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死神戦姫と召魔銃士と異世界冒険紀行  作者: 翠雨このは
第三部 第三の騎士
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05 作戦会議にて 後編

「私たちの当面の目的は四魔騎士の再封印。

 各地にある騎士が封印されていた場所を巡って、再封印の処置を施す。

 それが一番の最善策」


 そう告げた不知火さんにヴェルカンが腕を組んで訊ねる。


「場所は分かってるのか」


「それを答える前に大事な出来事をみんなに伝えなければいけない。

 じつは歴史上に一度だけ、《闇の帝王》との戦いで四魔騎士が封印から解かれそうになったことがあったようなの。

 これは歴史書にも記されてない部分」


 一同から動揺の声が漏れた。

 リクトは小首を傾げた。

 不知火さんがその件について把握してることが不思議でならなかった。


「当時、その騒ぎで立ち会った勇者の同伴者たちが、代々に渡って騎士たちの封印場所を管理してたから、場所自体は分かってる。

 ただ一つ問題なのは──」


 不知火さんはそこでいったん言葉を切り、やや()をおいて告げた。


「各地の封印場所にいる連絡係とこのニか月間、連絡が取れていないんだ」


 瞬間、室内が気まずい空気に包まれた。

 ぎこちない空気を察したヴェルカンが頭をかきながら発言する。


「まぁ、騎士が全員封印から解かれたってんなら、つまり──そういうことだろうな」


「……“全滅”」


 ぽつりとつぶやくモモカさんの見開いた目に浮かんだ瞳は(くら)く揺れていた。


「本当だったらすぐに向かって状況を確認したいところだったけど、最近デカい事件が複数同時多発しててね。

 そこに回せる団員がいなかったんだ。

……まったく情けない話だよ」


 不知火さんは水色がかった銀色の前髪をかきあげ、力なく笑った。

 彼女のかきあげた前髪がフワリと垂れ下がり、元のアシンメトリーな髪型に戻ると、今度は凛々しい顔つきへと変わった。


「だけど、後手(ごて)に回るのはこれでもうお(しま)い。

 冒険者失踪事件もなんとか無事に片付いたワケだし、ここからは本格的に動ける! 

 あなた達の力も貸してもらうから、そのつもりで!」


 途端、ヴェルカンが引きつった顔になった。


「強制かよ」


 不知火さんは腰に両手をあて、堂々とした態度で答える。


「当然じゃない。

 ここまで超重要な極秘情報をあなた達に開示したんだからさ。

 あなた達も諦めて私たちと同じ舟に乗る! いい?」


 そう告げた不知火さんはリクト達一人一人の目を鋭い眼差しで順々に見やり、マーテルさんのところで、険しかった不知火さんの表情が柔らかくなった。


「あなたは大切なお店をこれからも守ってください。

 あ、でも秘密はちゃんと守ってもらいますが」


「はい……! それは勿論」


 と言って、マーテルさんは苦笑いを浮かべ、申し訳なさそうに一同を見やると、拳を軽く握りしめてみせた。


「皆さんの健闘をお祈りしてます!

 私もなにかお役に立てることがあれば、全力であなた方を支援致しますので!」


「それはとっても心強いです」


 モモカさんは両手を合わせて温かく微笑み、「私達も精一杯がんばります!」と告げると、マーテルさんは力強く頷き、会議室をあとにした。


「不知火様。

 これからどう動くつもりですか?」


 レントはいつになく神妙な顔つきで不知火さんに問いかけた。

 リクトはレントの顔を不思議そうにまじまじと見つめた。

 これまで飄々(ひょうひょう)とした態度であった彼が、不知火さんに対してだけ(かしこ)まってる姿が別人のようで、リクトは違う人格に身体を乗り換えられたんじゃないかと本気でそう思った。


