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死神戦姫と召魔銃士と異世界冒険紀行  作者: 翠雨このは
第三部 第三の騎士
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09 それぞれの役割、目指すべき場所

 時は少し前に(さかのぼ)る──

 不知火さんが今後の方針を打ち出してから数日後、四魔騎士の封印場所へ偵察に出たチームから連絡が届いた。


 こちらの世界の一般的な連絡手段は『ハト』と呼ばれる声真似が得意のモンスター《クロコッタ》を通しておこなわれる。

 見た目は四足獣のハイエナのような姿で大きさは子犬程度。

 主食は肉食らしいが、モモカさんの解説によれば、犬のように飼いならす事ができ、口元に鉄製のマスクを装着してるので、噛みつかれる心配は無いとのこと。

 リクトは(かが)んで伝言の役割を終えた《クロコッタ》の頭を優しく撫でながら一言つぶやいた。


「ヴェルカンに似てるな……」


 ハトに吹き込まれた伝言によると、四つの封印場所は何者かによって破壊された形跡があり、その周辺は害モンスターが蔓延る魔窟と化してるらしい。

 現地をくまなく調査した結果、封印魔法は解かれた状態で、四魔騎士の姿は確認できないことから、作戦は次の段階(フェーズ)へ入った。



* * *



──客船ノーズフェアリーが爆破される三十分ほど前。

 リクトとメア、モモカとエレウは宿の部屋で旅の支度を粛々(しゅくしゅく)と始めていた。


 他の面々はというと、それぞれの使命と役割を全うするため、それぞれの目的地に向かった。

 不知火さんは戦力を揃える下準備をするため、その精鋭の戦力がいるという大海原の向こうにあるメギオン大陸方面へ。


 ルースさんとヴェルカンは司教オスヴァルトのもとへ向かった。

 ルースさんいわく、彼一人いれば四魔騎士の再封印は可能だという。

 しかし、肝心の司教オスヴァルトはとある場所へ行ったきり、現在も帰って来ていないんだとか。

 ヴェルカンらが町を出る際にリクトも彼を探し出す手伝いをルースさんに頼まれたが、『戦力アップが先だから』と言って断った。


 一方、不知火さんの忠実なる部下レントくんとヴェルカンの側近であるユレイさんはリクトらの護衛役として町に残ることになった。

 日が沈み、暗がりに人家の灯りがポツポツと点き始めた頃、リクトらの旅支度はもうじき片付くところまで来ていた。


 食器や小物類の担当になったエレウに目をやると、エレウは自分の体より一回り大きなマグカップの取っ手の部分を小さな両手で持ち上げるようにぐいっと掴み、マグカップの本体を吊り下げた状態で空中を滑りながら運んでいた。

 その姿はまるで重機を輸送する小型ヘリのようで、とても愛らしかった。


「エレウ、無理はしないでいいからね?

 重いなって感じたら、そこに置いといていいから」


 エレウはこちらに顔を向けると、任せなさいと言わんばかりに大きく頷いた。

 うーん、この調子だとたぶんお皿を四、五枚ほど犠牲にしそうだな……。

 でも、せっかく本人がやる気を出しているんだ。

 ここはエレウの厚意を尊重して、本人がやりたいようにやらせておこう。


 残りの面々はというと、荷物が溢れた部屋の床に散らばってぺたんと座り込んだ状態で、各々の作業に取り掛かっていた。

 荷物の取捨選択を担当するメアは冷静な判断で想定を超える抜群の才能を発揮した。

 たとえば、メアがリクトの私物を適当に拾うと、


「これはいかがしますか? マスター」


「あ~、それは前に行った町で買ったお土産なんだけど結構気に入っっちゃってさ~」


「で、どうするんですか?

 いるのですか、いらないのですか」


「うーん、いる……かも?」


「それはつまり、いらないということで……処分決定ですっ!」


 そう告げたメアは有罪を宣告する裁判官のようにリクトの私物をゴミエリアに投げ入れた。

 リクトにとって思い出のある(しな)であろうと、メアは容赦なく切り捨てた。

 けれど、こうして優柔不断なリクトの欠点をメアが補ってくれたおかげで、荷物の量は大幅に減らすことができた。


……ふと、モモカさんの様子が気になって、彼女の背後からチラリと覗き込んでみた。


「っ!!」


 モモカさんがたたみ終えた服の美しさにリクトは思わず息をのむ。


「あ、あの……モモカさん?」

「? はい?」


 呼ばれて、振り返ったモモカさんが首を傾げる。

「どうしました?」と言い、きょとんとした顔をするので、リクトは念のため確認した。


「その服……新品じゃないですよね?」

「え、ええ? な~に言ってるんですか」


 そう言い、モモカさんがケラケラと笑う。


「忘れちゃったんですか? リクト様。

 この服、昨日着てたやつじゃないですか」


「いやぁ~……そういうことじゃなくて。

 そんなに綺麗にたたまなくてもいいんですよ?

