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00 ユメの始まり

 人は誰しも夢を見る──。


 億万長者になりたい。

 アイドルと結婚したい。

 プロのスポーツ選手、動画配信者、声優になりたい。

 数えきれないほど生まれては消えていく夢の中で、近年(きんねん)増えつつあるのが“異世界への憧れ”だ。


 こことは違う場所──

 知らない異文化との交流──


 普段の暮らしでは手に入れることのできない刺激にあふれた世界で、自由気ままに暮らす日々。

 そんな夢の体験も今ではVRやARなどで疑似的(ぎじてき)にだけれど、簡単に(かな)えることができる。

 そうやって知らない世界に()れることで、目の前の日常に向き合い、今日を生きる(かて)とするのだ。


……けれども所詮(しょせん)、夢は夢。


 異世界転移とか異世界転生なんてのは結局、誰かが頭の中で考えた絵空事にすぎない。

 普段(ふだん)から物事(ものごと)に対して、そんな()ややかな目で見ていた自分が、まさかあんな体験をする事になるなんて、話したところできっと誰も信じてはくれないだろう。


 いや──

 今となってはこの“声”すら、誰にも届くことはない。

 なぜなら、もう()()()()()()()()()()()()

 夢物語だと思っていた本物の“異世界”に──。



 * * *



 始まりはごくありふれた日常のなかで起きた。

 VRオープンワールドRPG《灰と彼方の明日(アスタリオン)》(別称:アスカナ)──

 それが今から半年前、僕がいた世界の名だ。


 VRゲームが主流(しゅりゅう)の時代。

 そのほとんどが《アスカナ》を開発したメーカー、ストレイシープ社が世に送り出したものばかりである。

 他のゲームメーカーも当然(とうぜん)(ごと)く、VRゲームに力を(そそ)いでいたが、ストレイシープ社が手がけた作品とは(くら)べ物にならなかった。

 ストレイシープ社──以降は『S社』と記述(きじゅつ)する──のVRゲームはどれも、世界観への没入度(ぼつにゅうど)が異常に(たか)かった。

 それはまるで、本当に異世界の住人に転生したかのような体感を味わえるほどに。


 そして、S社には謎も多い。

 圧倒的現実(リアリティ)を実現させた技術はS社が独占(どくせん)しているらしく、どのゲームメーカーも同じレベルには(いま)到達(とうたつ)していない。


 創業者(そうぎょうしゃ)や開発スタッフは顔出しを一切(いっさい)しておらず、本社がどこの国にあるのかも不明という始末(しまつ)だ。

 そういった秘密主義(しゅぎ)のメーカーなので、ネットには調査部隊が入手した情報をかき集めた考察サイトなるものもいくつか存在しているらしい。

 けれども、僕はそういう事に関してはまったくの無関心だった。

 物語の舞台裏を知ってしまうと、途端(とたん)(しら)けてしまう、そんなタイプ。


 初見プレイの感動は大切にしたいから、ネットの情報なども可能な限り()けた。

 このこだわりはRPGを一度でもやった事がある人なら分かってくれるはずだ。

 しかし、そんなゲームへのこだわりと仕事の多忙な時期が(かさ)なってしまい、他のプレイヤー達が得た情報範囲とプレイ進行度はだいぶ差が(ひら)いてしまったが。


 閑静(かんせい)な住宅街の一角(いっかく)(たたず)んだ一軒家(いっけんや)の二階。

 階段を(のぼ)った奥の部屋に“アバターキャラの中身”となる僕、釘宮凜來(くぎみやりく)がいる。

 桜の花びらが外の世界を(いろど)り、春の到来(とうらい)世間(せけん)が浮かれるなか、釘宮凜來は俗世(ぞくせ)との(かか)わりを()つようにして、自室のベッドの上で仰向(あおむ)けに寝転(ねころ)び、奇妙なドーム型の機械に頭を突っ込んでいる。

 その姿はさながら小型のMRI検査を受けている患者(かんじゃ)にも見えて、我ながら滑稽(こっけい)だなと思った。


 アラサーの青年という本来(ほんらい)の自分を忘れ、少年姿の《リクト・サシューダ》という別人になりきり、世界を冒険をする。


 今日も、

 明日も、

 明後日も──


 それがいつまで続くのかは分からないが、夢の時間が今すぐに終わることはない。

 少なくとも、()()()()そう信じていた──。

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