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20 規格外

 新たに出現した巨人をリクトは凝視(ぎょうし)する。

 他のだらしない体つきをした巨人達とは違い、固く()まった筋肉と赤黒く焼けた肌。

 そして、頭に生えた長さが異なる二本の角。

 他の《サイクロプス》とは雰囲気が異なる巨人だった。


 こんなところで固有(ユニーク)モンスターが出てくるなんてっ!

 これが本当のゲームだったら鬼畜すぎてクソゲーだぞ!


固有(ユニーク)モンスター”──

 それは通常のモンスターとは外見や能力が異なる個体差をもって生まれたモンスターの総称。

 ボス・モンスターもそれに含まれる。

 ストーリー進行に関わるボス・モンスターはレベルを上げれば対処できるが、それに該当(がいとう)しない固有(ユニーク)モンスターの場合、熟練者用の腕試し役を(にな)っている。

 そのため、彼らは無慈悲(むじひ)と言えるほど能力値が異常に高く設定されており、彼らと戦うには的確な判断力とスピード、操作のテクニックがプレイヤーに要求される。


……極力(きょくりょく)戦闘を()けるプレイスタイルを好むリクトにとっては、一番出会いたくないモンスターだった。


 二本の角を生やした赤い《サイクロプス》──改め、《紅き双角巨人レッド・ダブルホーン・サイクロプス》は赤い鼻からプシューっと激しく白い鼻息を吐きだす。

 赤い巨人は殺気を込めた目つきで、遠く離れた場所にいるリクト達を威圧し、ゆっくりとした歩みで城へと歩みを始めた。

 その光景を目にしたセオドアは口元を歪め、リクトの(むな)ぐらをぐいっと(つか)んだ。


「なにをボサッとしてる!? 町を救いたいんだろ?! ならば早くやれ!」

「言われなくても、やりますって!」


 セオドアに()かされたリクトは彼に対して苛立ちを覚えながらも、魔導銃(グリストル)を手元に出現させた。

 それを見たセオドアは感嘆(かんたん)の声をあげる。

 魔導銃(グリストル)を見るのが初めてなら当然の反応か。

 セオドアの好奇な視線を横目にリクトはポケットから銃弾を取り出し、手の上に乗せて確認する。


「それは何だ?」


 セオドアは不思議そうに包帯が巻かれている銃弾を指さした。


「なぜそれだけ、“隠されている”のだ?」


 リクトは歯切(はぎ)れを悪くして返す。


「これは危険なんで……今は使えません……」


「『使わない』だと? ハッ! そんな事を言っている場合か?!」


「何が出てくるのか、分からないんですよ。

 言う事を聞かない召喚獣(ヤツ)が出てくる可能性だってありますし」


──『アスカナ』で、召喚獣を入手する方法は二つ存在する。


 出会ったモンスターと契約交渉して召喚獣にする方法、

 それとは別に倒したモンスターのかけらを代価として召喚士用ガチャに支払い、ランダムに排出(はいしゅつ)する被造物人形(クリーチャー・ドール)を手にする方法だ。


 ガチャで排出されるモンスターのなかには、ごくまれにレアな被造物人形(クリーチャー・ドール)が排出される。

 それには高レベルの召喚獣が設定されており、それを引き当てるのが召喚士の楽しみであり、ステータスだった。

 包帯に巻かれた弾丸が、おそらくそれだろうとリクトは推測(すいそく)していた。


 しかし、高レベルの召喚獣を引き当てた場合、リスクは極めて高い。

 高レベルの召喚獣のなかには“()らし”が必要な召喚獣がいるからである。

 自分がご主人だと召喚獣に認めさせるため、初めて召喚する際はその召喚獣と強制的に戦闘へ突入するケースも多かった。

 これをもしいま使ったら、敵を増やしてしまい、もっと最悪な状況になる可能性もある。

 そう簡単に使えるわけがない。


「それを制御するのが召喚士の役目だろ? いいからさっさと出すんだっ!」


 セオドアは恐ろしい形相(ぎょうそう)でリクトから強引に魔導銃(グリストル)を奪い取ると、包帯に巻かれた銃弾を銃口に詰めこんだ。


「だ、だから! 危険なんですって!」


 セオドアから銃を取り返そうと手を伸ばしたその時──


 ズドォンッ!


