はごくわずか。

 短時間で決着をつけるしかない。

 狩人らに向けて一歩目を踏み出した途端、ガーランドさんが横からサッと出てきて、リクトの肩に手を置いた。


「俺に任せろ」

「……え?」


 ダンッ! と床を強く踏みしめたガーランドさんは狩人らに向かって大声をあげた。


「まずは俺が相手をする!」


 数秒、反応に遅れてリクトはガーランドさんのもとに駆け寄った。


「ちょ、ちょっと! ガーランドさん!? いきなり何言ってるんです?」


 ガーランドさんは肩越しに振り返った。


「《不死者(アンデッド)》の奴らに普通の攻撃は効かん。

 だが腐っても(もと)は“人間”だ。

 どんな奴にも戦い方には(くせ)が出る。

 奴らの得意とする戦法は何か──

 それを見極めるために『やられ役』が必要だろ?」


 片側の口角を上げてガーランドはそう述べた。


「俺だって他人の為に死ぬのは御免だ。

 引き(ぎわ)はわきまえてる。

 だからしっかり見ておけ」

「……でも! あまりに危険すぎますって!」


 途端、ガーランドさんはリクトの頭をポンッと撫でた。


「これはな、子供に助けられた“大人の意地”ってやつだ。

 子供は黙って、大人に助けられてくれよ……、な?」


 そう言い、ガーランドさんは白い歯を覗かせた。

 押し黙るリクト。

 ガーランドさんは狩人らに顔を向けると、爽やかな表情から一転して険しい顔つきへと変わった。


「シシシシッ!」


 不気味な笑い声を轟かせながら死面(デスマスク)の少年が床の大穴を軽々と飛び越え、ガーランドさんの前に降り立つ。

 狩人の少年は両刃剣を器用に振り回して武器を構え直し、腐った皮膚の唇から黒々とした舌を覗かせ、チロリと乾いた唇を舐めた。


 ガーランドさんは囁くように呪文を詠唱し、黒いジャケットを脱ぎ捨てる。

 上半身裸となった彼の筋肉が(あら)わになると、彼の肌を伝う汗が松明の灯りに照らされ、きらりと光った。

 たちまちジャケットは大型の黒い豹もどきへと姿を変え、牙を()き出しにした。


「……来いよ、“屍鬼(グール)野郎”」

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