高崎と大野さん
フローリングの床を助走をつけて走り、靴下でどれだけ滑れるかというゲーム。高崎はメッシュ状の夏用靴下で玄関までの道のりを滑った。高崎が想定していたよりもはるかに速度が乗り、止まることができずにドアノブに衝突した。その拍子に扉はガチャっと開き、玄関先に丁度居合わせた隣の部屋に住む大野さんの顔に高崎んちの玄関扉が見事に直撃した。先日余った引っ越し蕎麦を頂いたばかりなのにもかかわらず、何たる仕打ちだろうか。しかし罪悪感に浸っている場合ではなく、玄関扉を浴びせられた大野さんはうずくまって顔を押さえている。声をかけるも、大野さんは悶絶している。どうしたらいいかわからず救急車を呼んだ方がいいか尋ねた。大野さんは悶絶していた。俯いた顔を覗くと、顔を押さえた手から血が滴っているのがわかった。馬鹿野郎気づくのが遅いぞ高崎。急いでティッシュが必要だと気づき部屋に戻りティッシュがあるリビングに向かった。ここで気づく。高崎は今夏用のメッシュ靴下を履いている。大野さんを出血させたのもメッシュ靴下だが、急いでティッシュを持ってくることで少しでも汚名を返上する。高崎はフローリングの床を滑った。速い。一度外に乗り上げたとはいえ先ほどと変わらぬスピード。リビングのドアは開いており、テーブルの上にあるティッシュまでメッシュで秒だ。待っていてくれ大野さん、高崎がすぐに止血してあげる。そして高崎は流れるようにティッシュ箱を手に取り、そして流れるようにベランダから落ちた。