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どぼどぼと世界にあふれる水の音に、私は母の冷たくなった時のことを思い出していた。同じように、どぼどぼと世界は水であふれ、私たち兄弟は腹をすかせていた。いつも獲物を持ってきてくれる母は冷たくなって動かなくなり、こうなるともう二度と動かないことを、本能で知っていた。
最初こそ悲しい悲しいと鳴いて、身体を擦り寄せていた兄弟達も、一匹また一匹と姿を消して。私もまた、その一匹となり、この優しくない世界を歩き通した。
まだ遠吠えも満足に出来ない子犬であった私を、道行く『あしなが』たちはついでのように後ろ足で蹴り飛ばして歩いて行った。そんな中で私を拾い、ただ一匹、優しくしてくれたのが主である。温かい飯。温かい寝床。そして、またあの前足で私の頭をなで回すのである。
あの器用な前足が好きであった。今どうにも冷たいこの身体を、温めてくれまいかと、そう思いながら、代わりのようにこちらをギュウギュウと締め付ける熱に、くたりと身を委ねる他は、なかった。