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15 鳥獣使い

「どうかしましたか? マスター」


 メアが不安げな顔でリクトに(たず)ねると、リクトは口を(ひら)く。


「あの男、城に来た時からなんとなく見覚えがあるなって、ずっと思ってたんだけど……今ようやく思い出した。

 ここは騎士団本部があるバイセルン城。あの男は黎明(アウローラ)騎士団の団長で“狼面鬼神”の二つ名をもつ王国最強の騎士だ」


 そう()げると、メアは途端(とたん)にガックリと肩を落とした。


「マスター……できれば、もっと早くにその情報を思い出してほしかったです」


「ごめん。ビジュアルが急に全部リアルになったもんだから、気づくのにだいぶ時間かかった……」


 リクトの発言にメアは小首(こくび)(かしげ)げる。


「何を言ってるのか、さっぱり分かりませんが……」


 メアが言葉を切り、「とにかく」と言って話を戻した。


「あの騎士との戦いは避けるべき、ということですね?」


 コクッと頷いたリクトは目の前に倒れている三人の兵士達に視線を移す。


雷撃(らいげき)を自分の部下に平気で当ててくるヤツだ。正気(しょうき)じゃない!」


 すると、ヴェルカンは面具(マスク)開口(かいこう)した状態で天井に顔を向けた途端、口笛を吹いた。


「──来い!《七の鸚鵡(ヴクヴ・カキシュ)》!」


 ヴェルカンがその名を口にした直後、甲高(かんだか)い鳥の鳴き声と共に天井から機械仕掛けの鸚鵡(オウム)があらわれ、ヴェルカンの肩に舞い降りた。

 黄金の羽をたたんだその怪鳥はレコード盤のような大きく丸い眼球を右回り左回りに繰り返し回し続けている。


「お呼びでやすかァ? ヴェルカンの旦那(だんな)ァ」


──機械仕掛けの鸚鵡(オウム)が黄金の嘴を開けるなり、甲高(かんだか)い男の声を(はっ)した。

 トサカの先端部(せんたんぶ)には、キラリと輝く小さな王冠(おうかん)()まっている。

 “トサカに王冠”って……もしかして、ダジャレか?

 すると、メアは口元に手を当てて怪訝(けげん)そうな顔をした。


「“鳥獣使い”……これは厄介ですね」


 (ひたい)に手を当てたリクトは(うめ)いた。


「そんな情報聞いてない!」


 こうなると知ってたらもっと真剣にキャラクター紹介PV見ておくんだったと今更(いまさら)ながら後悔した。

 リクトが紹介PVを最後まで見なかった理由、それは(いた)って単純──イケメンだったから──とても(あさ)はかな理由だった。


 目の前の相手は実戦に慣れた騎士団・団長ヴェルカン。

 それに対し、運動神経ゼロのアラサーの身体能力が反映(はんえい)された少年の体。

 勝ち目など無いに(ひと)しい。

 《七の鸚鵡(ヴクヴ・カキシュ)》はトサカをブンブンと激しく振り、甲高い声をあげる。

 そのたびにトサカの先に(かぶ)った飾りの小さな王冠(おうかん)がカタカタと鳴った。


「ワタシをようやく呼んでくれて、正直ホッとしやした~。てっきりワタシのこと嫌ってるんじゃないかなって、ヒヤヒヤしてやしたもの」


「鳥のくせに(かしこ)いな。その通りだ。俺はお前のことが死ぬほど嫌いだ」


「もう! ヴェルカンの旦那ったら~。本当のところはワタシのことが大切だと思ってるんでしょ~?」


「気色悪いことほざいてるその嘴、叩き折られたいか?」


……あの二人。一体、どういう関係なんだ?

 ヴェルカンの目つきが急に殺気を()びた。今にも首をへし()りそうな目だ。

 途端、《七の鸚鵡(ヴクヴ・カキシュ)》は静かになった。


(いたわ)らぬことを言って申し訳ございやせん。どうか(おろ)かなワタシめにご命令を与えてくださいまし」


 《七の鸚鵡(ヴクヴ・カキシュ)》は深々と頭を()げた。


「あそこでぶっ倒れてる馬鹿どもの状態を俺に教えろ」


 ヴェルカンは目の前に倒れた四人の兵士達を(あご)()した。

 すると、《七の鸚鵡(ヴクヴ・カキシュ)》のレコード盤のような眼球の真ん中にはめ込まれた黒い真珠(しんじゅ)のような瞳のなかに魔法陣が(きざ)まれ、青白い光を放った。


