第9話 『冒険者ギルド(後編)』
「自己紹介をしてなかったな。私はギルド長をしているウィークイン・クォーツだ」
ギルド長室に案内されてソファに座るなり自己紹介をされる。
「早速だが、君は二年の間ギルドに来ずになにをしていたんだ?それにその持っている宝具についても聞きたい」
「俺は二年前…」
ロットは二年前にこの街に来てからのことを全て話した。クレインに裏切られた事も二年もダンジョンに籠もっていたことも、自身の体が鞘になっている事も全て話した。
「クレインめ!まさか一般人を使ってダンジョンを攻略するとは!!」
ドンとクォーツは自身の太ももを思い切り殴る。
「当時、クレインはゴーレムを倒して宝を手に入れたと言っていた。そして私はその話を完全に信じていた!アイツらのレベルで攻略出来たことをもっと疑うべきだったんだ!」
ロットは自分のことでクォーツが怒ってくれていることが少し嬉しかった。
「クォーツさん、俺はアイツらを見つけてギャフンと言わせたいんですけど、何か良い方法はありますか?」
「それならアイツらを牢獄にぶち込んでやれ!私が一筆書いてやる、明日の朝に私のところに来い。準備をしておいてやろう」
「はぁ…」
なんのことかは分からないがロットは返事をしておいた。
「にしても、ダンジョンの地下に神話級の宝具があるとはな」
「神話級?」
「なんだ、知らなかったのか?夢幻剣は世界に10個しかない言われている神話級の宝具だ」
「えーーー!!!」
五十年ほど前にグラングド・ガングが発見したダンジョンの宝具図鑑と呼ばれる宝具。
その図鑑を考古学者が解読した結果、世界には神話級と呼ばれる宝がダンジョンに10個存在されると記されていた。
「まさかこの剣が神話級の武器だったなんて…」
「私も生きている間に神話級の武器を拝めると思っていなかったよ」
「もしかしてギルド長は鑑定の魔法を使えるんですか?」
「そうだ。鑑定魔法は希少だからな、ギルド内には私ともう一人しか使える者はいない。と言ってもこのギルドでは等級は分かっても効果までは分からないがな」
目を細めてクォーツは夢幻剣を見つめる。
「効力が分かっていれば夢幻剣を持ち上げようだなんて思わなかった。他にも能力があるのか?」
「ええ。どんな形にも変形するんです!」
「それは凄い!是非見せてほしい!」
クォーツが話し終わると同時に扉がノックされる。
「ロット様とアオイ様のギルドカードが発行出来ました」
「おっと、神話の力は次の機会にでも見せてもらうとしよう。また明日の朝にギルドに来てくれ」
「はい!よろしくお願いします!」
部屋を出ようとするロットにクォーツはあることを思い出した。
「ロット。君の夢は何かな?」
「俺の夢ですか?俺の夢は探索を制覇した者になることです!」
ギルド長室を出て行ったロットの背を見送り、一人残ったクォーツは机に立て掛けてある写真を見つめる。
『なあ、クォーツ!俺と一緒にダンジョンを攻略しないか?!』
『くだらない。ダンジョンなんて攻略してどうなるって言うんだ』
『決まってるだろ!探索を制覇した者になって俺はさ…』
『はっはっはは!!くだらない!!』
10代の頃、なんの夢もなく。生きる気力もなく。本ばかり読んで過ごすクォーツを外の世界に連れ出しくれた人物こそガングだ。
ガングとのダンジョン攻略の功績を買われて40代で引退した自分は今のギルド長の仕事に就けた。
『クォーツよ!ワシの孫がお前のギルドに来るからよろしく頼むぞ!』
『なに?急だな。お前の孫か…ロクでもないんだろうな』
『失礼な!ワシと同じ夢を持った孫じゃぞ』
『やはり、ロクでもないな…お前と一緒で』
突然訪れて来たガングに頼まれてから数週間経っても孫は現れなかった。黒髪でロットという名だということしか分からず探しようがなかった。
『ワシの孫は来ないか…』
『ああ。一年経つが来ていない…なあ、ガング』
『ロットは必ずどこかで生きている!ワシには分かるんじゃ!』
『……』
そう言いガングが部屋を出て行ってから一年が過ぎ、ロットは現れた。
「ガング言う通りだったな。お前と同じ夢でロクでもないデカイ夢を持ってたよ」
クォーツは若かりしガングと自分が作ったパーティーの写真を眺めて微笑む。