表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/102

04 花吹雪

 広い野原に辿(たど)り着くと、野原(のはら)には(おさな)い子供らが一か所に集まっていた。

 さっき走り()った子供の姿も見える。

 子供らは一人の少女に向けて好奇(こうき)な視線を(そそ)いでいた。


 欧米風(おうべいふう)の服装の子供らに対し、少女は桜色髪のポニーテールに黒い風車(かざぐるま)(かたち)をした和柄(わがら)の髪(かざ)りをして、白と赤をベースにした着物と黒の(はかま)姿、腰には桜や紅葉(もみじ)があしらわれた刀の(さや)()している。


 草の(しげ)みから目を()らし、少女の顔をよく見ると、日本人(ばな)れした自分の顔よりも、日本人の顔に近かった。

 目はパチッとしていて、鼻筋(はなすじ)(とお)っている。

 背丈(せたけ)は小さく、アバターキャラのリクトと同じくらいの年頃(としごろ)に見えた。


 着物少女が何やら呪文のような言葉を口ずさむと、葉が(ちゅう)に浮かんで集まり、文字を形作(かたちづく)った。

 その光景に子供らは目が釘付(くぎづ)けだ。

 少女は虚空(こくう)に葉を集めると、二羽(にわ)の鳥が仲良くスリスリと体を()()い、口づけをかわす様子を作ってみせた。


 子供らはキャッキャと喜び、元気な拍手を彼女に送る。

 ところが、興奮おさまらない様子の子供らは同じフレーズを連呼(れんこ)(はじ)めた。

 途端に少女は(まゆ)を八の字に()らし、(こま)()てた表情を浮かべつつも、(あきら)めたようにため息を吐き、着物の(ふところ)に右手を入れた。

 どうやら子供らのアンコールを受け止めたようだ。


 (ふところ)から赤い勾玉(まがたま)を取り出した彼女は子供らからそっと離れると、深く息を吸う。

 見開いた彼女の瞳には、どこか不安の色が()らいで見えた。


“──できるかな……”


 瞬間、彼女がそう(つぶや)いたような気がした。


「この地にスまう花霊(かれい)よ、我の祈りに答えタまえ。葉に泡沫(うたかた)のイノちを与え、我の(もと)に咲キ乱レよ」


 着物少女の詠唱が始まると、周りの草木が激しく揺れ、()の葉が集まって空に舞い()がった。

 そして彼女は声(たか)らかに魔法の名を口にした。


「──《万華爛漫(ばんからんまん)》!」


 彼女が呪文を(とな)えた瞬間、舞い上がった葉は子供らと近くにいたリクトを巻き込み、葉で(つむ)がれたドームの中へと閉じ込められた。


 一枚一枚の葉から(つぼみ)が生え、一気に開花(かいか)した。

 右を見ても、左を見ても花、花、花……種類の異なる花たちが色(あざ)やかに()(みだ)れた。

 それは、まるできらめく万華鏡(まんげきょう)の中に入ったような感覚だ。

 ゲームの演出を遥かに(しの)迫力(はくりょく)を見せつけられた自分は目の前に顕現(けんげん)した幻想的な光景に口を(ひら)く。


「……これが、本物の“魔法”」


 すると、肩に一滴(いってき)水滴(すいてき)がポタリと落ちた。

 肩に当たったものを何気なしに指で(こす)り取ると、思わず顔を(ゆが)めた。


「きったな!」


 指先は黒々とした液体で()れてしまっていた──液体の正体を探して空を見上げると、怪しい雲が頭上の空を覆っている。

 途端、湿気(しっけ)()びた生温(なまあたた)かい風がどこからともなく吹きつけてきた。


……たまらなく嫌な感じがして、その場から離れようか思案(しあん)していたその直後、カチャカチャと金属同士がぶつかる音を鳴らして西洋風の甲冑を着た兵士らが続々(ぞくぞく)と現れた。


 駆けつけた兵士の一人から、何かの指示を受けた少女は、一瞬(くや)しそうな表情を浮かべたが、渋々といった様子で虚空(こくう)に浮かばせた花々(はなばな)を残したまま子供らを引率し、その場から離れて行く。


「……なんだか(あわ)ただしくなってきたな」


 ふと、心の声が()れたその時、虚空に浮かんでいた花々に黒い雨が当たると、たちまち花々(はなばな)は一気に(しお)れ、やがて(くろ)ずみ、(はい)となって消え去った。

 次々と地面に落ちた黒い雨粒(あまつぶ)(うごめ)き、水滴(すいてき)の一つ一つが一か所に集まり、“黒い(かたまり)”と化した。


 嫌な予感は見事に的中した。

 黒い水の塊は一匹の“黒い小竜(こりゅう)”に姿を変えたのだ。

 しかし、小竜と言えど、大きさはゾウほどもある。

 毒々しい皮膚(ひふ)からは激しく脈打(みゃくう)血管(けっかん)()()ていた。

 鳥のような二本足で立ち上がった黒い小竜はコウモリのような羽をバサッと広げ、空に向かって咆哮(ほうこう)をあげた。


「ギシャアアアアッ!!」


──その姿は、《アスカナ》に登場するドラゴン系モンスター《ワイバーン》にそっくりだった。


「ゲームと同じ姿の《ワイバーン》がこの世界に存在するって事は、ここはもう《アスカナ》の世界で確定だな!」


 そう結論づけて、腰に差した短剣を手に取る。


「ここがゲームと同じなら、自分でも戦える……はずっ!」


 瞬間、整列(せいれつ)した兵士らの中にいた指揮官らしき男が、(たか)らかに声をあげた。

 指令を受け取った弓兵達は《ワイバーン》に向かって次々と矢の雨を()らした。


──ドスッ!

──ドスッ!

──ドスッ!

「ギャッ!?」


 《ワイバーン》の背中にいくつかの矢が()()さり、怒り(くる)った《ワイバーン》は長い尻尾(しっぽ)周囲(しゅうい)にいる兵士らをなぎ(はら)う。

 それによって、十数名の兵士が後方へ(はじ)き飛ばされた。

 指揮官らしき男は《ワイバーン》の咆哮に負けじと声を(あら)げ、(ひる)んだ兵士らの士気(しき)(たか)めた。


 瞬間、《ワイバーン》の首がぐねりと()び、正面(しょうめん)()()蜥蜴(とかげ)のような(くち)がガパッと(ひら)いたかと思うと、指揮官らしき男をあっと言う間に()み込んだ。


「え、ほんとうに……人が……死んだのか……? いや、まさかな」


《ワイバーン》の口がムシャムシャと動く。

 凄惨(せいさん)な光景を()の当たりにした兵士らは、()をガタガタとこわばらせて、剣を構えたまま後退(こうたい)していく。

 そんななか、若い男の兵士はあまりの恐怖のせいか、立ち()くしたままその場に取り残されていた。


……だが、《ワイバーン》は怯える若い兵士の横を、あっさりと(とお)り過ぎた。

 まるで関心がないかのように。

《ワイバーン》の白濁(はくだく)とした目は、近くに佇んだ若い男の兵士ではなく、後退した兵士らに向けられていた。

 そこで、リクトは()()()()に気が付いた。


「──そうか! あいつは■■■■■■■■っ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