 それだと、いざ着る時、取り出しにくいし……」


 すると、モモカさんはたちまち沈んだ顔になった。


「申し訳ありません……。

 余計なことでしたね。

 すみません、たたみ直します……」


「いやいや! そこまでしなくていいから!

 ありがとう。

……モモカさんの心遣いにはいつも感謝してるよ」


 そうして、優秀な一同の活躍のお陰で、旅の支度はある程度終了した。

 一息ついたところで、モモカさんが口火を切る。


「……それにしても、大変なことになりましたね」


「四魔騎士のこと?」


 こくりとモモカさんが相槌を打つ。

 すると、モモカさんは物憂げな表情で視線を落とした。


「リクト様があの迷宮から生き延びて、こうしてまた一緒にお話ができるだけでも天に感謝すべきことなのに……また大きな荷物を背負うカタチになってしまって……」


 言いながら、再び視線をリクトのほうに戻したモモカさんの顔からは複雑な心境が見て取れた。

 不満な気持ち三割、

 苛立ちが三割、

 心配が四割といった感じだ。


「……断ってもよかったんじゃないですか?」


 肩を椅子代わりにして腰かけているエレウの視線を感じつつ、リクトは答えた。


「本音を言えば断りたかったよ。

 でも、このままの戦力だと、いつか複数の強敵に遭遇した時、間違いなく全滅する。

 不知火さんの作戦に乗っかったのは、あくまで自分たちの目的と利害が一致したからだ」


 すると、壁にもたれかかって腕を組んだメアが口を開く。


「私と死神、ピョン吉と邪神オジだけでは力不足、ということですか?」


 険のある言い方でメアが訊ねる。

 普段通りクールだったが、内心の不満と苛立ちが込められたトゲトゲしい視線にいたたまれなくなり、リクトは顔を伏せた。


「情けない召異銃士(ガンサマナー)で、ごめん……。

 せめて、みんなを守れるくらいぼくがもっと強くなっていたら……」


「だから()くのだろう?

 “サタナティス”へ──」


 部屋の隅で片膝を立てて座っていたアヴィスが話に割り込む。

 なぜサタナティスへ向かうことになったのかというと、今から二か月後、大陸北部にある独立国アマンドラで4年に一度の祭典『グノンティア大祭』がおこなわれる。

 その種目の一つである超闘競技で優勝者に贈呈される記念品が、なんと被造物人形(クリーチャー・ドール)だった事が判明したのだ。

 ソースは先日のレベルアップによって拡張したリクトの召喚獣探知スキル《招き目(サーチェント)》で得られたものである。


 しかし、グノンティア大祭に選手として参加するには年二回おこなわれるS級冒険者昇格試験に合格する必要がある。

……なので、とりあえずは試験の開催地であるサタナティスへ向かうことになった。

 そこには何人もの新米冒険者をS級に育て上げた元S級冒険者がいるらしい。

 そこで、自分の腕を磨く。

 召喚獣の足を引っ張らないくらい強くなるために。


 だが……前途(ぜんと)多難(たなん)だ。


「試験に合格してS級になる──

 グノンティア大祭で優勝し、召喚獣を入手する──

 四魔騎士の討伐──……」


 そうつぶやきながら、神妙な面持ちでモモカさんは伸ばした三本の指を一本ずつ折り曲げていく。

 一呼吸置いたのち、モモカさんとメアとリクトは三人同時に率直な思いをつぶやいた。


「ちょっと難しそうですね」

「かなり厳しいかと」

「無理だね」


 三人は顔を合わせて苦笑いした。


「やっぱり、駄目か~」


 リクトが顔を両手で塞いでうめいていると、アヴィスが厳しい意見を述べる。


「やるしかない。

 やらねば貴様たちは滅びるだけ。

 それでも死を受け入れるというのなら、好きにしろ。

 我が直々に貴様たちの魂を狩ってやる」


 アヴィスに言われ、気まずい空気が部屋を包みこむ。

 ピリピリした雰囲気を変えようと次の言葉を考えあぐねていると、

 コンコン、と突然向こうからドアを叩く音がした。


「はーい。どうぞ」


 空気を変える想定外の来訪者に内心安堵しつつ、部屋に上がり込んだ中年男性の姿を見るなり、リクトは眉をひそめた。

 顔の上半分が見えなくなるほど山高帽を深く被り、鉤鼻(かぎばな)と鋭いアゴがひと(きわ)目についた。

 帽子と同じ濃い紫色のくたびれたコートを身に(まと)っていて、よく見ると高身長だが、ひどい猫背のせいで高身長には見えない。

 怪訝な表情で警戒しつつ、リクトは中年男性に訊ねた。


「……ど、どちら様ですか?」


「失礼」と言い、男は頭に被った山高帽に軽く手を添え、挨拶した。


「私の名はヒグレ・イエゴ・ヒュームレイ。

 単刀直入ですまないが、きみがリクト・サシューダ君で合ってるかね?」


 ダンジョンマスター・ヒグレ。

 彼との出逢いが、今後の課題に一筋の光明をもたらすことになる──。

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