 一発の銃声が轟いた。

 銃口からは赤紫色の硝煙(しょうえん)が立ちのぼっていた。

 この世が終わるのも時間の問題、

 一瞬、そう思った──

 けれど、()()()()()()


「──……あれ?」


 何秒待てども、周りの状況に変化は無かった。

 周りに視線を巡らせていたセオドアだったが、いっこうに召喚獣は現れない。

 セオドアは肩を落として言った。


「まったく……使えんな。やはり団長が言った通り──」


 セオドアが言いかけたその直後──ズンッ!


「「!?」」


 巨人の足音が更に一段と大きく鳴り、気がつくと赤い巨人はもう間近(まぢか)(せま)っていた。

 《紅き双角巨人レッド・ダブルホーン・サイクロプス》との距離は1キロも無かった。

 その光景を目にしたセオドアは次第に青ざめた顔に変わり、リクトに銃を返すと少年の肩を強く叩いた。


「あいつの討伐はお前に任せたからな!」

「……え?」

「私は住民の避難を誘導せねばならん。ではよろしく頼むぞ!」


 そう言い放ち、セオドアは足早に走り去った。


……すると、次の瞬間──

 土煙から二体の《サイクロプス》がヌッと姿を現した。

《サイクロプス》はあっさりとセオドアをぐしゃりと踏み潰した。


……それが黎明(アウローラ)騎士団・騎兵隊隊長セオドアの最期だった。


 セオドアを踏み潰した《サイクロプス》は人間を踏んだ事を気にも留めず、というより、そこに人がいた事さえ、気づいていない様子だった。

 二体の《サイクロプス》は子供のように瞳を輝かせ、リクトをまじまじと見つめた。

 耳まで裂けた大きな口から黒ずんだ歯を見せ、笑う仕草を見せた。


「……!」


 《サイクロプス》の笑みを見たその瞬間、全身に戦慄(せんりつ)が走った。

 しかし、思考と直結した頭とは違い、身体は勝手に動いた。

 それは、純粋なる本能。


“死にたくない”──ただその一心だった。


 リクトは後ずさりして魔導銃(グリストル)を消すと、たちまち二つの銃身が付いた水平二連散弾銃を手元に出現させた。


「めちゃくちゃエイム下手くそだけど、こんだけ(まと)がデカいんだ」


 リクトは左右二つあるハンマーを二つとも起こし、一秒も待たずして迷いなく一体の《サイクロプス》の頭に狙いを定めた。


「どっかに当たれぇー!!」


 トリガーガードの中にある前後二つ付きの引き金の内、手前の引き金を一気に引く。


──ズドン。


「ウゥッ!?」


 銃口から飛び散った弾丸の一つが、《サイクロプス》のだだっ(ぴろ)(ひたい)に命中した。

 《サイクロプス》は顔を歪め、()たけびをあげながら両手をこめかみに当てる。

 リクトは次に少し離れたもう一体の巨人に狙いを定める。

 今度は前後に付いた引き金の内、後方の引き金を勢いよく引いた


──ズドン!


「ウガッ!? ……ウゥ?」


 こめかみから手を離した巨人は平然とした顔に戻った。

 弾の威力が低かった訳ではない。

 事実、《サイクロプス》の顔面にはいくつかの弾痕がくっきりと残っている。

 だが、弾は(よろい)のように分厚(ぶあつ)い《サイクロプス》の肌を貫通する事無く、ただ肌の表面を黒く()がしただけだった。


 二体の《サイクロプス》はその後、すぐにリクトがいた場所に顔を戻しただろう。

 そして、きっと驚いてるはずだ。

 もう()()()()()()()姿()()()()のだから──


……こうして、人喰い巨人との命がけの鬼ごっこが幕を開けた。

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