「そうだね」と不知火さんは言いつつ、会議室中央に設置された卓上に地図を広げる。


「今は時間が惜しいからここは四つの班に分かれて、それぞれの封印場所に向かってほしいところなんだけど」


 不知火さんは(ひたい)をかきながら苦笑する。


「ぶっちゃけると、再封印の儀式をおこなえる人材が足りないんだよね。

 だから、まずは儀式を執り行える上位の神官を見つけるのが先かな」


「あのう。その件ですが……」


 と言って、ルースさんが前に出た。


「その上位神官のことですが、わたくしに心当たりがあります」



* * *



「くはぁ~」


 寝室に戻ったリクトはベッドの上にどさりと倒れ込んだ。

 寝室に待機していたエレウはリクトが戻ってくるやいなや、リクトの周りを元気よく羽ばたいている。


「ごめん、エレウ。

 今は疲れて動けないんだ……少し寝かせて」


 しかしだ。

 こうして、気兼ねなくベッドに横たわるなんていつぶりだろう。

 ここ数週間で起きた出来事がまるで一年のように感じる。


「旧敵が近くにいるというのにずいぶんと余裕だな、新たな(あるじ)よ」


 その声にはっとして、リクトは飛び起きた。

 それに呼応するようにエレウがリクトの肩に飛びつく。

 声の主はアヴィスだった。

 彼女は寝室の片隅にある机の上に腰かけ、退屈そうな面持ちで腕を組みながらリクトの寝姿をじぃっと見つめていた。


「ついてきてたなら、一声くらいかけてよ」


「そうか。それはすまなかったな」


 謝罪の言葉を述べたアヴィスだったが、その言葉にはなんの感情も入っていなかった。


「改めて聞くけど、お前はどうして味方になってくれたんだ?」


「さあな」


「え?」


()にも己の身になにが起きたのか、具体的に説明できる持ち合わせがないのだ」


 そう告げたアヴィスは机から身を離すと、部屋の中を歩き回った。


「余はあの日、お前との戦いで壊れてしまった肉体を捨て、余が器にふさわしい新たな肉体を探し回った。

 だが、どこからか銃声が鳴ったかと思えば、このか弱き器の中に入ってしまっていたのだ。

 どういう理屈かは皆目見当(かいもくけんとう)がつかんがな」


……もしかして。


 リクトは一つ、思い当たる記憶を掘り返した。

 バイセルンで解き放ってしまったのに姿を現さなかったレアの召喚獣ってアヴィスだったってことか……?

 しかし、そう考えると、色々とつじつまが合う。

 レア召喚獣を入手した際、ゲームの時ではレア召喚獣と一度戦闘に突入した。

 レア召喚獣を倒す事が出来れば自分の召喚獣として使えるようになった。


……でもあの時、バイセルンでアヴィスを倒したのは自分じゃない。


 ギレオンとの戦闘で力を消耗したところに一発ダメージを与えただけだ。

 でも、その時のダメージで自分がアヴィスの所有権を得たって考えれば納得はできる。


……ちょっと卑怯(ひきょう)な流れではあるけど。


「それと気になったことがもう一つあるんだけど、いい?」


「なんだ」


「どうしてお前はゲームの中にいたんだ?

 他の皆はこの世界に封じられてるんだろ?」


「……余が選んだ」


「『選んだ』って……え?!

 封印場所って選べるもんなの!?」


 すると、アヴィスは窓の前にたたずみ、うっとりとした表情で目を細め、窓越しに夜空を眺めた。


「闇の主は寛大な御心の持ち主であった。

 我らに居場所を与えてくれたのだ。

 そこで、いくつかの世界を見せてもらった。

 そのなかでとくにひと際興味をひかれたのが、お前のいた世界だ」


「『《灰と彼方の明日(アスタリオン)》』か……」


「闇の主が言っていた。

 あの空間はこちらの世界の記憶が流れ出て作り出された仮の世界だと。

 一度そこに踏み入れたら最後。

 永遠に終わりが来ない場所だと。

 余には断る理由が無かった。

 余には最適な居場所だと思ったのだ」


「? ……どこからへんが?」


「お前の世界では『ネットゲーム』……と呼ぶのだろう?

 そのなかでは、死というものが存在しない。

 ただ人形のように身を任せて操られるだけで、永遠に娯楽の舞に興じることができる。

 なんとも素晴らしいじゃないか」


「そういうもの?」


「規則性に縛られた戦闘上とはいえ、毎度のことニンゲンごときにやられなけばいけないのは(しゃく)だったがな。

 しかし、勝利だけの戦いでは何も学べん。

 敗北の味を知るのもまた一興(いっきょう)というものだろう?」


 封印されること自体にはあまり抵抗がない……?


 アヴィスの考え方に意外だなと感じつつも、先ほどの再封印の作戦になんの反応も示さなかったのはそういう事だったのかと少し納得した。

 それでも……とは思う。

 あの時の不知火さんの決断は愚考だったんじゃないか?

 アヴィスがいる前で作戦の概要を話すなんて。

 不知火さんのことだからたぶん召喚獣としてリクトとの意識がリンクしてる状態であれば、リクトの耳を介して作戦を聞かれていただろうし、反抗の意思をもったところで、リクトの制御下にあればとりあえずは大丈夫と踏んだのかもしれない。


「しかし、ニンゲンの遊びに付き合ってやるのも退屈しのぎにはなった。

 とくに技術もないのに何度も立ち向かってくる雑魚の心をへし折った時の感覚は言葉にならないほどの愉悦だったぞ」


「……ソウ、デスカ……」


「む? なんだ。沈んだ顔をしているな」


「いえ。なんでもないです! お気になさらず!」


 首をブンブンと横に激しく振り、あわてて話題を変えた。


「それより、今のお前はどういう状態なんだ?」


「ん? それはどういう意味だ?」


「だって、いちおう僕の召喚獣になったんでしょ?

 そのわりにはこうやって自由に動けてるようだし、召喚継続時間もとっくに過ぎてるよね?

 どうして駒に戻らないのか気になって」


 すると、アヴィスは眉を八の字にして呆れたように肩を落とした。


「新たな主よ……。

 まさかとは思うが、まだ気づいてないのか?」

 

「「?」」


 エレウとリクトは目を合わせてお互いに小首を傾げた。

 そこで、ある事実を知った。

 リクトは知らぬ間に“レベルアップ”していたのだ──。

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