第6話『ロットの身体』
「う…うあああああ!!貴様、よくも!!」
アオイは剣を握り締めてダイケツに向かって駆ける。
「アオイ。落ち着け」
「え?」
向かって行こうとするアオイの着物が掴まれる。
「ロ、ロット殿、生きているのか?!」
「おう。俺は大丈夫だ」
「大丈夫って…そんなわけがないだろう!大剣が突き刺さっているんだぞ!」
「本当に大丈夫なんだよ」
何事もないようにロットは立ち上がる。アオイは立ち上がったロットに違和感を感じた。
「アオイ、悪いけど剣を引き抜いてくれないか?」
「え?ああ。う、うむ…」
アオイは戸惑いながらもロットの背中に突き刺さった大剣を引き抜こうとする。
「ぐぬぬぬ…!」
片腕しかない少女のアオイには重過ぎて引き抜くことは出来なかった。
「すまない、拙者の力では…」
「そうか、仕方ない」
「ロット殿?」
ロットはダイケツの目の前まで歩いて行く。
「お前が投げて突き刺さったんだから、お前が引き抜けよ」
「なっ…!き、貴様!なぜだ?!なぜ生きていられるんだ!!」
「そうだな…引き抜いて、アオイの剣を返してくれたら教えてやっても良いぞ」
「なに…?!」
「俺が死なない秘密が分からないとお前は俺に一生勝てない。その前に武器がないとそもそも勝負にもならないけどな。どうだ?お前にはメリットしかないと思うけど?」
ダイケツは腰に差していたアオイの二本の刀をロットの後ろに投げ捨てる。
「これで良いんだろ」
「ああ。…どうぞ」
ロットはダイケツに背を向けて大剣を引き抜かせる。
ダイケツは大剣を引き抜くと不思議そうに大剣を見つめたあと、後ろを向いているロットに大剣を構える。
「突き刺しても死なねぇなら、これならどうだ!!」
ロットの背中にダイケツは剣を振り下ろす。が、ロットの体をすり抜けて大剣は地面を叩きつける。
「なに?!!」
「無駄だって。まあ、返してくれたし教えてやるよ。俺の秘密をな」
ロットはアオイの元へと歩きながら話す。
「俺はあるダンジョンで剣を見つけた。その剣は鞘を持っている者が考えた形に変形する剣だった」
「なんだと?」
「まさか…あの黒い剣?」
ロットの腰に差してある鞘に収まっていない剣をアオイとダイケツは見る。
「し、しかしロット殿は鞘を持っていないではないか!」
「ああ、俺は考えた。鞘を奪われてしまったらどうしようと、だから俺は誰にも取られないように…鞘を食った」
「鞘を…食べた?」
「そして鞘を食った影響で俺は剣で斬られようが刺されようが、その剣を体に収めちまう鞘の体になったんだ」
「鞘を食って、鞘になっただと?!」
「ああ。だからお前の大剣は突き刺さったんじゃなく、俺の体に収まったんだ。俺の背中を斬った時も一瞬だけ収められたのさ」
呆然とする2人をよそに、ロットはアオイの剣を拾いながら歩き続ける。その時にアオイは違和感正体が分かった。突き刺さっているはずの大剣が前から出ていなかったのは体に収まっていたせいだったのかと。
「アオイ」
「な、なんだ?」
「剣があればダイケツに勝てるか?」
「う、うむ」
「だったら倒してこい」
「っ!うむ!任せておけ!」
アオイはロットから刀を受け取るとニヤリと笑う。
「ダイケツ!拙者と一対一で勝負しろ!貴様が勝てれば見逃してやろう!」
「チッ…舐めやがって!その約束、本当だな!」
「ああ。拙者は貴様のように嘘はつかない」
「フンッ!」
アオイとダイケツは剣を構えて対峙する。
「参る!!」
「ウォラア!!大大斬!」
「あまい!」
「チッ!」
ダイケツの大振りはをアオイはしゃがんで避ける。
「ミカヅキ一刀流!!」
刀を逆手に持ったアオイは高く飛んで縦回転する。
「『華麗羅威蘇!!』」
「ガアッ…!!」
アオイは上から全体重を一本の刀に乗せる。
上からの攻撃に備えて防御体勢になっていたダイケツの大剣に受け止められる。
「残念だったな!攻撃があからさま過ぎなんだよ!」
「残念なのは貴様の考えの方だ!この技は絶対不可避の武器破壊の技だ!」
「武器破壊、だと…!!」
大剣の真ん中にヒビが入り始める。
「そして拙者が攻撃を当てた場所をよく見ろ!」
「こ、このヒビは?!!」
「そうだ!拙者が御無羅威蘇で与えた大剣のヒビだ!」
「俺の大大剣が…!」
大剣が真っ二つに折れ、ガランっと地面に落ちる。
「武器が折れてしまっては勝負にはならない諦めろ」
「き、貴様なんぞ…!!この折れた大大剣で十分だ!!」
「馬鹿な奴め。ミカヅキ一刀流『御無烈!!』」
「アギャアアアア!!」
半分になった大剣を持っていた腕の肘から下が切り落とされる。
「拙者も貴様程度なら片腕だけで十分だ」
「こ、このガキ…!!」
「拙者の勝ちだ。もう一度言う、大人しく諦めるのだな」
「ク、ウウゥ…」
刀を突きつけると観念したのか、ダイケツは大人しくなる。
「アオイ、お疲れさん…ってお前、なにやってんだ?」
「ッ…」
ダイケツがコソコソと切り落とされた腕に嵌められていた腕輪を外そうとしていた。
「これがそんなに欲しいのか?」
「あっ!!」
ダイケツが片手で外すのに手こずっていた腕輪をロットは簡単に外して奪い取る。
「これは…もしかしてダンジョンの宝か?」
「ッ……」
ダイケツは何も言うまいと口を紡ぐ。
「…まあいいや。なあ、アオイ。アオイが良かったらだけど俺と一緒にダンジョンを」
「ロット殿!もう一人の男が馬で逃げようとしているぞ!」
「なっ!大事な時に…!夢幻剣 二之型『縄!』」
ロットは剣を細く長く変形させ、馬に乗って走り始めた貴族の体に上手く引っ掛けて捕縛する。
「よし!捕まえた!」
「ギエエエ!!」
ロットはポケットに腕輪を仕舞うと馬から貴族の男を引きずり落とす。
「おお!さすがロット殿!」
「アオイ。俺はコイツらを縛っておくからアオイは馬車に乗っている人たちを助けてやってくれ」
「う、うむ!任せたぞ!」
アオイはトコトコと馬車へと駆けていった。
「さてと…抵抗しようものなら殺す。良いな?」
「は、はい!」
「グ…!」
「お前のせいで誘えなかっただろ!」
魔法の鞄から縄を取り出して貴族の男をキツめに締め上げる。
しばらくしてダイケツと貴族の男を縛り終えるとアオイが戻って来た。
「ロット殿、無事に人質は救出し終わったぞ」
「おう。この馬車で街まで行くとするか」
「うむ」
貴族の男が乗って逃げようとした馬も戻ってきたので、2台の馬車で街に行くことにした。