「フムフム……これは状態異常を起こしてやすねェ。四人とも強い催眠(さいみん)魔法をかけられてやす」


「!」


 ほんとに見抜かれてる……! 相手の情報を調べるスキルを使ったのか。

 ところが、すぐに《七の鸚鵡(ヴクヴ・カキシュ)》は「おや」と言って、首を(かし)げた。


「でも……おかしいでやすね。《催眠状態》だけじゃなく、《痺れ状態》も重なっておりやすが……これはどうして」


「あー。そっちは無視しろ。あれは俺がやった」


「エ、エ~~~~?! あれヴェルカンの旦那がやったんですかァッ?! 仲間にも容赦(ようしゃ)しない過激(かげき)な旦那も、イ・カ・し・や・す♪」


 彼らのやり取りを(なが)めていたメアは死んだ目で言った。


「……あの鳥、意外と使える“スキル所持者(ホルダー)”だったんですね」


「今、『鳥』っつったな! おい。聞こえたぞォ!」


 《七の鸚鵡(ヴクヴ・カキシュ)》はヴェルカンの肩の上でバサバサッと飛び跳ね、怒り散らす。

 メアは疲れた表情を浮かべて小さくため息をこぼした。


「マスター。どうしますか? あんなのが相手では私一人でも勝てそうな気がしてきました」


「あの鳥獣相手なら、物理でも勝てると思う。サポート型のスキルだし、先に倒すなら鳥獣からだ……だけど」


()()()?」


「戦闘能力が高いヴェルカンが壁になってしまっているせいで、鳥獣にこっちの攻撃が届かないと思う」


「確かに……」


 ヴェルカンのほうをちらりと見やる。

 彼は腰の短剣を抜き、長剣と短剣の二刀流の構えになった。


「あのコンビ……相性最悪に見えるけど、戦術的な意味では最高のコンビかもしれない」


 すると、リクト達のやり取りが聞こえたのか、ヴェルカンは面具(マスク)開口(かいこう)したまま不敵な笑みを浮かべた。


「俺の部下を可愛がってくれた(れい)だ。千倍にして返してやるよ!」


 ヴェルカンが大きく口を()けたその時、口内に再び電流が集まり、周囲にすさまじい突風が吹き上がり始めた。

 ところが次の瞬間、城内の(あか)りが一斉にフッと消えた。


「?……おい! これは何の真似だ?!」


 闇に支配された視界の中、ヴェルカンの(あら)ぶった声が響き渡る。その声には動揺(どうよう)疑念(ぎねん)苛立(いらだ)ちが()じっているようだった。


「さては暗闇に(じょう)じて仕掛ける気だなァ! 卑怯(ひきょう)だぞォ! お前らァ!」


 ヴェルカンに続き、今度は《七の鸚鵡(ヴクヴ・カキシュ)》の甲高い声が続けて暗闇に響く。


「いやいや! ぼく達だって知りませんって!」


 《七の鸚鵡(ヴクヴ・カキシュ)》はリクト達に疑いをかけて──というより、暗闇の恐怖心を()き消すかのように何度もわめき散らした。


──そうだ。確かメアは夜行性だから、夜目(よめ)()くはずだ。


「メア、何か見える?!」


「見えてはいますが、とくに何も……!?」


 メアはそう言いかけた直後、()()()()()()()()へと変わった。


「マスター! 今すぐこの城から逃げ──」


 途端、メアの声がプツンと切れた。


「メア? ちょっと……え?」


 何度かメアの名を呼び続けた。しかし、返事は依然(いぜん)として返ってこなかった。


「フン。その(あわ)てぶり、どうやらこの(けん)にお前達は関わってないようだな」


 闇の中からヴェルカンの声が響く。

 それよりもメアの気配そのものが消えてしまった……どうして? ……まるで、通話の回線が切れたような、


「ああ、そうか」


 そこでリクトはようやく、()()()()()()()()()()()に辿り着く。


──召喚継続時間。いわゆるクールタイムだ。

 ゲーム上で召喚獣は場に(とど)まる事はない。一定の時間が過ぎれば消えてしまう。

──要するに“時間切れ”だ。


「くそっ。こんな時に……!」


 そこでふと一つの疑問が胸の底からふつふつと()()がった。


「そういや、メアが消える前、何か()()()()()()ような……」


 リクトは頭の中でメアの言葉を巻き戻した。

──『()()』……?

 その直後──ズンッ! と城全体がぐらりと大きく()れ、近くにあった壁にしがみつく。

 その一方でヴェルカンは(うら)めしそうに声をあげる。


「ちぃっ! 今度はなんだ?!」


「ヴェルカンの旦那! ワタシのそばにいてくださいよ! でないと、ワタシ……怖くて漏らしてしまうかも」


「絶対に漏らすんじゃねーぞ! 漏らしたら即殺すっ!」


 (さいわ)い、謎の振動(しんどう)は一度きりですぐにおさまった。

 暗闇から聞こえてくるヴェルカンと《七の鸚鵡(ヴクヴ・カキシュ)》の奇妙な()け合いが可笑しくなったリクトは(こら)えられなくなってたまらず吹きだした。


「あ? こんな時になに笑ってんだ。ずいぶんと余裕だな」


「いや、その……仲間が急にいなくなって、心細(こころぼそ)かったけど、でもきみらがいてくれて、少し安心してさ……」


「「は?」」


 《狂鳥王(ヴクヴ・カキシュ)》とヴェルカンの(あき)れた声が重なる。ヴェルカンは鼻で笑った。


「変わってるな、お前」


 途端、トントンッと何かに胸を叩かれた。

 ふと下に顔を向けると、胸ポケットの中からエレウの顔がちらりと見えた。


「そうだね、エレウ。君もいる」


 暗闇にのまれた状況であっても、エレウの屈託(くったく)のない笑顔を見ると、暗闇の世界に光が(とも)されたような温かい感覚に包まれたリクトは心の先まで満たされた気がした。

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