1話『ダンジョンと裏切り』
『ダンジョン』
数百年前に突如世界中に現れた地下迷宮。ダンジョンの奥には人知を超えた宝が眠っていると言われている。
そのダンジョンに命を賭ける者を人々は『宝を求める者 』と呼んだ。
「見えた!街だ!」
黒い髪と黒い瞳を持つ少年の名はグラングド・ロット。
十五歳になり田舎の村を出る際に祖母から記念に貰った革の鎧を装備して街に向かった。二日間歩き続けてやっと街へと辿り着いた。
「ギルドは……」
「ねぇ、きみ」
街に入ったロットは宝を求める者になる為に、ダンジョンを探索するライセンス貰える探索者のギルドへと向かう道中に一人の若い男に声をかけられた。
「登録をする前に手柄を立ててからギルドに行った方がランクが上がりやすいよ」
話を聞くと彼はベテランの宝を求める者だそうだ。
ロットは助言をくれた宝を求める者からパーティーに誘われた。Dランクの宝を求める者『アイアンハート』のパーティーからだ。ロットは自身の運に感謝した。
「本当にありがとうございます!皆さんのような上級者の宝を求める者の方と……本当に光栄です!」
ロットはパーティーに参加し、森の奥にあるダンジョンに来た。
この森の奥にあるダンジョンは未だに攻略されておらず、まだ宝が眠っているダンジョンだそうだ。
「ロット君は無属性の魔法しか使えないのか……大変だろうけど頑張ってね」
ダンジョンの4階層に到着してピリピリとする空気を和ませようと話したのはリーダーのクレインだ。金色の髪に整った顔。チーム名を表すような鋼のしっかりとした鎧を装備している。
「はい、生活魔法とシンプルな補助魔法しか使えないので……」
ロットは運が良かった。大したことない魔法しか使えないのに誘ってもらえたのは祖父が残してくれた魔法の鞄のおかげだ。
魔法の鞄には荷物が無限に入る。なのでロットは荷物持ちとしてパーティーに加わることができた。
「まあ鍛えたら将来どうなるか分からんからな、頑張れよ」
「はい!」
頭を剃って坊主にした筋骨隆々の男。格闘家のジョンソンが励ましてくれる。他のメンバーのクレイン含めた5人も笑って頷いてくれる。
「ありがとうございます!」
こんな優しいパーティーに誘ってもらえてロットは心の底から幸運だと感じた。
「この部屋だな」
9階層に到着し、3メートルほどの大きな扉の前でクレインが立ち止まる。
ここまで激しい戦いはあったものの、僧侶の格好をした男性。シリウスの回復魔法のおかげでパーティーメンバーは無傷で来れた。
シリウスが居たおかげもあるが、まるで一度来ことがあるかのように迷わずに辿り着いたことにロットは不思議に思ったが、Dランクの宝を求める者なのだから迷わなかったのだろうと楽観的に考えた。
「俺が鍵を開けますね」
盗賊の格好をした少年。斥候のギレンが扉の鍵穴に針金を差し込む。
「ロット君、離れていた方が良いわよぉ」
トンガリ帽子とローブを着たお姉さん。魔法使いのエミラがロットの肩を背後から掴み後ろに下げる。エミラの胸が背中に当たりロットは少しドギマギする。
「すみません……」
「ギレンは3割くらいの確率で失敗するから危ねぇぞ」
横に立っていたライトアーマーを装備したお兄さん。剣士のマガンがギレンを小馬鹿にする。
「うっせぇ!よっし……開いた!どうだ!」
ギレンが誇らしげに扉の解錠に成功する。
「クレインさん……もしかしてここは?」
「ああ。この部屋はこのダンジョンの宝がある部屋だ」
「っ……!!」
運が良い。ロットは興奮で目を見開く。
宝を持ち帰ることで宝を求める者の価値は上がる。その機会をくれたアイアンハートには感謝しかない。
「よし行くぞ!」
扉が開かれる。と同時にロットは部屋の中に突き飛ばされる。
「え?」
驚きのあまり言葉が出なかった。後ろを振り返れば扉が閉まっている。
『汝ら、宝が欲しければ生贄を捧げよ』
部屋の奥から巨大な石の巨人が近付いて来る。
「ゴーレム……」
ロットは祖父から聞いたことがあった。ダンジョンには宝を守るゴーレムと呼ばれる石の巨人がたまに守っていることがあると。
「た、助けて!!クレインさん!!ゴーレムがいます!!助けて下さい!!!」
ロットはがむしゃらに扉を叩く。
ゴーレムは上級のダンジョン探索者がチームで戦わないと勝てないことも祖父から聞いている。
『汝ら、宝が欲しければ生贄を捧げよ』
「生贄はそいつだ!だから宝をよこせ!」
「え……?」
ロットは扉の外からのクレインの言葉の意味が分からなかった。
呆然とするロットにゴーレムが近づいて来る。
「生贄……俺が?」
「悪いな、ロット君!この前来た時に生贄をくれって言うからどうしようかと途方に暮れていたんだ。でも君を街で見た時にピーンときたんだ」
「そんな……」
「どうでもいいガキを生贄にすれば良くないかってさ!だから君を誘ったんだよ!」
ロットはショックで言葉が出なかった。
「まだ誰にも攻略されてなくてラッキーだったよ。君が良いタイミングで街に居てくれて俺たちは本当についてた」
『生贄は試練を超え。更なる宝へと導かれん』
「助けて!!誰か!助けてー!!」
ロットはゴーレムの大きな岩の手で掴まれ必死に逃げようとするが無駄だった。
ゴーレムはロットを掴んだまま、部屋の奥にある扉へと歩き出す。
「やったー!宝だ!」
扉が開くとアイアンハートのメンバーは部屋の中央の祭壇に積まれた金銀財宝に飛び込んでいた。
「ありがとうな〜ロット君!」
「君のことは忘れないよ〜!!」
「にしてもエミラさん。胸押し当てたりしてサービスし過ぎじゃないですか?」
「だって私たちのために死んじゃうんだしぃ、ちょっとくらい良い思いさせてあげないと〜」
「そりゃあ違いねぇ!ギャーーハハハハハハハ!」
「さっさと山分けしようぜー!!」
それが閉まっていく扉からロットが見た最悪の光景だった。
「ちくしょ……う!」
ゴーレムに掴まっているロットは涙を流しながらその光景を睨むしかなかった。